03 決闘
「なぜだ、オレ達は仲間じゃないか、なあ」
「……」
誰もなにも答えない。
魔法使いの唱えた火球の残り火がくすぶり続ける音だけが聞こえる。
勇者は剣を構え、じっとオレを見つめていた。
「なあ、なんで何も答えてくれないんだよ!
オレ達、仲間じゃないか。
ずっとあの村から旅をしてきたんだよな。
なあ、何とか言えよ!」
勇者がオレの問いに答えず言う。
「……構えろ」
オレが強さを求めたのは、お前らのためだったのに――
「構えないなら、こちらからいくぞ。お前のクビをよこせえええ!」
勇者が一瞬で距離を詰めてくる。
突きを体裁きで躱し、鞘の入ったままの剣で勇者の頭部を叩こうとした。
が、叩こうとした手を籠手で跳ね上げられ、力の限り手首を手で締め上げられる。
「剣を抜け」
「……痛えよ」
「お前が私の力で締めたぐらいで効くものかッ!
……これくらいでおまえがどうにかなるものか……」
勇者は力を込め、精いっぱいの力でミドルへ蹴りを放った。
オレはもう片方の手で受ける。
足を止めた手を力任せに振り払い、勇者を跳ね飛ばした。
壁に激突し、白煙が舞い上がる。
「ぐぅぅぅぅぅ」
拳を地面に勢いよく突き立て立ち上がる勇者。
癒し手が治癒魔法を唱えようと手をかざす。
「手を出すな……」
勇者は治癒魔法を止めさせ、気合いで立ち上がる。
「剣技だけではやはり勝てないな。残念だが」
勇者は大剣を上段で振りかぶり、力を溜めている。
それは、魔王対策にオレと練習していた技。
魔力を練り込んだ斬撃技だ。
「剣を抜け。お前でも直撃したらただでは済まない」
バチバチと勇者の体に力が蓄えられていくのが見える。
魔王をしとめる技が完成したと、二人で喜び合ったと思っていた。
あれはウソだったのか!
オレは剣を構えた。
オレの愛用の鋼の剣では勇者が持っている聖剣にぶつけ、防御することなど出来ない。
勝つには先制して攻撃を当てるか、完全回避するしかない。
オレと勇者は、仕掛ける隙を探っていた。
オレが浅く息を吸ったタイミングで勇者から仕掛けてきた。
魔力をためた右腕で剣を担ぎ、左腕で精霊魔法を発動。オレ目掛けて雷撃を放つ。
両手での魔力操作、かつ雷撃という高度な呪文の詠唱破棄。
お前、本当に強くなったんだな。
雷撃をあえて避けさせ、オレの立ち位置を制限した。
発動に時間のかかる大技を当てるための準備だ。
「はああああああ!」
勇者はオレの周りへ再度雷撃を放ち立ち位置を誘導。
上空高く飛び上がった。
オレがその攻撃に立ち向かおうとしたとき、――魔法使いが土魔法を唱え、オレの足を固め、癒し手が足へ脱力魔法をかけた。
【大地走る蛇!】
【睨まれた蛙!】
両魔法により下半身の自由を奪われ、その場で斬撃を受けざるを得なくなったオレに、勇者は力いっぱい魔力を込めた斬撃をぶち込む。
――上空からぽたぽたと何かがオレの顔に落ちた。冷たい。
オレは、構えた剣を落とし上空を見上げた。
オレはまともに斬撃を食らった。
あたりは大爆発を起こし体を上空に打ち上げられ、地面にたたきつけられた。
「ガハッ」
血を吐き出す。
……オレの胸には大穴が開いているようだ。
「形だけの礼を伝えておく。今まで世話になった。追放だ。ユーリ」
にじむ視界の中で勇者の声が聞こえて――意識を失った。
☆★
なぜか一命はとりとめたようだ。胸の大穴も塞がっている。
あれだけの攻撃を食らってなぜ……
みなは広間から出ていったようだ。
失った。仕事も、仲間も、婚約者も――何もかも。
いや、もともとなにも持っていなかったんだ。持っていたと思っていただけなんだ。
全部全部マボロシだ。
――オレには何もない。どこで何をすればいいんだ。
ふらふらとした足取りで部屋に戻った。
部屋に戻っても心にぽっかり空いた穴は埋まることは無かった。
もう、相棒の鋼の剣を持って戦うこともないのかな。
せめてキレイにしてあげよう。
剣を拭き清め、聖水をかけてやる。
勇者が持ってる聖剣みたいな伝説級武器でなくても、オレの相棒はお前だったよ。
ありがとうな。
今までの戦いの日々を思い出す。
あれ、前が見えない。なんだよ、雨でも降ってんのか。
ハハハ、城の中だな。そんなわけないか。くそぉ……。
大粒の涙がとめどなく流れ、剣を濡らす。
――泣かないで、ユーリ。
ん?……女の子の声がする。聞き覚えのない声だな。でも、どこか懐かしい。
――何で泣いてるの?寂しいの?
別に寂しいわけじゃない。
――ウソだ。心がそう言ってるよ、ユーリ。
別に大したことじゃない。少し人恋しいだけだ。
幻覚でも何でも、君と話せてよかった。
――ヒトに会いたいんだね、ユーリ。好かれなくても、疎まれても、だれもあなたを愛してくれなくても。
でも、それでも。
たとえ一生そうだとしても、傷つくだけだとしても。
誰かに一緒にいて欲しいよ。……一人は寂しいよ。
――私が一緒にいるよ、愛してあげる。
抱えた鋼の剣が光って、グニャグニャとらせんを描きながら人の体をかたちどっていく。
腰まで伸ばした銀の髪。
赤い瞳に白い肌の少女が、オレを見て微笑んでいた。