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20 お屋敷の設計図を作ろう

「まずは間取りを書いた設計図ですね」


 クリームが薄い木片を取り出した。


「うーん、この木薄片作った人は技術が低いですねえ」


重圧プレス


 あっという間に延ばされさっきの木片は4倍ほどの大きさになった。


「クリームは魔法まで使えるのか? それにしても器用なもんだ」

「お褒めに預かり光栄です」


 ローブを持ち上げ、ひざを曲げ体を傾ける。クリームはこの淑女のポーズが好きみたいだな。


「【九十九神】の中で伝説級レジェンズに到達したものにとっては、魔法の行使など当然のことです」


 クリームは得意そうだ。

 オレはだんだんクリームの扱い方がわかって来たぞ。


「ハガネにも教えてあげたらどうだ?魔法」

「ハガネはまだランクが足りません。

 ハガネとたくさんの時間を共に過ごし、一緒に戦って経験を積み、褒めて育ててあげなければハガネは魔法など使えるようになりません」


 クリームは黒い瞳を見開いて真剣にオレを見つめたままオレの手を強く握った。


「ユーリ様。一緒に育てていきましょう、あの子を」


 クリームがオレの手を握り込む力強さにハガネを思う気持ちが込められてるんだろうな。

 オレも嬉しくなってその手を握り返した。


「わかった。一緒に鍛えていこう」


 オレの言葉にクリームは柔らかな笑顔を浮かべて返す。


「一緒に過ごしてあげてください。

 ハガネとも。この子たちとも」


 クリームはオレの手の上にあるカンナとキヅチに触れた。

 

「さて。では設計図を書いていきましょうか」


 すぐに戦士の顔に戻る。

 いつも凛とした顔をしているが、それは仕事の時の戦士としての顔なのかもしれない。


 クリームにはプライベートの顔の時間が少ない。

 クリームも羽を伸ばせる時間があってもいいのかもな。

 クリームは基本物凄く働きものなのだ。

 もう少し仕事が少なくなれば、今みたいな笑顔をしてくれる時間が増える、かな。


「……私の顔をじっと見てどうしましたか。

 色気のある唇だと評判ですよ」


 クリームが人差し指を唇に当てる。

 

「可愛いよ」


 少しふざけているときのクリームは照れ隠しでやってるんだろうな。

 オレは本当にそう思っているが、あえて口に出してクリームの反応が見たかった。


「……そこまでの笑顔を向けて褒められるのには慣れていません……」


 髪の毛をくるくるともてあそぶクリームはとても素直で、見てて楽しい。

 からかうつもりはないけど、ちゃんと褒めてあげよう。


「可愛いよ、クリーム。唇も素敵だよ」

「……ありがとうございます」

「あ。もしかしていつも唇の色変えているの? 今日のはキレイな桃色だね」


 クリームはまだ照れているのか髪の毛を弄びながらもオレの言葉に笑顔になった。


「心憎いですねえ、ユーリ様。

 私、唇の色を毎日変えていますよ。その日の天気によって。

 こんな気配りができるユーリ様を嫌う女子がいるなんて人間は不思議ですねえ」

「……ははは」


 オレが人間の女の子に今みたいなことを言ったら、叫んで他の人を呼ばれるか、ヤリを投げつけられるか、唾を吐きかけられるか、どれかだな。


 ごくまれに助けを呼ばれながらツバをべっとりつけた槍を投げられるぞ。

 そこまで嫌われるかか、と思ってその日は寝れなかったな、たしか。


「こ、こほん」


 クリームが気まずく思ったのか、話題を変えようとヘッタクソな咳などしている。

 空気なんて読めたんだな。


「では、とりあえず部屋数をどうするかですが」

「おー、夢が膨らむな」


 オレは旅暮らしが長かったので、立派なものは必要ないけど、初めから作っていくって感覚はいいよな。

 

「まず、稽古場」

「え、必要か? それにまずって何だよ。まずは寝室だろう」

「いえ、どこでも寝れますから。稽古場は野外で行うと危険です。

濡れて足が滑って武器が顔に当たるなんてこともありますから」

「たしかに、稽古場が必要なのはわかるけど、オレはクリームやハガネみたいに剣型にはなれないんだから寝室は必要だってば」

「それはそうですね。新発見です」

「新発見ってお前な。まず、オレ達の身に立ってくれ。人間が暮らしていく場を作るぞ」


 クリームに任せてしまおうかと思ったけど全く駄目だな。

 発想が武器の域をでない。

 オレも口を出そう。


「オレが主導権を握るぞ」

「はい、わかりました。仰せのままに」


 さて、どうするか。


「まず寝室だ」

「はい」


 少し反省したのか、しおらしい。


「大きなのが一つと」

「それぞれ奥様方の寝室が20程あればよろしいでしょうか」

「え?」

「え?」


 二人とも顔を見合わせた。


「奥様は20人もいらないし、これからも20人に増やすつもりはないよ」

「いやいや、困りますよ。奥様にしなくていいですから、せめてお子さんは増やしてもらわないと」

「何が困るんだよ」

「【九十九神】の子種を増やさないと……あ。そういうことですか」


 手をパチンと合わせ、何か合点した模様。

 絶対トンチンカンなこと言うぞ、コイツ。


「結局人間でユーリ様のことを好きになる女子などいませんからねえ。

 わざわざ奥さんにする必要はありませんね。奴隷にでも産ませましょう」

 

 さすが人間をへと思ってない女だ。オレの子を畜産的に増やしてもらっては困るぞ。


「クリーム、お前何言ってるの? そもそも人間でオレのこと好きになる子がいないって何? 聞き捨てならないんだけど」

「え? いないでしょ。自分のスキルわかってますか?」

「……イザベラは、少なくとも他の人よりオレのことをわかってくれているようだった」

「結局捨てられたじゃないですか」

「おい、マジかお前。そこまでストレートにオレの傷えぐるのか」

「目を覚ましてくださいよ、ユーリ様。人間なんてゴミですよ、ゴミ」


 クリームがオレの肩を握ってゆすってくる。オレも人間なんだが?


「ユーリ様のこと好きになる女子なんて100パーセントいませんよ。目を覚ましてくださいよ」

「……いや、どこかにきっとオレを好きになってくれる人が……」


 オレはクリームから目を背けた。


「いなかったでしょう。……いや、居ましたね。

 少なくとも一人はあなたを好きな女の子がいました。

 でも今はいません。体と心の成長と共にスキルも成長したからでしょう。

 人の心は変わってしまうものです」

「やめろ、思い出させるなよ……」


 オレの口から何か泡的なものが出ているが止められない。

 たぶん、オレの顔は海よりも青く、土よりも濁っている。


「その子につらく当たられて、少しだけましな対応をするイザベラにあなたは惹かれたふりをしたのでしょう。

 イザベラが他の人と違った対応をしたのは、あなたが好きだったからではありません。

 イザベラが普通の人間ではないからです。

 イザベラの目を見たらわかります」

「いや、違う……人間だった、人間だったんだよ、イザベラは……」


 オレはガタガタ震えている。いままでの人間の女の子のオレを見る目を思い出していた。

 嫌な視線を投げてくるどころか、出会い頭でジャベリンを投げてくるのが人間女子だ。

 怖い、怖い。ああ、もう、だれも――人間は信じられない!


「まあ、何も人間を奥さんにしなきゃいけないわけでもありません。

 獣人やエルフなど見目麗しい亜人は世の中にたくさんいますからね。

 それに――私たち九十九神がいつもあなたの側にいますよ、ユーリ様」


 満面の笑みのクリームは優しい瞳で俺を見つめていた。

 クリームが天使に見えた。

 いや、天使はクリームだったんだ!


「あ、ああ。怖い、怖いよ。クリーム、クリーム」


 オレはクリームに抱きついた。


「よしよし。人間は怖いですねえ。我々がいますからね。

 人間なんかと手を切って、亜人やエルフ、魔族と結託してこの世を征服しましょうね」

「う、うん! オレ世界征服する!」

「そうですね、それがいいですねえ。

 そして、それが終わったらあの憎い女神を殺しに行きましょうね」

「……」


 そのとき、ハガネがバーンと扉を開けて入って来た。


「ハガネ」

「今クリーム様。ユーリをいじめてなかった?」

「いいえ」


 しれっとクリームが答える。


「嘘だッ!」


 ハガネが近づいてきて足腰が立たないオレの手を引く。

 クリームから俺を剥ぎ、抱えあげた。


「大丈夫?ユーリ」

「ハガネ、ハガネ。怖い、怖いんだ。みんなオレのこと嫌いなんだ……」

「そんなことないよ、ユーリ」


 オレはハガネにしがみついた。


「いじめてなんかいないわ」


 ハガネがクリームを睨む。


「私なんとなくわかるんです。遠くにいてもユーリが何を考えているか、何を感じているか。

 もしユーリをいじめたって言うなら、クリーム様だって許さない」


 ハガネの目に闘志が宿っている。

 クリームが目を丸くしている。


「思いのほか成長が早くて嬉しいわ。ハガネ」


 クリームがハガネに近づく。


「謝るわ、ハガネ。私、ユーリ様に私たちの――九十九神の味方になって欲しかったの。

 だから、あえてユーリ様の傷をえぐって私たちに依存させようとしたわ」


 クリームがハガネに頭を下げた。


「ユーリがこんなに震えている」


 ハガネがクリームをにらんだまま告げた。


「私許さない。許さないからね!」


 ハガネはオレの手を引いて、乱暴にドアを閉めた。

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