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27 一つ目巨人退治

 村の外れに自由に使っていいスペースを用意してもらった。

 屋敷を建てるためのもので、あえて村とは距離を置いてある。


 領主や国軍がオレ達を攻めてくるときに、ネコ族の村、グローバーズコーナーズが焼き討ちに合わないようにとの配慮だけど。

 

 こればっかりは相手側の指揮官のモラル次第だな。


 整地はすでにクリームが終わらせていた。

 雑木や石が小さくなって集められていることから、クリームが切断除去したのだろう。


 オレは、カンナとキヅチとクリームを連れて屋敷の建設に来ていた。

 ハガネは今夜に向けてカンナとキヅチの寝間着が必要でそちらに集中したいというので家にいる。


「なあ、オレは本当になにもしなくていいのか?」


 カンナに聞く。


「ユーリ様、平気よ。見ててね」

「……ねー」


 キヅチはカンナにつられて返事をした。


「あの子たちを信頼して見ててあげてください。

 子どもみたいな姿をしていますが、立派な職人道具なんですから」


 クリームがオレに語りかける。

 クリームは本当に道具たちに優しい。

 人間たちへはホントに冷酷な時もあるのにな。


「わかった。見ておく」

「でも、見ていてあげてくださいね。

 あの子たちにとっては一世一代の大仕事なんですから」


 クリームはオレの腕を取り、力説した。


「ハハ。大袈裟すぎだろ」

「……本当ですよ」


 カンナが歌を歌い始めると、近くに置いてあった木が一斉に立ち上がってフワフワとカンナの周りを漂い始める。


「すごいな」

「もちろん、ユーリ様は木石も服従させることは出来ますよ。

 ハガネもそうですが、【九十九神】として生まれたものは眷属を支配することができます」


 クリームが【九十九神】について説明してくれる。

 このスキルについて現在一番詳しいのはクリームだ。

 オレはまだ全容を知ってはいない。


「ユーリ様一人で直接支配できる範囲にも限界がありますから、ハガネやカンナ、キヅチなどの【九十九神】を増やすことが最強の軍団を作成する第一歩ですね」


 クリームが身振り手振りを交えてキラキラとした瞳でオレを見る。


「オレがいつ最強の軍団を作るって言ったんだ。

 身の回りの人さえ守れれば十分だよ」

「はい。……今はそれで充分です、ユーリ様」


 クリームの目は輝きを失わない。


「いまから、柱になるよ。

 ユーリ様の暮らすお屋敷の一部になるんだよ」


 カンナは自分の周りを漂う木に一本一本触れていく。

 その際に、一言ずつ話しかけている様だ。


 触れられた木は枝葉をひとりでに落とし、皮をむいて横たわった。

 自分で木が脱いでいく、とでも言えばいいのか不思議な光景が広がっていた。

 

 木が丸太の状態でずらーっと横に並んでいる。


 それをカンナがまた一本一本触れていく。

 すると、あっという間に自ら切断され、家を建築する木材となった。


「キヅチ、交代よ」

「……うん」


 じっと座っていたキヅチはカンナと位置を交代する。


「……これが図面。覚えた?」


 木材が図面の近くに集まって、一瞬フワっと浮いたように見えた。

 「覚えたよ」って言っている気がした。


「配置」


 キヅチが言うと図面通りの位置に浮いていた。

 そのまま下の位置に落ちて柱となるのだろうか。

 その下には大きな岩に穴が開いたものが置いてある。


「岩に穴をあけるのは、私がやっておきました」


 クリームが答える。


「あの子たち、石材は従えられないみたいですから」

「クリームはできるの?」


 クリームが首を振った。


「私はただ物理的に持ち上げ、穴をあけました。

 服と、料理の【九十九神】を作った後は、石材を扱える子も作りましょうか」

「そうだな。屋敷は広いわけだし」


 いま、オレの懐には服を扱う【ハサミ】と【包丁】が入っている。

 着々と生活系【九十九神】増員計画が進んでいる。


 オレがクリームと話をしている間に、柱が立て終わっており屋根の骨組みが出来上がっていた。


「早いなー」


 オレが思わず口走ると二人とも嬉しそうに笑っている。


「ほめられたー」

「……ねー」

 

 カンナとキヅチはこちらを見て、ホメて欲しそうなので、撫でてあげにいく。


「明日にはできるよ」


 と、カンナがしゃべる。


「……立派なの」


 とキヅチが補足してくれた。


「うんうん。頼もしいな。立派な仕事だぞ」


 撫でられてうれしそうだ。


 ドゴーン!


 急に足元を揺らすくらいの衝撃が走った。


「ハガネ! ユーリ様と」


――はい!


 ハガネが剣型のまま飛ぶようにオレの近くに来て、空中で回転してヒト型に戻った。


「カッコいいな」

「急いで来たかったから」

「ユーリ様、ハガネ。私はこの子たちの側にいます」


 クリームはカンナとキヅチを両手で支えた。


「頼んだ! ハガネ、行くぞ」

「うん」


 オレとハガネは衝撃の走った方向へ急いだ。


 ☆★


 黒色の独角馬が群れを作っている。30体ほどだろうか。

 隠れる知能をもっているからもっといるだろうな。

 ネコ族達が長槍と弓で対処しているが、ちょっと数が多いな。


 それはまあいいけど。


 ズズーン。


 巨体が一歩歩む度に訪れる衝撃。

 でかいよなあ、アレ。

 オレも倒したことはあるけど、今まで見た中で一番大きいな。


「大きいね」

「ハガネもそう思う?」

「うん」


 ハガネは人格がないときでもオレの武器(相棒)としてモンスターを見てきている。

 その中でも格別な大きさなのは間違いない。


「ああ、ユーリ様! 駆けつけてくれたのですか」


 村長がオレに声をかけてきた。村長の隣にリカルドが控える。


「ちょっと地響きがしたからな。

 一つ目巨人とは思わなかったけど」

「この村に何の用でしょうか」


 リカルドが首をかしげる。


「一つ目巨人は用はないだろうね。

 元の場所を追われてきただけだろ。

 独角馬の目的は決まってるけどな、肉だ」


 村長が頷く。


「独角馬には散々煮え湯を飲まされてきました。

 赤子や老婆を食われてきましたからね」


 毛並みは良く、頭は回り、集団で戦闘を行ういやらしいモンスターだ。

 死ねば有益。ツノが矢じりに使える。

 肉も臭みがあるが食える。


「独角馬が村を襲った例は聞いたことないけどな。

 知能が回るから子どもか女しか襲わないんだけど」

「まあ、独角馬が一つ目巨人を言い含めているんでしょうね。

 巨人が暴れた後に逃げ遅れた子どもや女を襲うつもりでしょう」


 一つ目巨人は通り道にあるものを破壊するモンスターだ。

 近寄らなければそこまでの害はない。

 戦闘して勝つのは、黄金ゴールド級の冒険者複数が必要だろうか。

 王都に数人レベルなので、もちろんこの村にはいないだろう。


「ただ、他を追われてきたのであれば誘導できないだろうな。

 はぐれて来たわけではないだろう」

「そうですね、この先に進みたいみたいです」


 リカルドが刺す方向にはネコ族の村、グローバーズコーナーズ。


「可哀想だが、一つ目巨人には死んでもらおう」

「倒すのですか?」


 村長とリカルドが驚いている。


「倒し方は知っている。一人だと辛いけどな。

 指揮下に入ってくれるか? 

 新参者の指揮を受けるのも納得できないかもしれないけど」

「何をおっしゃいますか、ユーリ様。

 もちろん、指示に従います。

 我らの命、いかようにも使ってください。

 たとえ、死のうともこの村のためならば安いものです。

 なあ、リカルド」

「は、はい! この村のためならば喜んでこの命差し出しましょう」


 リカルドは当然とでもいうように頷く。


「ははは。頼もしいな。

 独角馬を適当に相手してくれ。邪魔はされたくない」

「はい」

「あと、オレが合図を出す。その合図で一斉に一つ目巨人の目を射てくれ。

 当たらなくても構わない。ただ、一斉に射るのだけは守って欲しい」

「分かりました。ご指示の通りに」


 村長たちが頷く。


「じゃあ、いくぞ」

「お任せください。

 お前たち、ありったけ弓と矢をを持ってこい!」


 村長の指示が飛ぶ。


 オレはハガネと歩きながら相談する。

 ハガネは既にヒト型から剣型へ姿を変えていた。


「ハガネ。巨人に刃は通るか?」


――うん、普通の冒険者だと通らないこともあるって言うけど。大丈夫。あ、でも……持ってる武器は私より硬いかもしれない


 巨人が持っている武器は棍棒というのも不適当なただ鉱石を加工したもの。

 まっすぐに武器と武器をぶつけるのは得策じゃない。


「気にするな。巨人相手じゃオレだって力負けするんだ。

 まともにぶつからなければいい、そうだろ」


――うん。


「じゃあ、とりあえず牽制するぞ」


 一つ目巨人に接近を知らせるように足音を立て、近づこうとする。

 独角馬が突撃してくるのを一頭斬って捨て、ひと睨みしておく。


 あっという間に2つに割れた仲間を見ると警戒してオレ達に近づかなくなった。

 奴らにとって一つ目巨人は利用すべきもので守る対象ではけしてない。


「はああああああ!」


 その隙にオレは地面を蹴って飛び上がり、一つ目巨人の腹の皮を斬る。


「グウウウ」


 痛みが伝わる深さで斬って一つ目巨人の注目をこちらに集める。

 一つ目巨人がこちらを向いて目を見開いた時を待ちかまえ、指示を出す。


「今だ、ありったけの矢を射掛けろ!」


 オレが叫ぶと、リカルドの指示で一斉に矢が飛ぶ。


「ハガネ!」


 オレが直接指揮してもいいが、ハガネの成長のために任せることにする。

 

「任せて」


 ハガネはオレの手元から飛び出し、ヒト型と化した。

 目を見開き、響く低い声で眷属である矢に命じた。


「我は【九十九神】。

 子らよ、我に力を貸せ。一つ目巨人の目に集え!」


 矢が空中で止まり、一斉に一つ目巨人の目に刺さった。

 

「グアアアアアアア」


 たまらず巨人は叫び声を上げた。


「矢がひとりでに動き出しました!」


 リカルドが驚いている。

 視覚を奪っている間にオレとハガネでとどめを刺そう。


「リカルド、独角馬が逃げ出すはずだ。一匹残らず狩りつくせ!」

「は、はい!」


 リカルドは気を引き締め直したようだ。


「ハガネ、戻れ」

「うん」


 ハガネが剣型になってオレの手にもどり、オレは再度地面を蹴って跳び上がる。


「ハガネ、トドメだ! 行くぞ!」


――うん!


 ハガネと息を合わせちょうど心臓の位置まで飛んだ。

 勇者パーティーの時は、ロランやソフィアと協力して倒したんだけどな。

 今は、一人で

 ――いや、ハガネと二人で、やるしかない。


「行くぞ。【型抜き】!」


 ハガネで一つ目巨人の胴体の真ん中に4回切れ込みを入れる。

 

「【心臓落とし】!」


 その後、目いっぱいハガネのつかで心臓部分を殴打する。

 

「ギアアアアアアア」


 切れ込みを入れた一つ目巨人の心臓部分を、胴体から切り離した。


 巨体から心臓部が地面に落ちた。

 地面に着地したオレは念のため、サイコロに斬っておく。


 心臓部を抜き出された巨人の体は白煙とともに地面を揺るがして地に堕ちた。


「や、やりましたね!」


 村長が叫ぶ。


 巨人の敗北は想定外とでも言うように独角馬が戸惑っていた。


 オレがリカルドの方をみやると、リカルドはうなずきネコ族に命じた。


「独角馬を狩りつくせ!」


 独角馬目掛けて矢が射掛けられ次々と倒れていく。


 何匹か、矢をかわし、あるいは軽傷ですんだものが逃げようとする。

 ハガネは再度ヒト型となり、追撃を命じた。


「地面に落ちた我らの子、わが眷属よ、もう一度使命を与えよう。独角馬達を射殺せ!」


 地面に落ちた矢が空に浮かび、逃げようとした独角馬達の心臓目掛けて飛んでいく。

 逃げ出したすべての独角馬の心臓に矢が突き刺さって倒れ込み、その後、静寂が訪れた。


 オレ達は、一匹も残さず殲滅した。

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