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フルスクランブル/アセンブル  作者: Namako
Episode0.遺骸の昔話とレヴィア・スカル
4/5

3:少年の命日。

 割れた。

 体育館の屋根が、割れた。


「……は?」

 


 呆然と空を仰ぐ、亀裂が走ったそこはまるで空を透過し貼り付けたような歪さで。

 


「うそ、だろ……」



 その空は、赤と黒の鋼の色をしていた。

 悲鳴、体育館に避難していた人たちが一斉に悲鳴を上げる。慌てふためいてパニックというやつで、だがそんな大絶叫も瞬く間に消えてしまった。


 ぐしゃりと。


 体育館の奥半分が、潰された。

 シェルターの入口部分もそこにあったはずだ。だから、人もそこに集中していた。だから狙ったんだろうなとどこか冷静に思う反面、目の前で起きたことの途方のなさに唖然する自分がいる。

 扉の前にいた弥平と、亜希、おっさん。そして志奈は無事だ。

 それ以外が潰された。

 まるで、ゴミでも潰すみたいに。


「っ……!」

「なんてやつだ……! 一瞬で、こんな!」


 亜希の息が詰まる音と、おっさんが困惑する声が遠くに聞こえる。 


「弥平おにい……?」

「志奈、絶対に振り向くな。絶対、見るな……!」


挿絵(By みてみん)

■ 


 抱きとめた腕に力が入る。

 見せてはいけない。

 知らせてはいけない。

 悟られては、いけない……!


「(なんで此処なんだよ)」


 つぶれた半分のガレキに立つ中型のゴーストは、まるで獲物を見定めるように静かにこちらを見ていた。動けない、逃げなければ殺されることは分かっているはずなのにまるで足は縫い付けられたように動かない。

 ゴーストが左腕に装備させていたらしいライフルを、こちらに向けてきている。

 あの引き金で。


「(なんで、今なんだよ……!)」


 あっけなく、死ぬのか。


 ◇ 


『貴様に問おう』


 知らない声が聞こえる。


『貴様は何を望む』


 幻聴か否か、世界は随分とゆるやかに動いてるように見えた。


『貴様に問おう』


 走馬灯というやつだろうか。


『汝、何を望む』


 そうだったら、望むのは一つだろうに。

 


 ◇


 気が付けば志奈を体育館の扉のほうに、亜希に向けて放り投げていた。亜希の戸惑う声とおっさんのバカ野郎と叫ぶ声が同時に聞こえる。

 弥平は大きく一歩、ゴーストへ向けて歩いていた。自殺行為だと我ながら笑いすら出てくる、だがライフルの銃口が弥平の動きに沿って下がったのを見逃しはしなかった。

 ほぼ真下、この位置からなら破片は飛ぶだろうが銃弾は飛ばないだろう。

 怪物へ、己が盾になるように対峙する。


「殺せ」

 

 逃げろと叫ばれる前に引き金が落とされる。

 不思議と恐ろしさというものはなかった。

 まるで、抜け落ちたように。

 まるで、知っていたように。

 知っていた。そうだ。


「そいつを」


 目の前のゴーストが、まるでひしゃげた音を立てて横へ吹っ飛ばされる。

 まるで骨のような……鋼色をしたフレームだけのような姿のアセンが、ゴーストを殴り飛ばしたのだ。衝撃波が身体を吹き飛ばしそうだったが、その骨のアセンが弥平たちを守るようにすぐさま覆いかぶってくれた。

 覆われるような体勢に、そのアセンと目が合う。

 翡翠色のアイラインはどこか海の色とよく似ていた。


「弥平! 早くこっちへ!!」


 亜希の声が聞こえるが、弥平は逃げようとは思わなかった。


「おっさん! 亜希と志奈連れて逃げてくれ!」

「ばっ、お前何言ってるのかわかってるのか!?」

「よくわかってねーけどさ、《《こいつが俺に乗れって言ってんだ》》。ゴーストの気、頑張って引いとくからさ」


 気軽すぎるなぁと思ったが、そうでも思ってなければ進めないと思った。

 変わらない気でいたが、変わらないと死ぬっていうなら変わるしかない。

 

「──あとを頼むぜ」

 

 弥平はためらうことなく開かれたコックピットに乗り込んだ。

コックピットは訓練で扱っていたアセンとは違い、どちらかといえば真新しい印象を受ける。席に座りすでに立ち上がっていたメインシステムのウィンドウに触れると、コックピットは閉まり密閉空間になった。

 メインシステムにはLeviathanと浮かび上がり、それがこのアセンの名なのだろうと理解する。


「(さっさと起動してあのゴーストをやる……!)」


 アセン操作の訓練は受けている。

 大丈夫だ、やれる。やれるはずだ。

 自分は誰の弟だ、あのガーベラ04を手繰る黒田誠二の弟だ。

 

「っ、がぁ!?」


 戦闘モードを指示したとたん、弥平の頭に激痛が奔った。

 コックピット内に下げられていたなにかの接続機のようなものが、直接頭に食い込んだのだ。頭蓋を割るように騒がしい痛み、頭痛、それどころではない、まるで頭の中に何かがなだれ込んでくるような違和感。

 酷い吐き気ですべてを吐き出したくなる、今なら内臓だって出てきそうだ。


 だが、見栄切った以上のことはやってやる!


「いうことを──聞けェ!!」


 がむしゃらに取った操縦桿を操作し、頭の中でうるさい痛みも黙らせる。

 大きく息を吸う、開いた視界は網膜投影が始まっているようだ。クリアな視界と、機械の瞳。──浮かんで見えたドッグタグがまるで残光のように煌いた。 

 密閉されたコックピット内を水が満たす。水中戦の為の酸素水だ。

 肺が水と酸素で満たされる。

 痛みは、とうに熱に変貌した。

 


「レヴィア・スカル、出撃る」



 少年は、引き金を弾いた。 

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