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23 恋人つなぎじゃないのでセーフ

 アリシアにレナトと呼ばれたネコ族の男は、殺気に満ちた目でオレを見つめた。

 

「いいなずけなんて、親同士が決めたことよ」

「何を言ってるんだよ。この前、オレと海を見に行って手をつないだじゃないか」

「手をつないだだけでしょ」


 オレはアリシアを抱えて跳躍し逃げたため、いまだにオレの腕の中にアリシアはいる。

 というか、オレはソロリと腕を外そうとしたのだがアリシアが離さない。


「離れろよ、ニンゲン」


 「あのね、アリシアがね、ぎゅっと握って離さないんだよね」って言ってみたら納得してくれるかな。

 きっとその目は納得してくれないよね。


「アリシアがオレを裏切ったとは思えない。お前、アリシアに何をした!」 

「何もしてないよ!」


 っていうか、さっきオレがマウントポジション取られてたの見てたよね。

 意図的に記憶から消してるの?


「畜生。人間め、幻術か、魔術を使ってアリシアをたらし込んだんだな、そうだな!」

「違うぞ、オレはなにもしてな……もごもご」


 アリシアがオレの口に指を突っ込んで塞いだ。


「私、ユーリ様のモノになったのよ、レナト。

 ごめんね、私のことは忘れて」


 オレは、アリシアの指を口から取り出して言った。


「アリシア、ちょっと待てよ。誤解をさせるような言い方はやめろよ」


 アリシアは、涙を流しながら訴えた。


「このままじゃ、私親の言いなりにレナトと結婚させられちゃう!

 ユーリ様、私を救い出して!」


 アリシアちょっと芝居っ気が強すぎるぞ。

 助けを求める風に手をこちらへ伸ばすんじゃない。


「一つ聞いていいか」

「なんでしょうか」


 オレはアリシアに尋ねた。


「アリシア、レナトと海に行った?」

「行きました」

「手をつないだ?」

「ち、違います、恋人つなぎではありませんので、セーフです」

「何がセーフだあああ!」


 オレはアリシアに思いっきり突っ込んでしまった。

 恋人つなぎっていうのは指と指を絡ませる手のつなぎ方だ。

 それはもちろん、恋人同士しかやらないけど、そうじゃなくても男女が海に行って手をつないだら、普通その気になっちゃうよね。


「手、手しかつないでません」


 いや、だから手をつなぐの自体ダメだってば。

 アリシアがオレに必死に弁解しているけど。


「あのとき、手をつなぎながら見つめ合った時間はウソだったのか、アリシア!」

「あのときは、若かったの。本当の恋を知らなかった」

「芝居か!」


 オレは思わず突っ込んでしまった。


「アリシア……」

「レナト、私のことは諦めて。もうユーリ様のモノだから」

「いや、だから何もしてない」


 オレは必死にオレの言い分を伝えるが。


「アリシア、本当か? オレには本当のことを教えてくれ、アリシア!」

「ごめんね、レナト。私、リク様になにもされてない、本当よ」


 アリシアは、ペタンと座り込み、体を震えさせた。

 え? どうしたんだアリシア。急に震えだして。


「本当に、何もされてないから。レナト。私のことは放っておいて……」

「おい、ちょっとアリシアどうしたんだ? 体調が悪くなったのか?」


 オレは、アリシアを心配して近寄り肩に触れた。


「い、いやぁ……」


 アリシアはオレに触れられると両手をクロスさせ自分の肩を抱きながら涙を流し体を震えさせた。


「レナト、私、ユーリ様のモノなの。

 だから、レナトあなたのところには戻れない。

 ごめんね……」


 アリシアは、涙をたたえた瞳でレナトに流し目をしながら終始震えている。

 ギリ、とレナトが奥歯を噛む音がオレまで聞こえてきた。


「ニンゲンはいつもいつもオレ達をそうやって支配してきた。

 奴隷契約魔術を使ったな! アリシアが震えている、それがその証拠だ!」


 合点がいった。

 オレは、アリシアにはめられたのだ。


「あのね、アリシア。何がしたいんだ? オレとレナトを弄んで」

「……私ね、強い人が好き」


 アリシアはくわ、と見開いた両の目をさんさんと輝かせて言った。


「私のお母様も男4人で取り合いになって、一番強かったお父さんと結婚したって言ってたわ。

 取り合いされてこそ、女よ。強い男を手にしてこそ、いい女なのよ」


 アリシアはくすくす笑っている。

 

「あのさ、いつもオドオドしてたアリシアとは思えないんだけど。

 どっちが本当のキミなの?」

「ユーリ様。女は夜変わるのよ。

 なんてね。

 ネコ族はね、夜になって目が光ると性格が変わるの」


 アリシアはあっけらかんと笑う。


「私がユーリ様を一番好きなのは本当よ。

 フフ、信じなくてもいいけど、勝ってね。

 強い男は私、絶対モノにして見せるから」


 アリシアは悪びれもせず、言い放つ。

 そうか、アリシアはそういう価値観で生きて来たのか。

 と、すると……


「もしかしてさ、レナトってさ、ネコ族で一番強い?」

「ピンポーン」


 アリシアがニカッと笑った。


 ったく、現金な奴だな。

 一番強い奴を誘惑し続ける気だな。

 結局、オレとレナトの力試しをさせたいんだろう。

 ふざけた奴だ。


「アリシア、待ってろオレが助けてやるからな!」


 レナトはそう言うと、咆哮を上げ4足歩行となり、体を変化させた。

 

「おい、【獣化】できるのか? あの年で?」

「知らなかったわ、レナト。あなたも強くなっていたのね」


 獣人族の中には研鑽を積み【獣化】という身体能力をさらに向上させることができるものがいる。

 通常、達人と呼ばれる域のものが使う技で、オレはレナトぐらいの年で【獣化】できる獣人族にあったことはなかった。


 やばいな。

 オレは戦士だが武器戦闘を得意とするため、無手では獣人相手は少しきついものがある。

 なんせ、獣人は根本的に人間より基礎身体能力が高いのだ。


「レナト、オレは武器使いだ。一対一を望むなら受けて立とう。

 ただ、お前にもツメやキバがあるようにオレにも武器を使わせて欲しい。

 お前も戦士ならわかるだろう」


 レナトは一層大きな声で鳴いた後、オレに向かって突っ込んできた。

 あー、【獣化】したら知性がなくなるんだったな。


 畜生、このまま戦闘か。


 オレは、咆哮した後、鋭いキバで突撃してくるレナトをかわしてボディに一発入れた。

 物凄くいい場所に決まったので人間であれば悶絶必死。

 一発戦闘不能レベルのものであるが……


「グルルルルル」


 ははは。毛皮も強化されてて効いてなさそうだ。

 むしろオレの拳から血が出た。

 オレは格闘家でないので、特に拳を鍛えてはいない。


 とっさに組手や蹴りなどを戦闘に組み込むことはあるが、拳を鍛える時間があれば剣を振りたい。


 うーん、なんか武器あるかな。

 懐にカンナとキヅチがあることを思い出す。


 しかし、【獣化】した皮膚を貫くには強度が足りなそうだ。


 参ったな、ハガネかクリームがいればいいんだけど。

 どこにいるかわからないもんなあ。


「……ユーリ、呼んだ?」


 ハガネがクリームと駆けつけてくる。

 クリームは千鳥足だけど。


「おお、ちょうどいいところに」

「呼べば来るよ。私はユーリの相棒だからね。

 っていうか、戦闘なのにどうして呼ばないの?」

「そうか、来てって言ったら来てくれるんだな」


 ハガネが頷きながら話した。


「ユーリ忘れたの? 私はユーリが寂しいって言ってたから、ユーリのところに来たんだよ。

 どこでも行くよ、呼んでくれたらね」


 ハガネが拳を突き出した。

 はは、どこで覚えたんだそのポーズ。


「助かるよ」

 

 ハガネの拳にオレも拳をぶつけて答える。 

 頼むぞ、オレの相棒。


「ふふ。相棒のポーズだよ。

 あ、でもね、もし呼ばれなくても勝手についていくからね」

「そうしてくれると助かるよ」

「うん!」


 ハガネが剣型へと姿を変える。


「フフフ、私が出るまでもない相手のようね。うっぷ。

 ハガネ、あなたで十分よね、うっぷ」


――はい! 私がユーリと一緒に倒します」


 千鳥足のクリームはとある事情で戦闘不能だ。

 この聖剣、クソだな。

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