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21 仲直り

 ハガネに手を引かれ外に出ると、少し眩しくて目を細めた。

 道行くネコ族たちがオレに気づいて手を振り笑いかけてくれた。

 家族連れだろうか。小さな子がピョンピョン跳びはねている。


 たとえ自分が辛くても、オレは笑顔には笑顔で返したい。

 無理矢理にでも笑顔を作り、手を振り返す。

 それに気づいた子ども達が喜んでいた。


 少し足早に歩き、見つけた木陰で視線を切る。

 まだちょっと視線を集めるには心が整っていないんだ。


「ユーリ、大丈夫?」


 ハガネが心配そうにオレの背中をさすってくれた。

 ちょっと落ちつくまでされるがままに甘え深く息をついた。


「よし、大丈夫」

「ユーリ、クリーム様に何て言われたの?」


 ハガネはオレの顔を覗きこんだ。


「……いや、何も」

「じゃあ、クリーム様を問い詰めてくる」

「ちょっと待てって」


 今にも飛び出しそうなハガネの腕を引いて、抱きとめた。

 ハガネの肩を持ち、しっかりと見つめて話始めた。


「大丈夫、ちょっと人間の女の子に嫌われますねって言われただけだから。

 さっき、クリームも謝ってくれたし」

「わかった。でもきつく言っておくね。

 意地悪なことされたら言うんだよ」


 指を立てて主張するハガネが怒ってるのがコミカルで笑ってしまった。


「うん。でも、クリームのほうがハガネより偉いんじゃないの?」

「クリーム様は伝説級だもんね。

 でもね、ユーリを傷つけたら怒らないといけないんだよ」


 ハガネは上司にモノが言えるタイプでえらいなあ。


「ありがとう。もう大丈夫だよ」


 立ち上がって伸びをした。

 うん、気持ちも整理できたかな。


「ハガネはさっき、一人でどこに行ってたの? 珍しいよね」


 いつもだいたいオレの隣にいるんだけど。


「私ね、ユーリが丁寧に扱ってくれたからかもしれないけど。

 ユーリの相棒になってから2年くらいから記憶があるんだ」

「……そうなの?」


 2年くらいって言うと……


「勇者様がクリーム様をもらい受けたときだね」

「昔のことから知ってるんだね」

「うん。何があったか覚えてるだけだけど。

 それからしばらくの間ずっとそう。知識だけあったんだ」


 ハガネは訥々(とつとつ)と話してくれた。

 

「獣人たちの反乱のときもユーリが何をしたのか、何があったのか覚えてはいたけど。

 ユーリが何を思っているかわかるようになったのは本当に最近なんだよ」


 ハガネが自分の手を見た。


「あの人たちのこと私が斬ったんだから、何も感じないのは良くないんだ。

 だから、あの時のことを思い出していたの」


 ハガネは反乱を制圧していた時のことを気にしていたのか。


「ハガネが気にすることはないよ」

「違うよ。悲しいとかじゃないからね。

 私、武器だから人を斬るんだけど、斬った分強くならなきゃいけないんだ。

 だから、しっかり思い出していたの。あの人たちの動きを」


 ハガネは武器としてできる最大限人を弔おうとしている。

 やっぱりそれはハガネの優しさから来てるんだと思うけどな。

 

「頑張って強くなるからね」


 ハガネが自分の拳を握り込む。


「一緒に頑張ろうな」

「うん」


 ハガネは成長しているようだ。


「それでユーリ。その子たちは?」


 オレが握ったままのカンナとキヅチを見て問いかけた。


「この村、グローバーズコーナーズに住む許可をもらったから、家を作ろうかってことになって」

「あ、それでおウチを立てる【九十九神】を作るんだね」


 ハガネがうんうんと頷いている。


「なるべく一緒にいて、大事に使ってあげるといいんだよ」

「クリームと同じこと言ってるな」

「だって、クリーム様から教わったんだもん」


 クリームとハガネの師弟関係は良好そうだけど、今回ハガネが怒ったけど大丈夫かな。


「ハガネ、クリームに謝らなくて大丈夫なの? 怒っていたけど」

「ちゃんとクリーム様も自分が悪いってわかってるよ、そうじゃなきゃ私が怒る」


 おお、強気だな。

 いつもちょっと眠たげな目もバシッと開いてる。


「剣同士は上下関係が厳しいんじゃないの?」

「上下関係間違えたのはクリーム様だからいいの。

 ユーリが一番なの」

「ああ、そういう理屈なんだな」

「うん。でも、反省してると思うから、できたらクリーム様のこと許してあげて」


 オレは興味本位で聞いてみた。


「許さないって言ったら?」


 ハガネは少し間をおいて考えると真剣に話し出した。


「ちゃんと切腹させるね。

 私がクリーム様の介錯をするよ。

 クリーム様にはお世話になったけどユーリに嫌われたらしょうがないよね。

 私にクリーム様の代わりが務まるかわからないけど、筆頭武器としてちゃんと頑張っていくよ」


 ハガネが涙を拭いて「私頑張ります」アピールをしてくる。

 クリームより普通の女の子っぽいところがあるな、と思っていたハガネもやはり武器なんだなあ。

 

「ハガネ、本当に怒ってないから。

 オレ、クリームのこと許してるから」


 きちんと言っておかないとな。後で、ハガネとクリームが揉めても困るし。


「うん。ユーリは優しいね」


 さて、オレの気持ちも整理できた。

 

「ハガネ、家の模型を作りたいから戻ろうか」

「うん。どんな家にするの?」


 二人で歩いているとハガネがオレの腕を取ってきた。

 腕を組みたいらしいので、そのままにさせ二人で歩く。


「一緒に考えてくれる?」

「うん。お風呂は大きいほうがいいよね。

 料理もみんなで作れたほうがいいから、台所は大きい方がいいよね」


 うんうん。家庭的な女の子感覚だな。

 家の設計担当はハガネにしよう。

 クリームはクビだ。クビ。


 ☆★


 オレとハガネが家に戻った時、クリームは土下座をしてオレ達を出迎えた。

 

「クリーム、とりあえず顔をあげようか」


 オレは許すと決めた。


「許していただけるんですか?」


 クリームはちらっとオレの顔を覗き見た。


「いいよ。クリームは一生懸命やってくれているから」

「何も聞かないのですか」

「言うなら聞く。言わないなら聞かない。言いたくないことだってあるだろ? 

 オレだって言われたくないことや、聞きたくないことだって山ほどあるんだ」


 クリームは瞳に涙を浮かべオレを見つめた。


「……すいませんでした。ユーリ様。あなたの心を弄んだこと、深くお詫びします」


 あまり土下座しすぎても穴が開くよ。


「ハガネが、許してあげてって言ってた。

 だから許そう。クリームもハガネが怒ったこと許してあげろよ」


 クリームは、目を潤ませ感謝している。


「ありがとうハガネ」

「これからも、一緒に頑張りましょう。クリーム様、ユーリのために」

「そうですね、ハガネ!」


 二人は固く握手を交わした。


「では、間取りの話の続きをしましょうか」


 クリームはウキウキしている。


「あのね、クリーム。

 間取りや設計のことはお前はクビだ」

「え? どうしてですか」


 クリームが詰め寄ってくる。


「ユーリは寝室とか台所とか必要なの。

 クリーム様はそこらへん戦いしか考えてないから向いてない、と思います」


 ハガネは明らかに途中から敬語に変えた。


「ということで、ハガネ中心に任せようと思う」

「ハ、ハガネ!」


 クリームがハガネを抱き締める。


「どうしました、クリーム様」

「すごく頑張ったんだね、ハガネ。人間のことについてユーリ様のために勉強したんだね。

 よく頑張ったね」

「……クリーム様」


 クリームがハガネを誉めている。

 そうか、ずっと考えていたんだな。人間には何が必要なのか。

 オレが見ていないところでも頑張ってたんだな。


「私、ユーリの役に立ちたいんです。頑張りますよ」


 頑張る、といったハガネはどうしてか少し寂しそうで。

 

「そんなに気を張って頑張らなくていいからな」

「……私に出来ることは少ないから。

 ユーリ、お風呂場を考えようよ」


 ハガネを中心に家の間取りを決めていった。

 寝室も複数、大きな風呂、台所を大きく。全天候型の稽古場、鍛冶場、機織り場……etc。


 勢力拡大を狙うクリーム、居住性を上げたいオレ、バランスを取ろうとするハガネ。

 いろんな思惑が絡み合った結果、結局「家」のレベルで収まらず、「屋敷」ぐらいのものを作る羽目になった。


「うーん、これだといかに職人道具の九十九神と言えど一日じゃ屋敷が建たないような気がしますね」


 木片に目一杯書かれた間取り図を見て皆満足していたが、これ屋敷だいぶ大きいよな。大変なんじゃないか?


「3日後くらいから、立て始めましょう。クリーム様。

 それできっと一日余力が出来ると思います。

 二日で建てて、一日予備日ができると思います」

「では、ユーリ様、3日、この子たちと過ごしてください。

 一緒に模型を作りましょう。

 そしたらこの子たちも九十九神として活躍してくれますよ」

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