一輪の花
散り、枯れゆくすべてに言葉を送ることなどできないから。
その花との出会いは唐突。
誰かに忘れ去られたように、花はそこに在る。
花は、さながら皐月の空。
その色は、見る者の心までも晴れ渡らせる。
花は、さながら澄んだ水。
その香は、乾いた心を潤すに足る。
花は、さながら曇りなき鏡。
その姿に、我が心の乱れを知る。
花よ。青く、爽やかな美しき花よ。
汝は、ただ在るがままで、我が心の雲を晴らし、ひび割れた土を湿らせ、その事実に気付かせる。
なれど、哀しきかな、花よ。
汝は既に摘まれた花。なれば、明日の今には枯れ、いつかは土へと朽ち帰る。
だが、花よ。それまではどうか我が掌に。
名も知らぬ、一輪の花。一夜限りの我が友となってはくれまいか。
汝の心を、我は知らず。
願わくば、この一夜が汝にとっての幸いであれ。
我と過ごす一夜を、最期に相応しいと枯れてゆけ。
枯れて後は、我が汝を葬ろう。
明日は雨だというが、それは汝に相応しき日であろう。
花よ、友よ。穢れの祓われし雨上がりこそ、汝が旅立つに似合いの空だ。
だからこそ、手の届くものは大切に扱うべきなのだろう。