28 屋敷完成
巨人と独角馬を始末したオレとハガネは、クリームたちの元へ急いだ。
クリームがついてくれているが、やはりカンナとキヅチは二人とも小さいので心配だった。
戻ってみれば、屋敷の外観は屋根を除き外から見ればほとんど完成していた。
「何ごともなかったか?」
「そこに」
クリームが答えた。
少し離れたところに血だまり。その中には立派な角が浮かんでいた。
「カンナとキヅチは守り通しました。独角馬の声が聞こえましたので二人についておりました。
奴らは子どもの居場所をかぎわけるのが上手ですから、二人の側にいたくて、ユーリ様のお供が出来ませんでした。すみません」
クリームがオレに謝る。
「案の定こちらへ来た独角馬がおりましたので、キレイにしておきましたよ」
「ありがとう、二人を守ってくれて。頭を上げてくれ、よくやったクリーム」
「は、はい! ありがとうございます」
クリームは感激している様だ。
カンナとキヅチは疲れたのか、座っていた。
「お疲れ様」
二人に近寄って声をかけた。
「ユーリ様、だいぶ前から出来てたんだよ」
「出来てた」
カンナとキヅチが自分の頑張りを主張していた。
「よく頑張ったな」
「でもね、今日はみんな疲れたからもうお休みだよ」
「ユーリ様も、寝よう」
二人とも、喋っているが動かずとても疲れている様だ。
オレはカンナとキヅチを抱え上げ、歩き出した。
「頑張ってくれて助かるよ、明日もよろしくな」
二人ともオレに抱えられたままにっこりと笑ってくれた。
「うん、頑張る!」
「ね」
みんなで家に帰った。
☆★
その日の夜。
巨人を倒したこともあってアリシアとリカルドから宴会に誘われたが、ハガネとクリームから猛反対を受けたので大人しく家にいることにした。
グツグツと煮込まれている音がする。
ネコ族はオレが食べるとなるとごちそうを出してくれるけど、ハガネの作る料理も悪くない。
おしゃれ、というよりちょっとワイルドだがこれはオレが作る料理をずっと見て来たからだと思う。
独角馬の丸焼きと煮込み。
味は丁寧に整えているし、臭みは香草で対処してある。
「おいしいよ」
「あ、良かった。独角馬の料理初めてだから丁寧につくったんだよ。
ネコ族が気前よく塩をくれたからね。
自分でも美味しくできたと思うよ」
ハガネは嬉しそうだ。
「フフ、私と同じくらいうまくなりましたね」
オレはクリームに料理を作ってもらったことは無い。
たぶん、クリームは繊細な作業は出来ないタイプだぞ。
「美味しい、もっと」
「いっぱい」
カンナとキヅチにも好評なようだ。
二人とも緑と蒼の瞳を輝かせて、ハガネにおかわりをせがんでいた。
「うん、いっぱい倒したからいっぱいあるからね」
オレは、独角馬の丸焼きにかじりつきながら、みんなが食べるのを見ていた。
「なんだか楽しいな。みんなで食べるのも」
「そうでしょ? 美味しいのを作ったんだよ?
カンナとキヅチがいるからね。
今日は、家族で食べたかったんだよ」
ハガネがオレの側に座る。
「ユーリ。はい、どうぞ」
ハガネはオレのグラスに白濁したイモの酒を注いでくれた。
オレはそれに口をつけ、少し飲む。
今日はゆっくり飲もう。
カンナがオレの膝に座りに来た。
見るからに柔らかな生地の寝間着を着ている。
「着心地よさそうな寝間着だな」
オレがカンナの寝間着を褒めると、キヅチも寄ってきた。
「気持ちいいんだよ、フワフワ」
「手触りいいよ」
カンナが寝間着の感想を述べると、キヅチも負けじととてもいい寝間着なんだとハガネに伝えている。
「一生懸命作ってたから喜んでくれて良かったな」
「うん。カンナ。キヅチ。
ホメてくれてありがとう。大切に着てね」
「「うん!」」
カンナとキヅチの二人の声がそろった。
二人ともハガネに抱っこをせがみに行った。
オレもクリームもハガネも何がおかしいのか笑いが止まらなかった。
☆★
良く寝た気がする。
昨日、一つ目巨人と戦ったからか疲れていたのかな。
起きると誰もいない。
ふわわわわ。
ゆっくりと伸びをした。
誰も起こしてくれないのは気を使ってくれたのかな。
夢見も悪くなかったし、寝てるままにしてくれたんだろう。
服を着替え、屋敷へ出向く。
家を出ようとしたところで、アリシアと会った。
「おはよう、アリシア」
「おはようございます、ユーリ様」
ぺこりと挨拶してくれた。
夜のアリシアとは別人のようだ。
「……」
「……あの、どうした?」
「あ、パ、パンを焼きました。
ちょっと多く作ったので、ど、どうですか?
良かったら、ですけど」
アリシアが手に持ったカゴを掲げると、焼けたコムギの美味しそうな匂いがした。
「おいしそう。一個もらうよ」
おなか減ってたから食べた。
「あ、美味しい」
「良かったー。これ、私がこねたんですよ」
アリシアのパンはとても美味しかった。
「そうか、美味しいよ。
ねえ、今みんな屋敷作りに行ってるからアリシアも行かない?
みんなおなかすいてると思うよ。
パンもって行ったら喜ぶよ」
「あ、ユーリ様たちのお屋敷ですか。完成が楽しみですね」
アリシアはパタパタと尻尾を動かした。
「じゃ、行こうか」
うーん、パンうまいな。
「もう一個ちょうだい」
「おねだりの仕方がハガネ様と同じですね」
「そうだっけ」
「そうですよ」
アリシアがくすくす笑っている。
「もいっこといわず、どうぞ」
行儀は良くないはずだけど、遠慮なく食べながら歩く。
そんなオレを見てアリシアは上機嫌に歌を歌いながら歩いている。
亜人には古語での歌が伝わっているという。
アリシアの歌の意味は分からないけど、いい歌だなあと思った。
んー、気温もちょうどいいし、いい天気だなあ。
もぐもぐしながら屋敷へ向かった。
しばらく歩いて、村の外れに到着。
隙間なく萱で吹かれた屋根をもつ大きな屋敷が目に入る。
ん? もう出来てるんじゃないのか、これ。
「おはよー」
「「ユーリ様!」」
オレが声をかけると、一休みしていたカンナとキヅチが近寄ってきた。
「だいぶ頑張ったなあ。もう出来てるんじゃないか?」
笑ってオレに答える二人。
「中に布を張ると完成」
キヅチが答えた。
「ハガネが位置を調整しているよ」
カンナが屋敷を指差した。
「ユーリ様」
クリームが近寄ってきた。
「あ、クリーム。ちょうど良かった。
アリシアがパンを焼いてくれたんだ。キリのいいところで休憩しないか?」
「いいですね。ハガネを呼んできましょう」
みんなで休憩することにする。
クリームが布を広げてくれた。
少し小さな布にぎゅうぎゅうに座る。
「私、飲み物を用意しましょう。
カンナ、木くずを呼び寄せてくれる?」
「はーい」
クリームは温かい飲み物の用意をしている様だ。
「火の精霊よ、安穏と天界でリンゴを食む天使たちの目を冥府の炎で刮目させよ……
【地獄の炎】!」
「アホか! 何で飲み物作るのに大魔法使ってるんだよ!」
飲み物作るのに空の色が変わるような魔法を使うのはやめて欲しい。
「できましたよ」
「そりゃできるだろうよ」
あっという間にホットドリンク出来上がり。
温かいドリンクとパンで一息ついた。
「もう屋敷はほとんど完成したみたいだな」
「はい。あとは、クリーム様と私で中の配置を考えて使いやすくしておきます。
二人は頑張ったから、今日はユーリと遊んでおいで」
ハガネがカンナとキヅチに伝えた。
「いいの?」
「いい?」
カンナとキヅチは遊びたくてうずうずしているようで近寄ってきた。
「よし、一緒に遊ぼうな」
オレは二人を抱きかかえて遊びに行った。
☆★
いや、子どもの体力についていくのもそれはそれで別の疲れがあるなあ。
小一時間遊んだところで、みなのところへ戻るとクリームに声をかけられた。
「ユーリ様、リカルド様がいらっしゃっております」
「そうか、何か用かな」
「ダンジョン攻略の依頼とのことですが」




