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19 グローバーズコーナーズ

 オレは獣人族の反乱のことを話した。


 できるだけ簡潔に。飾らずに。

 散って行った10人のところは覚えている限りのことをしっかりと話した。

 みんな、素晴らしい武人だったから。


「頑張ったね、ユーリ」


 話し終えたオレにハガネが抱きついてきた。

 

「ユーリ様、知らなかった私をお許しください。

 多くを話さなかった逃亡者の話を断片的に聞き、勝手に恨んでおりました。

 アーロンの子、アレハンドロと申します」


 アレハンドロの話を皮切りに、次々にあの時の逃亡者の親類縁者の話が出た。

 すまない。オレは君たちの顔をまっすぐ見れるほど強くはないんだ。


「オレにはあの解決方法しかなかった。

 死体を弄んだこと、深くお詫びする」

「何を言ってるんですか、ユーリ様!

 みんなわかっております!」


 頭を下げたオレに、アレハンドロが近づいてきた。


 オレは恐る恐る顔を上げる。

 

「ユーリ様!ユーリ様!」


 オレを呼ぶ声と拍手が鳴りやまない。

 村長がオレに話しかけた。


「あなたがどんな人かは伝わりましたよ、ユーリ様」


 村長が重ねて頭を下げた。


「頼りない友人ではございますが、この村はあなたと共に歩みたいと思います。

 ようこそ。

 わが村、グローバーズコーナーズへ。


 この村の創始者が【世界の一隅ひとすみ】とこの村を名付けました。

 けして世界の真ん中ではございませんが、我々はあなたと歩んでいきたいと思っております」


 村長が手を差し出してきた。


「ありがとう」


 オレからも心からの感謝を伝えたい。

 村長と手を握った。


「ユーリ様の領地一つ目ですね」


 クリーム何か言ったか?


 ☆★


 オレ達は好意を持って迎え入れられた。

 反乱のことを話すのはオレにはだいぶ負担だったので一旦部屋に戻らせてもらった。

 夕方には歓迎の宴会をしてくれるらしい。

 それまでゆっくりさせてもらうとしようか。


 クリームが近づいて手を取ってきた。


「ユーリ様!

 私は感動いたしました。

 あの10人の戦士へのはなむけを、同胞を守って死んでいくという大義まで添えてあの世へ送ってあげるとは!

 いやー、さすがユーリ様。

 私も是非死ぬときにはユーリ様とシアイたいものです!」


 そうだね、やっぱりクリームはそういう意見だね。

 なんだか心が軽くなるよ。


 そしてクリームの言っている「シアイ」っていうのはきっと「試合」じゃなくて「死合」って書くんだろうね。

 いや、わかるからいいんだ。

 クリームはわかりやすくていい。


「はじめてクリームの言葉で癒された気がするな」


 クリームは笑いかけてくれた。


「私も戦闘を担当いたしますが、側仕えでございますから命じていただければ何でも致しますよ」


 何で近寄るんだ。近いって。

 オレは手を振りほどいてクリームと少し距離を取った。


「そういえば、ハガネは?」

「外を歩いてくるって言っていました」

「え? ハガネが? 一人で?」


 オレは驚いてしまった。

 ハガネはオレと離れたりはしなかった。

 一人で出歩いたりもしなかった。

 ずっと、側にいてくれた。


「ええ、一人で行きました。

 私も、ハガネが自我を発揮することはいいことだと思っておりますので、特に止めはしませんでしたが……」


 クリームがオレをちらりと見た。

 

「ユーリ様が一緒にいたいと望むのであれば、呼び戻しますが」

「……いや、そういうわけじゃない。

 ただ、びっくりしたんだ」


 そうだよな、ハガネは生まれたばかりなんだから成長するよな。

 いつまでも前のまんまじゃないよなあ。


「それと、ユーリ様」


 クリームが姿勢を正し、ひざまずいた。


「ハガネのいない今、【九十九神】について説明したいことがございます」


 クリームはあたりを気にしながら説明を続けた。


「ん? ハガネがいると出来ないのか?」


 クリームは優しく微笑んで、オレは少しドキッとしてしまった。


「……私も、ハガネの気持ちわかりますから」


 そういったクリームの顔は珍しく戦士というより、女性らしかった。

 少し陰のある笑顔、こんな顔は見たことなかった。


「ハガネに話をさせるのも酷というもの。

 ただ、ユーリ様に我々のことについて知って欲しいのです」


 クリームはオレをじっと見つめた。

 黒髪黒目のクリームヒルト。

 おれもまじまじと見つめてしまい、ぽてっとした柔らかそうな唇がつい気になる。


「ユーリ様、ハガネを作った時のことを覚えていますか?」


 そう話しかけてきたクリームの顔はもう元の戦士の顔に戻っていた。


「どういう状況だったかは覚えているけど」

「あとでハガネに聞きましたが、手順を偶然満たしたということのようです。

 どうですか、ユーリ様。

 我々戦闘用の九十九神だけでなく、生活を共にする九十九神を作ってみませんか?」

「あまり考えたこともなかったな」


 クリームは胸を張って説明してくれた。


「フフフ、便利ですよ。料理とか、鍛冶とか全般的にお任せできますよ」

「んー、でもこれ以上増えると狭くならないか?」

「フフフ、さすがユーリ様! 私の言いたいことを瞬時に理解していただける。そうです」


 え? 何がそうですなの?


「まずは、家の九十九神ですね。

 これから、どんどんユーリ様の勢力を拡張していくわけですから、広いお屋敷が必要です。

 さすがユーリ様。

 とすると、家を作れる大工の九十九神が必要となるのです。

 こちらを」


 クリームが道具を取り出す。


「今日は一日、この子たちと過ごしてみてください。

 村長に話をつけて借りてきた、年季の入った職人道具です」


 オレは渡された二つの道具を手に取る。


「これは?」


 一目で使い込んだと分かる道具たち。

 なるほど、何かが宿っているとしてもおかしくはない雰囲気があるな。


「カンナとキヅチ。

 本日はこの二人と過ごしてあげてください」


 クリームはこの道具たちを既に二人と呼んだ。

 ハガネのようにヒト型を取るようになるのだろうか。


「えっと、どうすれば……」


 この子たちとどう過ごせばいいんだ?


「基本はハガネにしていたようにしてあげてください。

 いつも傍らに置いて、そして使ってあげてください」

「ハガネのように武器であればお安い御用なんだけど、大工道具は専門外だしなあ」

「基本は肌身離さず身に着けているだけで大丈夫ですよ。

 私にいい案があるんですよ」


 クリームは木片を持ってきた。


「今からお屋敷の模型を作りましょう」

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