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10 女神の嫉妬

「いま、何て言った?」

「どうやって女神を殺すか考えていきましょうと言いましたが、何か?」


 黒髪黒目のクリームヒルト。

 スラっとした長身。

 唇は少しぽてっとして顔の造形はかわいらしいさが残る。


 えっと、その唇から女神を殺すって聞こえたんだけど……


「【九十九神】を得るものは、ことごとく厄災を押し付けられるのです。

 この世界には人の身を超えた力を持つものたちがまれに現れます。

 そして強すぎる力に関して付随するようにペナルティが与えられるのです。

 人はそれを【女神の嫉妬】と呼びました」


 以前にも【九十九神つくもがみ】という無生物を支配し擬人化する力を持ったものがいたのか。


「前にもオレと同じ力を持った者がいたのか」

「はい。あなたと同じようにペナルティスキルという力の代償を背負わされて」


 クリームは悲しい顔をした。

 そいつ――オレの先代はどんなペナルティを受けていたのか。

 聞くのが怖い。


「【セミ】というペナルティを。

 12歳の誕生日に【九十九神】を開花させ、7日後に命を落としました。

 あの女神はけして【九十九神】を許しはしないのです」


 7日間で何ができるのか。

 それこそどこかの国の創世神話では神は7日間で世界を作ったそうだが。

 

 実際7日間では何ひとつ成し得ないだろう。


「とはいえ女神に立ち向かうなど難しい話です」

「そ、そうだよな」

「とりあえず、生活の拠点をどこかに求めてはいかがでしょうか」


 拠点か。いつまでも廃小屋にいるわけにもいかないしな。

 廃小屋の外から言い争うような声が聞こえてきた。


「聞こえましたか?」

「見てくるね」


 ハガネが外を見に行った。


 金属が打ち合う音が響いた。

 

 オレは外していた革鎧を身につけた。


「とりあえず様子を見に行くか」

「ユーリ様。今日は私を使ってくれますか?」


 クリームは戦いたくてうずうずしているようだ。


「聖剣で相手しなきゃいけないような奴なもんか。

 ここにいるだけでわかるぞ」


 打ち付けられる金属の音で、達人かそうでないかくらいはわかる。

 近所の盗賊かなんかだろうな。


 ★☆


 小屋を出ると、ハガネが武装した男達相手に立ちはだかっていた。

 男達の足元には抵抗したであろう獣人の死体。


 ハガネの後ろには、獣人の少女。

 少女の髪の位置に耳がある。

 ネコ族かな。


「やめて! 怖がってるでしょ」


 ハガネが男たちに話しかけた。


「ひははは。オレ達は怖くないぜ。

 ちょっとこの女の子の引っ越しを手伝っているだけだよ」

「引っ越しって?」


 ハガネはネコ族の少女に聞く。


「みんな、馬車で連れてかれたんだ。奴隷にされて……抵抗した人は……」


 少女は倒れていた死体を指さした。


「ひどい。なんてことするの?」


 ハガネはネコ族少女の味方のようだ。

 

 困った状況だなって。

 以前のオレなら言うんだろうな。

 人間の味方だから。

 

 獣人を捕まえて奴隷にすることには何も問題ない。

 その土地の領主の了解を得れば、殺そうが奴隷にしようがなんのおとがめもない。


 正直虫唾が走るようなことはいくつもあった。

 目の前で獣人が奴隷にされているのを見逃したこともあった。

 勇者パーティーだからって理由で。


 さらに言うと、奴隷扱いに耐えかねた獣人たちの反乱を力で押さえつけたこともある。

 領主からの正式な討伐依頼がオレ達勇者パーティーに届いて――オレはソフィアにそんなことをさせたくなかったから黙ってひとりで依頼を受けて獣人たちを皆殺しにした。


 領主からは金貨をたくさんもらった。

 その日は全くご飯が食べられなかった。


「何をしている?」


 オレは男達に話しかけた。


「獣人を捕えてるだけですよ。

 それをこの子が邪魔するんですよ。

 領主様の許可は得ております。

 手続き的には何の問題もないと思いますが?」


 リーダー格の槍使いがオレに証書を見せた。

 押印もされてある。

 なんのお咎めもない獣人採集だ。


「しかし、なんだかアンタと話してるとむかつくなあ。殺せ!」


 さっきまでの柔和な態度はなんだったのか。

 あっという間に殺したい程嫌われた。


 しかし、オレのスキル【ゴキブリ】はとんでもないな。

 毎日がベリーハードだぜ。


 男たちは輪を描くようにオレを取り囲んだ。


「やっちまえ!」


 別に素手で問題ない。

 奴らの振るう剣や槍を交わし、蹴り飛ばす。

 何人か相手にして気絶させた。


「まだやるか?」


 準備運動にもならない。

 

「ち、ちくしょう」


 リーダー格の男がハガネに槍を向けた。


「ぎゃっははは。やってみろよ。

 この子が殺されても良かったらなあ!」


 下衆の所業だ。

 あいつがハガネに攻撃する前に殺せるとは思うが万一のこともある。

 ハガネを傷つけられたくはない。


「九十九神よ。

 一時仮初めの力を貸そう、その男を貫け!」


 リーダー格の男の槍は男の心臓を目掛けてゆっくりと刺さっていく。


「ひ、ひ、何でおれの手がオレの心臓を刺す? 

 うああああああああ!」


 男の槍が胸の中心を貫くと、ドボドボと血が流れていく。

 えげつないことに槍はらせんを描いている。

 恐怖で固まった男はそのまま崩れ落ちた。 


「大丈夫か、ハガネ」

「うん。ありがとう」


 ハガネは礼を言ってくれたが、獣人の少女はオレを見て怯えていた。


 そうだよな、オレのスキルがあるもんな。

 俺なんか嫌いだよな。


 オレは、ウルウルしてしまった。

 

「オレに礼なんか言わなくていいから。

 ハガネ、その女の子が元住んでたところに送ってあげよう」


 オレは獣人の少女から遠ざかる。

 これだけ離れたら、さすがに殴りかかったり、唾をはかれたりしないよね。


 オレは嫌われ者だから、殴りかかられない範囲だって分かってるんだ。

 はははははは。


「ユーリ」


 ハガネは後ろを向いたオレの心をわかってくれているようだ。

 後ろから抱きしめてくれた。


「きっとあの子も本当はユーリに感謝してるんだよ。

 スキルのせいだからね、仕方ないよね。

 ユーリは悪くないんだよ。

 私を助けてくれてありがとうね。感謝してるよ」


 毎度のことながら心が痛めつけられるけど、オレにはハガネがいるから平気だよ。

 ……平気なんだ。


 そんなオレ達のところにネコ族の少女は歩いてきた。


「泣いているんですか? もしかして、私が怯えたからですか?」

「そんなにオレに近づくとイライラしてしまうよ。

 オレのことはいいからさ」


 精いっぱい強がる。


「助けてくれてありがとうございました」


 ネコ族の少女はもう一歩踏み出して、もぞもぞしながらもオレの手を取った。


 え?


「ねえ、平気なの?」


 ハガネがネコ族の少女に聞く。


「平気?……あ、男の人の手を触るなんてはしたないですかね?」


 ネコ族の少女はポリポリと頭を掻いた。


「で、でも私、怖がっていたんじゃないって伝えたくて」

 

 ネコ族の少女は頬を染めた。


「ホホってどうやったら染まるのかな」


 オレはハガネに聞く。

 だって、ホホが染まるのなんて見たことなんてなかったんだ。


 殺気で顔がゆでだこみたいに赤くなるっていのは見たことあるけど。

 それでオレを殺しに来る人はものすごく見たことあるけど。


「人を好きになったとき、かな」


 ハガネが答えてくれた。


「あ、あの。

 お名前は何というのですか?」


 ネコ族の少女はオレの名前を聞いた。


「ユーリ。……ユーリ・ストロガノフ」

「素敵な名前ですね。

 あ、あの! 私は、アリシアと言います!

 助けたお礼がしたいので私の村まで一緒に来てくれませんか?」


 少女は一生懸命オレに話しかけてくれた。

 目いっぱいホホを染めてオレの顔を見つめている。


 ネコは天使だったんだ。


 いや、天使はネコだったんだ!

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