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22 アリシアと二人きり

 オレとハガネとクリームが屋敷の間取りについて議論を戦わせているところにアリシアが呼びに来た。

 

「ユーリ様、宴席の準備が出来ましたよ」

「アリシア。おめかししてるんだね。髪飾りしてるね」


 アリシアは髪を触りながら答える。


「はい。気付いていただいてありがとうございます」

「その髪飾り、果物を模しているの?」

「は、はい。山リンゴの形をしています。

 近くでとれるので、今日の宴席でも食べれるようにしていますよ」

「へー。おいしそうだね」


 アリシアは淡い緑色のワンピースに首元のネックレス。

 赤毛のショートカットに髪飾りが愛らしい。

 ネコ族の女性は体のラインに自信があるのか、薄手の服を好む。

 今日のアリシアはかっちりとした着こなしだ。もしかしてオレに合わせているのかな。


「あ、そういえばオレの服は」

「服はお持ちのようなので、屋敷の建築を急がせましたが。

 そうですね、こういう時に人間は服を着替えるんですね。

 一つあれば十分だと思うんですが」


 あ、うん。

 クリームはこっち方面には気が回らないのはもうわかった。

 ハガネが白い服を取り出してくれた。


「一応これが一番儀礼的なんじゃないかな」

「襟付きだし、これにするか。洗っててくれたのか」

「うん。いつもの服よりこっちかなって思って。とりあえずそれでもいい?

 家を建て終わったら、服を作る九十九神を作ろうね」


 気配りが出来るようになったなあ。

 オレはウルウルとした瞳でハガネを見た。

 ハガネの赤い瞳はいろんなものを見て勉強してるんだな。

 オレはハガネを撫でてやる。


「今度ハガネの服も一緒に作ろうな。ローブだけだとこういう時に困るもんな」

「うん」


 ハガネは嬉しそうだ。


「私のもありますか?」


 クリームがこちらを見て話しかけてくる。


「お前服嫌いだろ」

「ユーリ様からのものが欲しいだけで、あまり着ないかもしれませんが」

「じゃあ、いらないだろ」


 会話がいつまでも続きそうなオレ達を見てアリシアが声をかけた。


「あ、あのユーリ様。お話の続きは宴席でどうでしょうか」

「そうだな。待たせ過ぎたかもしれない」

「あ、あと。宴席でユーリ様の隣があいていましたら私が隣に行きますがよろしいですか?」


 アリシアがオレの手を取った。ぷにぷにの肉球と上目遣いが心憎い。


「あいてない」


 ハガネがオレに腕を回した。


「あ……そうですね。ハガネ様がいましたね。

 私、先に行ってますから早く来てくださいね」


 アリシアは駆けていった。


「ハガネ、あの子なかなかやるわね。

 私たちがいるのに。あれは宣戦布告ってやつよ」


 ハガネは頷いた後、オレに話しかけた。


「ねえ、ユーリ。私が隣でいい?」


 オレはハガネが隣にいることを当たり前のように思っていた。

 さっきハガネが一人で出て行ったときに妙に寂しかったんだよな。


「……隣にいてくれたら嬉しい」


 ハガネに手を差し出す。

 そっとハガネは手を取った。


「ありがとう」


 ハガネはオレのほうを向けて笑ってくれた。

 

 銀の髪を腰まで伸ばしたハガネ。

 赤い瞳にオレが映っている。

 ハガネの一点の曇りのない笑顔。


 オレはその笑顔をいつかどこかで見たような気がした。

 ハガネの手を引いて立ち上がる。


「……行こうか」

「うん」


 元気に返事をしてくれた。


☆★


 村の宴会場につくと……おお、これはすごい‼

 海の幸、山の幸がテーブルを見事に埋め尽くしている。


 いや、正直ここまでのものが出てくるとは思っていなかった。

 そんなにお金持ちな村だとは思わなかったけど……


 おお! あれは、牛じゃないか。

 乳を取ったほうがいいんじゃないか?

 

 それに魚って。

 ここ内陸だから、一生懸命取ってきて運んでくれたのか?


 水魔法で冷却系の魔法はあるけど、国に何十人かしか使い手がいないって前ロランが言ってたしなあ。

 ロランとソフィアは血統的に得意らしいけど。

 

「ユーリ様、こちらです」


 アリシアが、席まで案内してくれた。


「これさ、こんなにごちそう出して大丈夫なの?」


 アリシアが笑って答えてくれた。


「ユーリ様は恩人ですからね。

 海のものは今日みんなで取ってきたものですし。

 幸い今は実りの季節です。

 この辺は狩りの得物が多いんですよ。

 たしかに贅沢していますが、後に食べるもので困ったことにはなりませんよ」

「でも牛をつぶすんじゃ……」


 牛は高級品で、ミルクを取ってチーズやヨーグルトを作るためのもので、オレだってほとんど食べたことがない。


「この牛はもう年ですからね。

 王都あたりの貴族様は若牛を食べるらしいですけどそんな贅沢はできません。

 この村で一生懸命乳を出してきた神様みたいな牛です。

 できれば、ユーリ様に食べていただきたくて」


 命を最後まで大事にいただくんだな。

 

「牛はあとでつぶすので新鮮なうちに召しあがってくださいね」

「ありがたくいただくよ」


 アリシアが椅子を引いてくれた席に座る。


 オレ達の到着を待って、宴会がはじめられた。

 やっぱり待たせていたようだ。


 村長と、見張りをしていた男が挨拶に来た。

 見張りの男はリカルドと名乗った。


「たくさん召し上がってくださいね」

「ありがとう。家は数十軒あるが、これで全部か?」


 比較的大きな集落と思ったが、存外数が少ない。


「ああ。今、村の若い衆は遠くまで狩りに行っておりますもので。

 巨象を追いに行きました」


 そうか、この辺は巨象も出るのか。

 あまり数がいないし、弱兵じゃ太刀打ちできないが巨象は焼くとうまいんだよな。


「男衆が取ってきましたら、また宴会をひらきましょう。

 いつ戻るかはわかりませんが、そのときに召しあがってください」

「助かるよ」

「奥様も召し上がってくださいね」

「はい」


 リカルドは隣にいるハガネにも酒を注いだ。

 イモを発酵させた洗練されたとは言い難い酒だが、これはこれで飲める。

 リカルドが深く挨拶をしてから去ったあと、ハガネに聞く。


「食べ物って消化できるの?酒とか食べ物とか」

「ヒト型を取っていると、おなかすくんだよね。

 ごはんも食べれるよ。あ、お酒は苦手」

「どんなものが好きなの?」


 ハガネは頭を傾けて考えた後、好きな食べ物を教えてくれた。 


「甘いの。あとね、挽肉丸めたのと、油で揚げたの」


 ようはお子様味覚ってことかな。

 ふとクリームを見やれば、村長と度数の強そうな濁り酒を塩漬けを肴に飲み交わしていた。

 あいつめちゃめちゃ飲みそうだな。

 嫌な絡まれ方しそうだから近づかないようにしよ。


 アリシアがこちらにやってきた。


「どうぞ、山リンゴですよ。むいてありますからどうですか?」


 オレはおひとつもらった。ハガネもおひとつもらっている。


「おいしい……」


 ハガネがはかじりつきながら感動している。


「もいっこ」


 ハガネは気に入ったのだろう、アリシアに声をかけ催促した。


「もいっこと言わず、いっぱいありますよ」


 アリシアがハガネに山リンゴをあげているが本当に幸せそうに食べている。


「アリシアも食べてる?」

「はい。あ、ユーリ様。

 今から牛を焼くみたいですから、こちらに来ませんか」


 アリシアに手を引かれ、牛のほうに連れていかれた。


「……見逃してあげる」


 ハガネは山リンゴを食べながらつぶやいた。


 ☆★


「……好きですか」

「へ?」

「牛」

「……好き」


 もうあたりは暗くなってきた。

 牛肉を美味しそうにほおばるアリシアの瞳が光る。

 

 やはり、ネコ族だなあと思わせる特徴的なキャッツアイだ。

 アリシアは獣人族の中では種族的特徴が控えめな方らしく、子どものころは半獣人としてからかわれたらしい。

 夜も更ける今、爛爛と輝くキャッツアイのお陰で誰の目にもネコ族に見えるが、昼間ネコミミを隠した状態であれば、だれもネコ族だとはわからないんじゃないかな。


 オレ達は森の中で隠れて牛を食していた。

 貴重品である牛をかなりの量持ち出した後、人目のないところへ。

 アリシアはけっこー大胆である。


「ユーリ様が美味しそうに食べてくれてよかった」

「美味しいよ」


 オレは冒険者生活が長いので粗食でも我慢は出来るが、やはり肉は――特に牛はうまい。

 ペロッと食べてしまった。


「二人でたくさん食べてしまいました。ふふ、二人の秘密ですね」


 王都にいたころ聞いた噂話の類いを思い出した。


 二人で秘密を持つと仲良くなるらしい。

 特に、少し悪いことであればなおさら……

 

 オレはアリシアに好意を持っているし、外で二人で会っているんだなあと思って急に意識してしまった。

 

「ねえ、ユーリ様。

 私、前から知ってたんですよ? ユーリ様のこと。

 とても強い戦士様がいるって」


 アリシアが近寄ってくる。

 なんだか、昼間おどおど話しているアリシアと少し印象が違うな。


 アリシアはオレの目の前で立ち止まるとそのままオレに体重を預けた。

 倒れそうになるアリシアを支える。

 自然と抱きしめる様な形になった。


 オレがアリシアから離れようとすると、


「このまま、でもいいですか?」


 アリシアはしがみついた手を放さずにオレを上目遣いに見つめてきた。


「キレイな緑色の瞳ですね」


 アリシアが急に体重をかけてきたので、足に力を入れて踏ん張った。

 ん、もしかして押し倒そうとしたか? 

 オレもネコ族女子に倒されるような鍛え方はしてないのでつい耐えてしまったけど。


「ふ……ふにゃあ……」


 アリシアの鼻にかかったタメ息のような艶っぽい声。

 息が荒い――っというか荒いなんて形容詞も生易しいほど。

 頬を上気させ、唇から舌先をのぞかせ自分の指を加えた。

 興奮したのか光を増しながらもトロンとしたアリシアのキャッツアイに吸い込まれてしまいそうになって……オレは思わず唾を飲み込んだ。


 ふう…と首筋に息を吹きかけられた。


「ちょ、ちょっと……」


 不意のことに足が砕けてしまって押し倒されてしまった。我ながら情けない。


「バ、バカ。人の気配がするぞ」


 アリシアのネコ目が怪しく光った。


「関係ないよ、ユーリ様」

「おい、ちょっと待てって」


 馬乗りになったアリシアに完全にマウントポジションを取られた。


「アリシア!」


 突如、オレ達を目掛けて飛び掛かってくる人影。

 オレは、アリシアをかばうように飛び上がり、攻撃をかわす。


「許さんぞ、お前オレのいいなづけを襲いやがって!」


 攻撃してきた獣人は、殺気立った目をオレに向けた。

 

「レナト……」

「え?」


 アリシアはその獣人の名を呼んだ。

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