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ss 王都への帰還

途中、イザベラ視点に変わります。

 アレクセイの指示のもと、イワンをはじめとした生存者は救出され、騎士崩れの生き残りは神妙に縄についた。

 反抗することの無駄さをブリュンヒルデが見せつけたやったからだろう。

 

 ひと眠りから覚めたオレは一人部屋に取り残されていて、窓から屋外で行われているティーパーティーの様子を見た。

 ブリュンヒルデは湯あたりから回復し、さわやかなストライプのワンピースドレスには一点の皴もなかった。


 手早く着替えたオレはブリュンヒルデのとなりに座って、みんなとの談笑やブリュンヒルデとの他愛のない話を楽しんだ。

 ジーナはアレクセイと言い合いをしていたときの勝気さはなりを潜め、四六時中ナターリヤの陰に隠れ、オレを盗み見てモジモジしていた。


 レナトは、腸詰をたっぷりいただいてご機嫌だ。


「ユーリ様、昨日騎士たちと戦ったんだろう?

 オレも連れて行ってほしかった」


 レナトは不服そうにオレを見つめた。


「夜ですから、ペットは家で寝ているものですよ。

 私とユーリ様のデートについて来てはいけません」


 ブリュンヒルデは優しくレナトに骨をあげた。


「さあ、お食べ」

「ユーリ様、オレはネコ族だから骨は食べないし、夜行性だぞ。

 ブリュンヒルデさまはオレをイヌ族だと勘違いしてるぞ」


 レナトはオレにブツブツ文句を言っていた。

 イヌ族と勘違いされたことは怒っているけど、ペット扱いについては怒らないんだね。

 だって、レナトはブリュンヒルデに頭をなでてもらって尻尾を振っているんだから。


 ☆★


 ユーリ様がティーパーティーから帰って来た時のハガネ様の喜びようと言ったらありませんでした。

 それもそのはず、いつも定期連絡をかかさないブリュンヒルデ様からの【共鳴】、九十九神様だけが使える連絡方法が一日ばかり途絶えていたのですから……


 ユーリ様のいない間、王の間に座っていたハガネ様は何をしていても落ち着かないといった様子で、体の感覚を敏感にしわずかな物音にも反応し、いまかいまかとユーリ様の帰りを待っているようでした。

 そんなハガネ様が可愛らしくて、私はお茶を入れたり、お菓子をお持ちしたりしておもてなしをしていたのですが、心ここにあらずと言ったご様子で……あ、しっかりお茶もお菓子も召し上がってはいましたが……


「イザベラ、私ユーリを探しに行く。止めないでよね!」


 わざわざ私に言ってから旅立とうとするところがハガネ様の可愛いところではありますが……私はクリーム様からハガネ様の見張りを命じられている身でして、早々にクリーム様にご連絡をし、このようにハガネ様は縛られているわけです。

 運良く王宮を抜け出せたとしてもそのドレスだとあっという間に街の人々から見つかってすぐに人だかりができてしまい、王都に連れ戻されるでしょうけど。


「ハガネ。

 ユーリ様不在の今、あなたがこの国を預かっているのです。

 そんなに簡単に任務を放棄するのであれば、王妃の座、私に譲ってくれてもいいのですよ」

「……嫌です」


 ハガネ様が、小さく、けれども確かにクリーム様の申し出に拒絶を示すと、クリーム様は微笑みを浮かべてハガネ様への戒めを解きました。


「私だってユーリ様を心配しています。

 いつも通りの仕事をしてユーリ様の帰りを待っていましょう。

 この国が前より素敵になっていたら、きっと褒めてくださるでしょうから」

「そうですね、私がこの国を守らなきゃ」


 クリーム様の言葉にハガネ様は笑顔を取り戻したようでした。

 

「ただいま」


 ユーリ様が気配もなく私の足元の陰から現れました。


「あら、皆さまお揃いで」


 後に続いてブリュンヒルデさまも陰から当たり前のように黒傘を差して現れました。


「ユーリ!」


 ハガネ様はユーリ様に飛んでいきました。


「ただいま、ハガネ」


 ユーリ様は何でもない様にハガネ様の体を受け止めていましたが、ユーリ様がグッと足元に力を入れているのを見つけてしまいました。

 ハガネ様はいつもユーリ様に飛びつくように抱き着いていますが、実はユーリ様は陰ながら努力をしているようです。


「ブリュンヒルデ、私たちに謝ることがあるでしょう」


 クリーム様がブリュンヒルデさまに詰めよりました。

 連絡が取れなかったことを責めているのでしょう。


「ティーパーティーに行っていたのですが、すみません。

 私、失神してしまいまして……連絡が取れなくてすいませんでした」


 ブリュンヒルデさまが珍しくこうべを垂れておりました。


「失神? 大丈夫なんですか?」


 ハガネ様が心配されておりました。


「ああ、大丈夫湯あたり……」


 ユーリ様の口にブリュンヒルデさまがピトッと人差し指をあてて言葉を制しました。


「ひょんなことから騎士崩れと戦うこととなった私たちは、連絡をすることもできないピンチに巻き込まれていました」


 ブリュンヒルデさまは実に生き生きと話しておりました。

 ですが、周りで聞いているクリーム様もハガネ様も冷たい視線でブリュンヒルデさまを見つめております。

 ユーリ様とブリュンヒルデ様をピンチにさせる人間など想像できませんから。


「私があわや騎士の槍に貫かれようとしていた時、さっそうとユーリ様が私を助けに駆けつけてくれたのです」

「あ、だからブリュンヒルデさまは嬉しそうなんだね。ユーリに助けられたから」


 ハガネ様もとても嬉しそうにしています。

 自分が助けられたときでも思い出しているのでしょうか。


「私を助けてくれたユーリ様はお姫様抱っこで村まで連れ帰ってくれました」

「いや、そんなことはしてないけど……」


 ブリュンヒルデ様はユーリ様のつぶやきを無視して話を続けます。


「戦いのさなか、心の距離を縮めた二人。

 ユーリ様は激しく私を求め、私にぶつけられるユーリ様の愛の激しさに生娘の私は……失神してしまったのです」

「でたらめ言うなあ! 湯あたりしただけだろうが!」


 ユーリ様が怒ってブリュンヒルデさまを問い詰めます。


「私が起きた時、ユーリ様は私の手を握ってくれていました。

 きっと、一晩ずっとユーリ様は私の手を握ってくれていたのです」


 ブリュンヒルデさまがユーリ様に体重を預けられ、倒れそうになっているブリュンヒルデさまをユーリ様が優しく受け止めました。

 これは、信頼がないとできないことです。支えられなければ、地面に体を打ちつけてしまうのですから。


「いや、手を握って一緒に寝たのは確かにその通りなんだけど……」


 ハガネ様はブリュンヒルデさまを引っ張り上げ、ユーリ様から引きはがしました。


「明日、私ユーリと遊びに行く」


 ハガネ様の声にはこころなしか怒気がこもっているように聞こえました。


「ハガネ、明日は仕事が詰まっていますよ」

「嫌です、私は明日ユーリと街を見て回るんです!」


 ハガネ様は、クリーム様の言うことに耳を貸しませんでした。

 九十九神様たちは武器として、階級が上の方には決して逆らうことはありませんのに……


「わかった。

 ハガネ、明日は一緒に街に遊びに行こう。

 だから、とりあえず、今日は寝かせてくれ。

 仮眠しか取っていないんだ」


 ユーリ様は瞼をこすっていました。


「だって、裸の私を拭くのに夢中で夜更かししてしまいましたからね」

「お前、湯あたりしたふりして起きてやがったのか!」


 ブリュンヒルデさまは、ぺろっと舌を出し、黒バラのカチューシャを外すといつもの鍔広帽子をかぶっていました。

 表情の見えづらい姿をしていもブリュンヒルデさまの頬が紅潮していることと、口元が笑っていることは私にも見ることが出来たのです。

お読みいただきありがとうございます。

次話もイザベラ視点のお話です。



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