12 ロラン・クドリン
ボクはアイツになりたかったんだ。
いつもいつも負けていたけど、今日はいつものボクとは違うからな。
――最近あいつが気に入らなくてしょうがない。
ねーちゃんが、アイツばかり見ているからだろうか。
「よー、ロラン。
剣なんか持ってどこいくんだ、お散歩か」
ねーちゃんとユーリが話していたのが気に食わなくて、後ろからコッソリ一発くれてやろうと思ってたら勘づかれた。
フン、運のいい奴だ。
「お前に勝負を挑みに来たんだよ、ユーリ!」
気づかれたところでボクのすることは変わらない。
今日こそは一本取ってやるんだからな。
「ねえ、ロラン」
「なんだよ、ソフィア」
ねーちゃんことソフィアが眉を吊り上げた。
「ソフィアですって?
ロラン、ちょっと来なさい。
いつも『お姉ちゃん』って呼びなさいって言ってるでしょう?」
うるさいな。
ボクにも今日【魔法使いの加護】が出たんだ。
ボクだけ子ども扱いなんてさせないからな。
ねえちゃんが――ソフィアが大ケガしないように、ボクだって隣りに立てる男になるんだ!
ねえちゃん、ねえちゃんって――そんな子どもみたいな呼び方出来ない。
勇者パーティーの中でボクだけ半人前みたいじゃないか。
ボクが冒険者になりたかったのは、誰かを見捨てて逃げるためなんかじゃないんだ。
「うるさいぞ、ソフィア。
ボクはユーリと戦いに来たんだ。
男と男の戦いだ。
黙って見てろ!」
ボクはソフィアに大声で言ってやった。
「ロラン、あなた何て言ったの? 私に向かって黙って見てろって言った?」
「ちょ、ちょっとソフィア」
今にも飛んで殴りかかってきそうなソフィアをユーリが止める。
「なあ、ソフィア。ロラン大きくなったと思わないか? 身長は伸びたし、剣技だって随分上手くなった」
ユーリはソフィアを食い止めながら話す。
「それはそうだけど。
でもロランは私の弟よ。
ロランは私をお姉ちゃんって呼ぶのよ。
そう決まってるの!」
ソフィアはずっと姉さんぶってくる。
勉強だって、剣術だって、魔法だって……ボクはソフィアに叶わなかった。
だから、ボクはユーリに挑み続ける。
姉さんが剣術で敵わなかったユーリに勝つことでボクは姉さんを――ソフィアを超えて見せる。
なぜソフィアと戦わないのかだって?
姉さん――ソフィアはボク相手だと手加減してしまうからな。
それに、ボクだって本気が出せない。
ケガして欲しくないしな。
顔にケガなんかしたら可哀そうじゃないか。
「用意はいいか? ユーリ」
「お前こっち見てたか? ソフィアを落ち着かせるので手いっぱいだったんだよ」
ユーリは、めんどくさそうに答えた。
「ロランには悪いけど、ご飯食べてからでもいいよな?」
☆★
稽古場には試合を行うボクとユーリ。
そして、立会人はソフィア。
それだけで十分なんだけどオリガが側に控えている。
おそらくケガをしては大変とソフィアが気を利かして連れてきたのだろう。
まったく、過保護なことだ。
のされて【癒し手の加護】を持つオリガの世話になるのはいつもボクの方だったけど、今日は違うんだからな。
ボク達は互いに木剣を持ち構えた。
ボクは剣先をユーリに向ける。防御と攻撃への意識を半々に持つスタンス。
対してユーリは上段に構える。攻撃の意識の高い構え。
ユーリは人によって構えを変える。
ボクと本気で戦う時は上段が多い。
リーチとパワーで圧倒するつもりだろう。
手の長さがあるのでどうしてもユーリからの攻撃が先に届く。
そこをかいくぐって一撃入れるかってのが大きな課題だ。
「それでは。このコインが下に落ちた時から開始でいいね」
ソフィアがコインを投げた。
コインが下についたとたん、ユーリが一気に距離を詰めてきた。
今日を逃すとボクはユーリに一生勝てないかもしれない。
ボクは、絶対勝つって決めたんだ。
【爆裂魔法】
ボクは、自分の後ろに爆裂魔法を放ち、推進力へと変えユーリに剣を持って突撃した。
ユーリの剣が振り下ろされるより早くボクはユーリの懐に入り込む。
「【魔法使いの加護】か?いつもとは威力が違いだな」
「ユーリの懐に潜り込むにはこれしかなかったんだよ」
【火球】
ボクは生半可な魔法攻撃では素手ではじいてしまうユーリに大してその時使える最大の魔法を叩き込んだ。
ユーリは後ろを気にすると、避けもせず全力で受け止めた。
ボクはそのとき気付かなかった。
後ろにソフィアがいたことを。
どうやってユーリの攻撃をかいくぐり一撃を加えるかしか考えていなかった。
全力の炎がユーリに襲い掛かる。
ユーリは少しもソフィアに攻撃が向かないようにその場で全て受け止めた。
ボクが【魔法使いの加護】に目覚めた日、ボクは初めてユーリに勝った。




