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33 寒くはありませんか

「寒くはありませんか?」


 クリームがオレを気遣ってくれた。


「大丈夫だ」


 といったオレはくしゃみをした後、体を震わせてしまった。


「震えているじゃありませんか。失礼しますよ」


 クリームがオレの羽織の中に入ってくる。


「それだとクリームが温かいだけじゃないのか」

「ユーリ様、私は小さい魔法も上手なのです。【火球ファイアーボール】」


 オレのすぐ近くに火球が漂う。

 その火球の一つをクリームは口に含んでいた。


「ふう、温まりますね」

「そりゃそうだろうさ」


 オレの羽織の中にいるクリームは瞬時に温まり、オレへも熱を伝えてくれる。

 さすが、金属という熱の伝わりようだ。


「私、温かいでしょう? もっとくっついていいですよ」

「そうだな、ダンジョン奥に行けば行くほど寒いから助かるよ」


 オレは腕の中にいるクリームを抱き締めた。


 ☆


 少し前、オレ達は氷竜の住まう洞窟を奥へ進んで歩いていた。

 途中にブリュンヒルデが一太刀一太刀丁寧に処理した死体がゴロゴロ。


「クリーム、ブリュンヒルデが目が覚めたらでいいんだけどさ」

「はい」

「オレの許可なく人を殺すなって言っといて」


 クリームが頷く。


「本当にあの子ったら。すみません、良く言い聞かせておきますね」


 伝説の武器達は人間を殺すことに全く躊躇がないからしっかり言っとかないとな。

 少し進むとブリュンヒルデが昇ってきたであろう階段を発見した。


「よし、行くよー」


 意気揚々ハガネ達九十九神は進んでいくが、オレとリカルド、アリシアが寒さに震え動けなくなったのですぐに引き返した。


 今オレ達が野営しているところも十分寒いが、この階段の下は非常にまずい。

 寝たら死ぬ。氷竜お好みの環境になっているんだろう。


 すでに夜の時間に入っていたため、階段を降りる前に寝ることにした。

 下の階で寝ると凍死しそうだったからだ。


 カンナとキヅチにこの階にある木材を回収してもらって火を起こし、囲んで寝ることにした。

 この階の入り口の扉は木製だったがすべて薪へと姿を変えた。


 夜の見張りを、アリシア、リカルド、ハガネ、クリーム、オレで担当する。


 ☆


 今オレと、オレの腕の中にいるクリームが見張りの当番だ。

 それにしても、今日はなんだかクリームが甘えてくるな。


「ユーリ様、温かいですか?」


 クリームは時折火の玉を魔法で生成しては、口に含み体温を上げていた。

 オレのためなんだろうね。

 クリームやハガネ達九十九神は熱さ、寒さを感じないらしい。


「温かいよ」


 オレの腕の中にいるクリームの表情はいつもより穏やかに見える。

 クリームは焚き火の明かりに照らされていて、オレがクリームの頭のお団子シニョンを眺めているとクリームが後ろを向いた。


「お団子シニョン、気に行ったのか、この前もしていたな。

 似合っていると思うぞ」


 クリームが嬉しそうに笑った。


「ユーリ様、ハガネや私たちのこといつも気にかけてくださりありがとうございます」


 クリームがオレの腕に抱かれたままオレの顔を上目遣いに見て言った。


「クリーム今日は甘えてくるね。 

 なんだか、素直だね。いつもと違うから面食らうよ」


 クリームが頬を膨らませて答えた。

 あまり見ない表情だ。


「いつもは、ハガネ達の教育に忙しいんですよ。ユーリ様の見てないところで頑張ってるんですから」


 クリームはちょっと怒ったようなポーズを取る。


「怒ってるの?」

「えっとですねえ、私も頑張ってるんですよって伝えたかったんです。

 怒ってなんていませんよ」


 クリームがオレの手を自分の目の前でクロスさせた。


「ふふ、抱きしめてもらいました」


 クリームのはしゃぐ姿が可愛くて、思わず抱きしめた。


「あ……本当に抱きしめてくれましたね」


 後ろ姿しか見えないが、クリームは赤くなっている様だ。


 オレに抱きしめられたままのクリームはオレに体重を預け、オレの腕をつねった。


「イタ。何の意味があるんだよ」

「だって、ユーリ様ずっと抱きしめるんですもの」


 そう言われると、もう少し抱きしめたくなる。少しだけ強く抱きしめた。


「はじめて会った時より、少し元気になったみたいですね。ユーリ様」


 今は二人ともキモノという服を着ているが、初めて会った時はお互い服を何も着ていなかった。

 

「そろそろ、ネコ族の村も飽きましたね。

 屋敷は完成しますが、動けって言ったら屋敷が勝手についてきますからね。

 どこに行くのも自由ですよ」


 クリームはオレを見上げながら話を続ける。


「他のところに行きませんか? エルフの村とか、ドワーフの村とか、魔族の領域も案外楽しいところですよ」


 クリームは一生懸命、オレに話してくる。


「クリーム、ネコ族の村で辛い目にあってるのか?」


 オレはネコ族の村でうまくやってくれてると思っていた。

 もしかして、何か気に病むことなどあったのだろうか。


「ち、違います! 私はそんなに弱くありませんよ。

 ……でも、気遣ってくれてありがとうございます。

 優しくされるのは嬉しいものなのですね」


 クリームが笑っている。


「ユーリ様。ずっといたいですか、あの村に」

「うん、ようやく慣れてきたところなんだ。

 話せる人も増えて来たしさ」


 オレはクリームに伝える。


「人間といるより楽しいよ。

 ツバを吐かれたり、槍を投げられたりしないしさ。

 カンナとキヅチが屋敷も作ってくれたし。

 ずっとあの村にさ、みんなでいれたらいいなって思ってるんだ」

「ユーリ様!」


 クリームがオレに飛びついてきた。

 なぜか瞳に涙を溜めている。


「ようやく手に入れたユーリ様の居場所。

 ……私が絶対に守りますから」


 クリームがオレを抱き締めた。


「あ、でも……領主や、国軍がせめてきたら出て行かないとね。

 迷惑かけちゃうからさ」

「ユーリ様。いつも、私たちは側にいますからね」


 クリームヒルトはとても真剣な顔をしてオレを絶対に守ると言う。

 クリームはオレに顔を近づけてきて……

 ぽてっとした魅力的な唇が近づいてきた。


「クリーム様、見張り交代です!」


 ハガネがみんな起きちゃうんじゃないかってくらい大きな声で、見張りの交代を告げた。


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