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34 蝶の髪飾り

 「交代の時間です!」とクリームはハガネに有無を言わさず連れていかれた。

 さすがのクリームもブリュンヒルデとの戦いで疲れていたのか、ハガネの上手とは言えない子守唄を聞かされすぐに寝てしまったようだ。


「ふう、クリーム様は疲れているみたいだから私と交代だよ」

 

 オレには無理矢理寝かしつけてたように見えたけどな。


「よっと」


 ハガネはオレの羽織の中、先ほどクリームがいた位置にすっぽりと収まった。


「寒くない?」


 正直、魔法で身体を温めていたクリームと違って、ハガネはひんやりと冷たい。

 けど、ハガネは自分と触れ合うと冷たいって言うのを随分気にしてるみたいだから、オレはハガネにこう言い返す。


「寒くないよ」


 ウソではない。オレの体温が伝わってハガネが温まるのを待てばいいだけなんだ。


 へっくし。

 クシャミがでた。寒いわけではないぞ。


「あ、大丈夫? ユーリ。

 私もクリーム様みたいに魔法が使いたいなあ」


 ハガネが見よう見まねで魔法陣を書き、呪文を唱える。


「【火球ファイアーボール】」


 なにも起こらない。


「急がなくていいよ。経験を積んでいけば使える様になるって言ってたよ」

「うん」


 早く強くなりたいって気持ちはオレにもわかるけどね。


「ねえ、ユーリ」

「何だ、ハガネ」


 ハガネは、オレに背中をくっつけたまま後ろを向いて話した。


「クリーム様ってあんな楽しそうに笑うんだね」

「オレも初めて見たよ。いつも忙しそうにしてるからなあ」


 村との間のやりとりも基本はクリームが行っている。

 オレに体をくっつけてきたクリームはリラックスしているようだったけど。


「ユーリ」


 ハガネはこちらを向いた。


「……」

「何で何も言わないんだ?」


 オレは何も話さないハガネをじっと見つめていた。


 ハガネの赤い瞳が、オレを見つめて返している。

 腰までの長さの銀色の髪をかんざしでまとめていて、ダンジョン攻略には似つかわしくない白地のキモノに赤い花が彩りを添える。

 ハガネの透き通るような肌の色と髪の色に、とても似合っている。


「あ、そういえば……」


 オレは持っていた髪飾りを取り出す。


「髪飾りを作ってみたんだ」

「これ、蝶?」


 ハガネは、オレから渡された髪飾りをいろんな角度から見ている。


「色は付けてないんだけど、家の模型を作っていたら木工が楽しくなってさ。

 貰ってくれたらうれしい。大したものじゃないんだけど」

「嬉しいよ、ユーリ」


 ハガネは髪飾りを大事に握り、抱きついてきた。


「そこまで喜んでくれると、作った甲斐があったよ。

 また、何か作ってあげるね」

「うん。作って」


 抱きついてきたハガネの顔を見て話しかける。


「さっきは何で黙ってたの?」

「ユーリに私の顔をじっと見て欲しかったから黙ってたの。

 クリーム様の顔は見てるのに、ユーリは私の顔を見ると下を向くから」

「それで、悲しそうな顔をしていたのか」


 オレはハガネの顔をしっかりと見た。

 銀色の髪に、大きな赤い瞳。いつも眠たそうに半分くらいしか開いてないその瞳。

 前は固かったその表情は、いつの間にか柔らかくて優しい笑顔をするようになった。

 

 オレは、前はあまりにも似すぎていて直視できないと思っていたハガネの顔をまじまじと見た。

 ハガネはオレがあげた蝶の髪飾りを大事そうに握って笑っていた。


 瞳の動き、笑い方、ハガネの表情はとても愛らしい。今まで気付かなかった表情がある。

 たぶん、見ようとしてなかった。逃げてたんだろう。

 

 こうしてハガネの顔をまじまじと見て、はじめてハガネと向き合えた気がした。


「ねえ、ユーリ」

「何?」


 ハガネが髪飾りを見ながらオレに話しかけた


「私今から蝶の髪飾りをつけるから、目をつぶっていてね。

 びっくりさせたいから目を開けないでね。絶対だよ」

「うん。分かった」


 オレはハガネの言うとおり目をつぶる。


 少し時間がたった後、オレのほほにハガネの両手が触れて。

 唇に柔らかい感触を感じた。


 オレが驚いて目を開けると、目の前にハガネがいた。

 ハガネが髪飾りしていることより、ハガネの顔が真っ赤になっていることに気がいった。


「髪飾り似合ってるよ」

「う、うん」


 ハガネは恥ずかしいのか、下を向いている。


「こっち向いて」

「……恥ずかしいよ」

「ハガネが見て欲しいって言ったんだろ」


 オレは、ハガネの顔に両手で触れるとしっかりとハガネの顔を見た。


「顔をちゃんと見たけど真っ赤になってるな」

「……今は見なくてもいいんだよ」


 まだ顔を真っ赤にしているハガネを抱きしめてから、ゆっくりとキスをした。

 ハガネの冷たい唇が温まるまでずっとそのまま口づけをしていた。


 ☆★


 さて、この階段の下は寒いだろうけど突入しよう。


 一夜を明かしたオレ達はいよいよ氷竜の住む階層へ入った。


「さ、寒いですねえ」


 アリシアが震えている。

 リカルドも口に出さないが、寒さがこたえているらしい。

 ネコ族は温かいところを好むらしいので、寒さには弱い。


「もう少しだけ耐えてくださいね。

 この階層で火魔法を使うと、確実に氷竜に気づかれますからね」


 クリームが声をかける。


「あ、こっちです。フロストアロエの生息地」


 アリシアが小道を指さす。


「へえ、こんなとこに植物って生えるんだね」

「瘴気を吸って生きているらしいですけどね。

 寒くても平気なんだとか」


 オレの問いにリカルドが答えた。

 クリームが一つ摘み、観察する。


「……かなり体内に魔力を溜めていますね。

 魔石代わりにも使えるかも。

 何に使うんです?」


 クリームがリカルドに聞いた。


「毒出しの薬草を作るらしいです。

 体の中に入れると、他の悪いものを吸収して出してくれるんですよ。

 毒キノコや、蛇毒など全身に回る前に飲むと効果が高いんですよ。

 薄めて飲むと、ヒフ病にも効くらしいですよ」


 リカルドが答えた。


「傷の消毒にも使えますよ。すりつぶして塗るんです」


 アリシアが情報を補足してくれた。


 オレ達が話をしている間に、ハガネとカンナ、キヅチが採集を終えたようだ。

 【九十九神】は温度に強いので、採集の際に体温を奪われて震えることもない。


「終わったー」

「いっぱい取ったよ」


 カンナとキヅチがオレに頑張りを見せに来たので褒めてやる。


「うんうん。いっぱい取って頑張ったな」

「リカルド、取ったよ。ネコに必要なんでしょ?」


 カンナがリカルドに渡す。リカルドは子どもあしらいが得意なようでなんだか懐かれているようだ。


「おお、カンナ様。偉いですねえ。

 いっぱい取ったんですねえ」


 カンナは誉められて嬉しそうに笑った。


 カンナとキヅチはハガネと違って気位が高く、ネコ族には偉そうに振舞う。オレのことは様付で呼ぶんだけど。

 一応「神」らしいし、なんだか偉そうな仕草も愛らしいのでまあいいか。

 リカルドはそれをわかって、恭しく可愛がってあげている様だ。


 さて、この洞窟における目的は3つ。


 1 薬草の採取

 2 魔剣の回収

 3 魔鉱石の入手


「薬草と魔剣、2つ取り終えたわけだけど、残る魔鉱石ってどこにあるんだ?」

「ダンジョンの一番奥にあると聞きますね」


 リカルドが答える。


「この付近で一番の貯蔵量を誇るらしいのですが、氷竜が魔鉱石を利用してこの低温環境を作り出しているので、こっそり少量ずつ盗み出すしかないのが現状なんですよね」

「じゃあ、オレ達もそうするか」

「それでは足りないんです」


 クリームがオレ達に話しかける。


「すべての魔鉱石を確保します」


 アリシアとクリームが驚いている。


「ハガネ、あなたなら理由はわかっているでしょう?」


 ハガネはクリームに直立して答える。


「はい。私たちには魔鉱石はなくてはならないものなのです。

 私が氷竜を倒します!」

「ええ⁉」


 アリシアとリカルドは驚いている。


「氷竜ですよ?」

「ドラゴン退治なんて聞いたことがありません」


 カンナとキヅチは楽しそうだ。


「ドラゴン倒す―」

「氷竜倒すー」

 

 クリームがハガネに伝える。


「ふふふ、ハガネいい心意気ですよ。

 ただ、ハガネ。武器である私たちが主従を勘違いするのは傲慢というもの。

 あなたが倒すのではなく、ユーリ様とあなたが氷竜を倒すのです」

「はい!」


 ハガネはオレの方へ向いた。

 なんだか今日のハガネはやる気に満ちている。


「行こう、ユーリ!」

「う、うん」


 武器化したハガネに手を引かれ、氷竜目指して飛んで行った。

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