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25 九十九神を迎える準備

 高圧的な態度を崩さないクリームにアリシアが答えた。


「ヒト族と獣人族は、結婚はできます。子どもも生まれます」


 アリシアは座ったまま答えた。


「でも、混血児は人間の特徴のほうが多く、身体的にネコ族の狩りについていけないからこの村には混血児はいないはずです。

 みんなそう言ってます。

 それに、みんな人間はきらいですから混血児はきっとこの村にいれません。

 みんな、肉親を人間に殺されたり、奴隷にされたりしていますから」


 アリシアは悲しそうに答え、オレを見た。


「ありがとう、正直に答えてくれて助かるわ」


 クリームはへたり込んでいるアリシアに手を差し伸べた。

 アリシアはその手をとらず、自分で立ち上がると腰についた土を払って、オレから目を離さずに話す。


「でも、私は……

 私を――私たちを助けてくれたユーリ様を慕っているんです。

 試したりしてすいませんでした」


 アリシアが頭を下げた。


「うん、オレはケガとかしてないしさ。レナトにちゃんと謝っておいで」

「アリシア」


 クリームがアリシアに問う。


「ユーリ様と、この村。

 どちらか選べって言われたらあなたはどうするの?」

「え?」

「この村がユーリ様とうまく行かなくなった時、あなたはユーリ様と一緒にいてくれるの?」

「そんなことにはなりません! 私が頑張ってユーリ様とこの村が仲良くなるよう頑張っていきます」


 アリシアは手ぶりを加えて、オレ達を迎え入れる決意を語ってくれた。


「そんなのあたりまえのことよ。国軍が攻めてきたら、ユーリ様と逃げてくれる?」

「それは、もちろんです。ついていかせてください」


 まっすぐにオレを見つめるアリシア。

 その言葉にウソはない、とオレは思う。


「ネコ族とユーリ様が戦うことになったら……

 ネコ族を、そうね、たとえばレナトを殺せるかしら」

「……そんなことにはなりません。私も頑張ります。

 リカルドも村長もユーリ様のことを慕っております」


 アリシアはクリームに抗議した。


「フフ、ありがとう、アリシア。

 もう行っていいわ。あなたを試したつもりはないの」

「失礼します」

「待って」


 クリームはレナトを連れて帰ろうとするアリシアに声をかけた。


風の籠(ウインドワゴン)

 風がレナトを優しく包んだ。


「これであなた一人でも運べるはずよ」


 風魔法での運搬補助。

 一瞬モノを動かすよりはるかに難しい魔法だ。

 無詠唱で魔力の籠を編むのは、風魔法でも難しいはず。


「ありがとうございます」

「アリシア、あなたが試したのだと、ユーリ様は悪くないと村長に懸命に伝えなさい。

 レナトに傷を負わせたことについてアリシアが罪をかぶるのよ。

 種族の違いは大きいわ。あなたのことば一つで簡単に私たちはここにいられなくなる。

 それを自覚しなさい」

「申し訳ありませんでした」


 アリシアは深々と頭を下げ、レナトを連れて行った。


☆★


 あてがわれた家に戻るがさすがに疲れたのか、すぐに床に就いた。


 その後二日ほど、カンナとキヅチを身に着けたまま、ハガネと戦闘訓練を行ったり、家の模型を作ったりして過ごした。

 クリームは村長やレナトと何やら忙しそうにしていた。

 

 屋敷の模型作成はオレが手ずから行う。

 カンナとキヅチを【九十九神】とするための大事な共同作業らしい。

 

 さすが使い込んだ職人道具だけあってオレの手にもすぐなじんだ。

 正直大工仕事なんてしたことなかったけど、握っていると何も考えていなくても次にどう動かせばいいかわかる。


 【九十九神】となる前の【道具】は、まだヒト型となれずとも意識や知識を持つことがあるとクリームは言っていたがその知識が伝わってくるような不思議な感覚だ。

 

「よし、できたぞ」


 ハガネとクリームも今している作業を中断し、完成した屋敷の模型を見に来た。


「ふふ、カッコいいねえ」


 ハガネがじっと眺めている。

 クリームはまだ屋敷でなく模型だというのに、


「ここからユーリ様の伝説が始まるのですね」


 と感慨深そうだ。


 屋敷の模型は木材でできている。

 ネコ族はもともと東方にいたらしく、服装や家の作りがその影響を受けている。

 いまから、作る屋敷も木造建築を採用する。

 リカルドに聞いたところによると、この近くに建築に向く木材が豊富にあるらしい。

 

 王都などはドワーフの持つ石材加工魔法や石工技術を使って作られているが、ネコ族はあまり魔法技術を持たず、温かい気候を好むため木造建築と相性がいいらしい。


 カンナやキヅチもその影響を受けている職人道具であるため、木造で屋敷を建築することとなった。

 

「明日の朝、神事を行い【九十九神】を迎えましょう。

 模型をユーリ様と作りあげたことで、この子たちも神格を得るに値する力を手にしたと思います。

 頑張りましたね、おまえたち」


 クリームはカンナとキヅチを撫でていた。

 それは母が子に向けるような笑顔で、クリームに見入ってしまった。

 

 クリームはそれに気づいてオレに笑いかけてくるが、茶化したりはしない。

 オレもカンナとキヅチを撫でてあげる。クリームに少し手が触れた。


 ハガネは、屋敷を見終わって今は一生懸命に針仕事をしていた。

 「寝間着を作ってあげるんだ」と昨日オレに嬉しそうに話してくれた。


 クリームやハガネにとっては、オレからすればただの道具である今も、姉妹のような、娘のようなものなのだろうか。


「明日は朝早いですから、早めに夕飯にして早く寝ましょうか」

「そうだな」

 

 早めに寝て、明日にそなえよう。

 ちなみにハガネが料理などを頑張り、クリームは薪を割ったり、風呂を沸かしたりという家事分担だ。

 

 オレも家事を手伝おうかといつも言うんだけど、「そんな暇があったらカンナとキヅチと過ごしてあげてください」と断られた。


 うーん、この時間暇なんだよな。

 そうだ、木工で何か作れないかな。

 と、なにやらしている間に夕飯と風呂が準備されたので、ありがたく頂いて早めに寝ることにする。

 

 胸元に、カンナとキヅチ、向かいにはハガネ。

 クリームはオレの後ろ。


 ここ二日ほど、そんな風に寄り集まって寝ていた。


 もう、クリームもハガネも寝てしまっているが、オレは明日初めて意図的に【九十九神】を作るということに興奮していた。

 ちょっと、ドキドキするな。

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