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36 役目を終えた九十九神

「ユーリ大丈夫?」


 きっとハガネはオレの手を握りたいんだろうが、自分の手では温まらないのでその役目をアリシアに任せている。

 アリシアの手は肉球が可愛らしくついていて柔らかい。


 クリームの魔法でダンジョンから脱出したオレ達。


 氷竜のブレスを受けたオレの手足はハガネの小さな防御障壁では防ぎきれず、カチンコチンに凍ってしまっていた。


 クリームの火球でとかされたあと、オレはリカルドに担がれ、アリシアに手を握られ、クリームに治癒魔法をかけ続けられ、カンナとキヅチにフロストアロエを塗り込まれていた。


 要はオレ以外はみんな無事ってことだ。


「何笑ってるんですか、みんな心配してるんですよ!」


 あら、これクリーム本当に怒ってるな。


「みんな無事だったみたいだからさ、良かった」

「ありがとうございます。でも、ユーリ様が傷つくのも嫌ですよ」


 アリシアはオレの冷たくなった手をさすっていた。


「アロエが効くよ」

「すぐ治るよ」


 カンナとキヅチもアロエを塗り込みながらオレを元気づけてくれた。


☆★


 あれ、ここはどこだろうか。

 随分立派な部屋だな。天井は高く、新しい木材の匂いがした。

 柔らかな布団は、最近干したのだろうか。

 フカフカだった。


 手足に疲労は残っているが、動かないってことは無い。

 帰って来たんだな。


 よっと。

 アイタタタ。起き上がると足が痛い。

 

 気を利かせてくれたのか枕元に杖が置いてあった。

 だれもこの部屋にはいないけど、部屋の外から声がする。


 そうか、みんな屋敷を作っているんだな。


 足を引きずりながら、杖をついて部屋を出た。


 ガララ。


 扉を開くと、みんなで飾り付けを行っていた。

 ハガネがオレの元へ走り寄ってくる。


「ユーリ」


 遠慮なく肩を借りよう。


 みんなは大広間の飾りつけを行っていた。

 ってことは、もう完成したのかな。


「カンナ、キヅチ」

「「はーい」」


 二人は作業していたみたいだけど呼ばれたから走ってきたみたい。


「もう、完成したの?」

「出来たんだよ」

「出来たよー」


 二人は頭をこちらを向ける。

 撫でてあげた。


「ありがとう。頑張ったな」

「「えへへ」」


 二人ともとても嬉しそうだ。


「ユーリ様」


 クリームが近づいてきた。


「回復魔法ありがとうな」

「礼を言うのは私たちの方です。我々はみな無事でした。

 でも、もう無理はしないでくださいね」


 クリームがオレを気遣ってくれた。


「ははは。そうするよ」


 クリームがタメ息をついた。


「きっとまた無理をするんでしょうね。だから、支えていきますよ」


 クリームがハガネの反対の肩を支えた。


 二人でオレのための座席へ連れて行ってくれた。


「完成式でもするの?」


 オレがクリームに聞く。


「ええ。もう屋敷はできました」


 カンナとキヅチが入ってくる。


「「完成しました、ユーリ様」」


 しずしずと、頭を低くしてオレの元へ来る二人。

 いつの間にやら大きくなったように見える。

 たぶん錯覚なんだろうね。身長とかは変わっていないんだから。


「ユーリ様。模型通りのお屋敷できました」

「出来ました」


 カンナとキヅチがオレに報告する。

 珍しく敬語なんか使っているぞ。

 ははは。大きくなったなあ。


「みんなで大事に使ってくれたら、私たちはとても嬉しいです」

「丈夫に作ったよ。はしゃいでも、大丈夫だよ」


 うんうん。全部見てないけど、カンナもキヅチも頑張ってたもんな。

 

 ハガネとクリームは瞳に涙を浮かべている。

 なんでかな、二人がとても頑張ったからかな。


 あれ、なんだか、ダンジョンに入った時よりしっかりメイクしてないか二人とも。


 ハガネとクリームは二人を抱き締めた。


「頑張りましたね、お前たち」

「頑張ったね」

「「ハガネ、クリーム様!」」


 みんなで抱き合っていた。


 感動するなーって眺めていたら。

 あれ、カンナとキヅチがなんだか薄くなっているような……

 カンナとキヅチを通して後ろの景色が見えるけど、気のせいだよな。


「「ユーリ様、ありがとうございました」」


 カンナとキヅチが二人でオレにうやうやしく頭を下げた。


「大きな仕事をさせてもらっただけでなく、一緒に遊んでくれました」


 カンナがオレに話す。


「外の世界も見せてくれました。ハガネはユーリ様とがんばってて偉いと思いました」

「キヅチ……」


 ハガネがキヅチを抱き締める。


「これからもハガネが支えるの」

「頑張ってね、ハガネ」


 キヅチとカンナがハガネに激励を送る。

 どんどん、二人が薄くなっているように見えるが……


「クリーム‼」


 オレはクリームを呼びつけた。


「何でしょうか」

「カンナとキヅチが薄くなっているけど」

「役割を終えましたからね、それが私たち【九十九神】の宿命です」

「……え?」


 オレはクリームが何を言っているかわからなかった。


「道具はその役目のために存在します。

 【九十九神】は役割を持って、神格を得ます。

 ユーリ様の役に立つために」


 クリームが訥々とオレに伝えた。


「役目を終えたのだから、道具に戻ります。

 できれば褒めてあげてください。

 一世一代の仕事をした、あの子たちのことを」


 クリームは涙を溜めていた。

 クリームは前にも一世一代の仕事と言っていたな。

 オレはそれを大袈裟な話だと一笑に付した。


「カンナ、キヅチ!」


 オレは叫んだ。


「幸せでした。ユーリ様。

 道具として、一世一代の仕事をさせてもらえること。

 これに勝る幸せはありません」


 カンナがオレに礼を言う。


「お風呂、ユーリ様が言う様に大きめに作ったよ。

 温まってくれると嬉しいな」


 キヅチがオレに笑いかけた。


 カンナとキヅチの存在は時が経つごとに薄くなっていく。


「ふ、ふざけんなあああああ!」


 オレは大声で叫ぶ。


「仕事が終わったからってなんだよ、屋敷が出来たからって何なんだ。

 オレが消えていいって言ったのか。

 言ってないだろクリーム!」


 嫌だ、嫌だ!


「役割を終えた時が、道具の、【九十九神】の消えるときです。

 私たちはそのためにいるのです」


 クリームは唇を噛みながら答えた。


「道具ってなんだよ……オレはカンナとキヅチと話したじゃないか。

 一緒に笑ったじゃないか。

 家族じゃないか

 消えるなんて許さねえぞ!」


 オレは叫んだ。

 ずっと一緒にいられるんだってそう思ったのに。


「役割を終えた、何の役にも立たないものと一緒に居たいというのですか?」


 クリームがオレに問いかける。


「話をしただろ。ダンジョンにも一緒に行ったんだ。

 もっと、いろんな場所だってオレがつれて行ってやる。

 一緒に居ろよ。カンナ、キヅチ!」


 クリームがオレの側に来る。

 

「あなたから役責を与えられ、そのために奔走し、生涯を終えていく。

 それが【九十九神】です。ユーリ様、できればあの子たちの旅立ちを、誇らしいものにしてもらえればと私は思っています」


 クリームはオレにかしづいた。


「オレは、オレは認めないぞ、そんな事!」


 オレは怒り狂ってクリームを問い詰めた。


「カンナとキヅチはオレの側に居ろ。

 それが役目だ、消えるなんて言うなあ!」


 クリームは、優しく微笑んでいた。


「きっとお優しいユーリ様はそうおっしゃると思ってました。

 ハガネ。魔鉱石を用意なさい。

 一日かけてまがい物で二人を満たします。

 ついてきてくれますね、ハガネ!」


 ハガネは魔鉱石を持って、クリームについていった。


 いなくなるなんて思わなかったんだ。

 

 それが仕事なんだとしても、一緒に話したじゃないか。

 一緒に笑ったじゃないか。消えるなんて言うなよ。

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