01 SSS級の外れスキル
魔王城侵攻作戦の決起会が王城で行われた。
オレは早朝出発のため、挨拶を軽く済ませると一足先に部屋へ戻っていた。
オレ――ユーリ・ストロガノフは魔王軍との最終決戦に向けていままでの戦いを振り返っていた。
我ながらパーティーの柱としてうまく戦えていたと思う。
前衛として魔法使いや癒し手を身を挺して守り、魔法でひるんだ相手を勇者と協力して片付けてきた。
体を張り続けた結果、レベルもパーティ―内で一番高い。
これは誇っていいものだと思う。
ただ、オレのスキル【九十九神】はまだ使えるようになっていない。
かなりのレアスキルでどんな能力かだれも知らないのだ。
まあ、スキル抜きで戦えているのだから問題はない。
オレには勇者のような伝説級の武器や派手なスキルはないけど、それでもパーティーにしっかり貢献できているはずだ。
そもそもオレは武器の専門家であり、この愛用の「鋼の剣」でも伝説の武器を持った勇者だろうが遅れはとらない。
硬い装甲を持つドラゴンやストーンゴーレムでさえ、この背丈ほどある両手剣一本で相手をしてきたんだから。
さあ、明日も早いんだし、寝るか。
おっと、その前に鋼の剣を磨いておくとするか。
きれいにしてやるからな。明日からも頼むぞ、相棒。
剣を磨くために立ち上がると、ノックの音。
「オレだ。今から広間に来てくれ。5分後に来い」
勇者の声だ。言うだけ言って立ち去る。
オレの部屋に入ろうともしない。……恥ずかしがり屋なんだろうな。きっとそうだよな。いつもそう。はははははは。
☆★
オレが広間に集まった時にはみんなすでに着席していた。
「よう、みんなおそろいのようだな」
「……」
返事がない。
あれ、オレの挨拶聞こえなかったかな? 耳が遠いのかな。
「みんな、お そ ろ い だな!」
もっと大きな声で皆に声をかけた。
魔法使いは、オエッとあいさつをしてくれた。
癒し手は、ハエを追い払うように手を振ってくれた。
勇者は、唇を噛み締め血を流している。
――勇者、血を流し過ぎ。死んじゃうよ、大丈夫かな。
ははははははは。
いつもの挨拶なんだけどね?
こいつら人見知りがひどいんだよなー。
参っちゃうぜ。
勇者が苦虫を噛みつぶしたような顔でオレに話しかける。
「お前に言いたいことがあって、ね」
話しかけながら額に青筋を立て何度も足を組み替えていた。
「スキルのことだ」
「オレのスキルの【九十九神】の効果がわかったのか!」
ようやくオレもスキルが使えるようになるのか?
「ちげえよ! そんな名前だけ偉そうな何の役にも立たないスキルのことじゃねえんだよ!」
魔法使いが今にも吐きそうに叫ぶ。
「戦士のお前にステータス鑑定魔法かけていたんだが、うぜえことにレベルだけ高えだろお前。
いままでオレとのレベル差でレジストされて見えなかったんだけどよ。
この前、オレのレベルが上がったからようやくお前にも鑑定魔法が効いたんだよ。死ねよ」
なぜ、魔法が効いたら死ねばならないのか。
冗談きついんだよな、魔法使い。……ははは。
「それでさ、お前のステータス見たんだけどさ。隠しスキルがあってな」
「おお、そんな珍しいのがあったのか」
「見ろよ!」
ブィン!
魔法使いがステータス石板を風魔法を付与してオレの眉間目掛けて全力で放り投げた。
パシィィィ!
右手でキャッチ。
あぶな! 俺じゃなかったら死んでるだろ!
「チッ、運のいい奴だ」って言ったか?
さ、さすがに聞き間違いだよな。
それにしても隠しスキルってなんだろう。わくわくするな。
「見ろよ。見たら死ねよ」
だからなぜ、見たら死ななければならないのか。
「……?」
「オレのスキルは【九十九神】と……」
オレは目を疑った。
「【ゴキブリ】……」
え。
「【九十九神】の効果は鑑定できなかったんだけどよ。
【ゴキブリ】のほうはしっかり書いてあったぜ。
読めよ、音読しろよお!」
「オ・ン・ドク! オ・ン・ドク!」
魔法使いの悪ふざけに、癒し手が悪乗りしている。
オレは震えながらその文字を読んだ。
「【ゴキブリ】……このスキルの持ち主は、生きているだけで殺したい程人に嫌われる。
SSS級のレア・ペナルティスキルである。」
なにこれ、ひどい。
魔法使いたちはこらえきれず笑い出した。
「ひぎゃーっはっはっは。
ひっでえSSS級のレアスキルもあったもんだぜ!
あー、でもオレがお前のこと生理的に嫌いな理由がわかってよかったよ。
今度の魔王戦の時にこっそり後ろから魔法で焼き殺しちまうかってくらい嫌いだったからよお」
魔法使いはテーブルをバンバン叩いて大笑いしている。
「なんだか見るだけで病気移されそうで、あなたがいるときは近寄ってませんでしたけど――理由がわかって良かったですわ。
まあ、だからといって近寄りませんが」
癒し手は汚いものから目を背けるように手を振った。
「チッ……」
勇者は聞こえるように舌打ちをする。
オレはなにがなんだか呆然としていた。
いるだけで人から嫌われるスキル。
そんなものあってたまるか。