24 獣人との闘い
剣型のハガネを装備した。
【剣心装備】という状態らしい。
【九十九神】を装備して身体能力等の向上が期待できる。
レナトがこちらを威嚇するように咆哮してくる。
オレはリーチ差を活かして剣先を突きつけるようにして間合いを詰めていく。
レナトは刃物の存在を認識し、間合いを外そうとしてくる。
【獣化】してもまったく知性がないというわけではなく、戦闘にのみ特化しているのだろう。
しかし、獣人は無手なので楽できないな。
ロランやオリガみたいに服を着ていると【九十九神】に拘束してもらえば一発なのだが。
レナトは間合いの読みあいに堪えられなくなったのか、突撃してきた。
跳躍してかわし……と思ったら飛び過ぎた。
あら。
――ごめんね、ユーリ。息が合わないね。
「思ったより遠く飛んでしまったな」
――私が力を入れ過ぎたの。
「ハガネ。ユーリ様の動きの把握が甘いわよ、うっぷ」
千鳥足のクリームがハガネに指導している。気持ち悪そうだが。
――ユーリが本気を出した時の動きについていけてないんだと思う。
「どうすればいいんだ?」
――練習も足りてないけど、【剣心装備】した状態での戦闘経験が足りないんだと思う。
「そうか。相棒としては付き合いが長いんだけどなあ」
――うん。使われるだけならいいんだけど。【剣心装備】状態はユーリの力に私をプラスする感じなんだよ。タイミングが合ってなくてごめんね。
「そうだな。オレも力が有り余って、から回ってる感じがするよ」
――すぐに息を合わせられるよう頑張るね。
「こちらこそ」
二人がつながっているような感覚はあるが、どうにもかゆいところに手が届かない動きだ。
「反撃から始めるほうが素早い反射が必要でうまく行かないだろう。
シンプルにスピードで先制して連撃を入れていこう」
――うん、わかった。ついていくね。
「いくぞ!」
レナトが向きを変えこちらに向かって来る準備が整うより速く接近する。
速さで意表を突く。
反撃態勢でないレナトでも回避できるくらいに抑えた剣速からの袈裟斬りを放つ。
「……グ……」
態勢を崩してからの刃を裏返して斬り上げ。
いわゆる燕返しと言われる技で踏み込みの力を伝えられないため、華麗ではあるが腕力任せの剣技だ。
レナトは回避しきれず腹の柔らかい部分をかばって背中で受けた。
「ギアアアアアア!」
レナトの叫び声。
背中を真一文字に切り裂いて鮮血が飛び散る。
よし、しっかりダメージが通るな。
「レナト!」
アリシアが叫んだ。
――うわあ、硬いねえ。普通真っ二つだよ、あの剣速で斬ったら。
ハガネは感心している。オレもこの技で決めるつもりだったんだよな。
「アリシア、説得できるか。
レナトが思いのほか強い。手加減して勝てるか難しいぞ」
「は、はい」
アリシアがレナトに駆け寄る。
「レナト、ごめん。
私、ユーリ様に奴隷になんてされてないよ」
レナトは首を振った。
「やめて、レナト。あなたの負けよ。降参して!」
レナトはオレを見つめる。
その目は殺気に満ちていた。
そうだよな、この流れで負けたからって引き下がれないよなあ。
アリシア、男心を弄んだことを反省しろよ。
「グアアアアアアア!」
レナトは跳躍すると回転してから飛び掛かってきた。
オレはステップでレナトの正面を捕まえ、レナトのキバが届く前に背中を斬る。
先ほどの傷と合わせて背中を十字に切り裂かれ、動くのもつらいはずだが、レナトは痛みに耐えそのまま突撃してオレに噛みつこうとしてきた。
「気持ちは買うよ、レナト」
半身ずらしてかわし、ハガネの峰で腹部を強打して気絶させた。
地面に伏せたレナトの背中は十字に深く切り裂かれ出血している。
「レナト……」
アリシアがレナトに駆け寄る。
「アリシア、介抱してやれ」
「いいんですか?」
「何がだ」
「私はユーリ様のものなのに」
勝者のモノである、という意味か?
「いいんだ。幼馴染なんだろ?
オレだってレナトに死んでほしくなんかない」
「グ……」
獣化が解けたレナトはうなされていた。
「まだ、負けてないぞ、オレはまだ……」
「レナト……」
【沈静化】
興奮していたレナトをクリームが魔法で沈静化させ、寝かしつけた。
「助かるよ、器用だな」
「ふふ、私は戦士に側仕える聖剣ですからね。
細かいことはお申し付けください。
ハガネも。今は魔法は使えなくても、私が何をしているか見ておきなさいね」
クリームがハガネに優しく微笑む。
「ユーリ様の隣はそんなに安くありませんよ。私は今回譲ってあげましたけど」
クリームがハガネに近づく。
「戦闘でも、聖剣、魔剣の類いに強度で負けるあなたが何ができるのか。
常に考えなさいハガネ」
「はい! クリーム様」
ハガネの目がバシッと開いている。
いい師弟関係だなあ。
「うっぷ」
台無しだぞ、クリーム。
「アリシア、本当にいいから今日はレナトについてやれ」
「はい。でも、私は、ユーリ様の……」
「アリシア、レナトと手をつないだのなら、しっかり話して別れてこい。
それでもなお、怒るなら一発だけ殴らせてやれ。
それ以上レナトがなにかしてくるようならオレが助けに行くから」
「はい」
アリシアが、立ち去ろうとした。
「ネコ娘」
クリームが冷ややかに呼び止める。
「は、はい」
クリームは髪の毛を一本抜き、アリシアに投げた。
アリシアの頬をかすめ、うっすら血がにじんだ。
「ひああああああ」
「ネコ程度に負けるわけありませんが、私の目の届かないところでユーリ様を危険な目に合わせたのは事実」
へたり込んだアリシアに歩み寄る。
「今日、ネコ族のみなと酒を酌み交わしてきました。
アリシア、ネコ族とヒト族は結婚できますか?
そして、混血児はこの村にいますか?答えなさい」
クリームがアリシアを睨みつけた。




