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冬のモンスター  作者: 赤木 紅
3/3

自己紹介



夜行バスであまり眠れなかったからか、お父さんに淹れてもらったお茶を飲み切らないまま、私は眠ってしまったらしい。目が覚めるとお昼になっていた。

あの娘の気配が、家のどこにもなかったので、昼食を買って戻ってきたところのお父さんに訊ねた。


「学校行ったで」

ああ、そうか。中学生は学校に行っている時間か。

「のぼるが寝とる間に行ったから、結局きちんと挨拶できんかったな」

「あ、そういえば、名前知らない・・・」

「帰ってきたら、夕食の時間にでも、自己紹介タイム設けるわな」

「夕食は私が作るわ」

「やった!のぼるちゃんの手料理」

お父さんは嬉しそうに笑った。



お昼は、スーパーで買ったお弁当だった。

いつもお弁当なのかと聞くと、たまにインスタントのラーメンを作ると誇らしげに言われた。お父さんの身体も心配だけど、成長期のあの娘にとっては、毒でしかないなと思うと、少し可哀想だ。

まあ、お父さんもそれを心配して、私を呼んだんだろうけど・・・。


「仕事はどうするん?」

からあげを頬張りながらお父さんは訊いてきた。

そう、仕事。あの華やかな場所から、こんな何もないとこに来て、正直、どんな仕事をすれば良いかわからなくなっていた。どこに行っても物足りない気がする。そうお父さんに言えば、働くって、そういうもんじゃないだろう。って訛った口調で言われるかもしれない。でも、私は、ニューハーフだ。お世辞にも見た目は綺麗や美しいとは言えない。あの子にも言われたけど、オカマだってわかるくらい。

少しでも美しくなろうと、ホルモン注射やメイクに力とお金を掛けている。

そんな、頑張っているけれど、美しくなれないオカマが、こんな田舎のどこで仕事をすればいいのか・・・。

「なに、悩んどん。のぼるは、素晴らしい能力持っとんやから大丈夫やって。

パッと目に入ったもの、疑問に思ったことから行動に移していけばええ

それまでは、のーんびり・・・」

そう言ってお茶をズズッと啜った。

「ちょっと良いこと言ったからって、お茶飲んで照れ隠ししなくていいのに」

私が笑うと、お父さんは顔を赤くした。









「さて、こんなもんかしら!」

食卓にご飯を並び終え、あとはゲストが集まるのを待つ。

しばらくして、あの子とお父さんが食卓にやってきた。

「おお!うまそーやなぁ」

お父さんはニコニコしている。

あの子は、驚いた表情で、のそのそと席に着いた。


「ほんなら、自己紹介しつつ、のぼるちゃんの手料理食べようかー!」

お父さんはひとりはしゃぎ、それから手を合わせて、作った渋い声で「いただきます」と言った。

それに続けて、私とあの娘も「いただきます」と小さな声で言った。


「じゃあ、コトコから挨拶しよか」

コトコと呼ばれたその娘は、静かに頷いた。


「コトコ・・・。菅野琴子って言います。お琴の琴に子供の子って書きます。

中2で、森川中学通ってます。よろしくお願いします・・・あっ、オムライスおいしいです」

緊張しているのか、朝の雰囲気とは違ったおとなしさがあった。

「よっ!!!琴子ちゃん可愛い!!!」

お父さんは盛り上げようとしているが、私と琴子ちゃんが静かなので、ひとりで浮いている。

「じゃあ、次!のぼるちゃん!」


「岸岡のぼるです。高校卒業後、昨日まで東京で暮らしてたので標準語だけど、もともとはここの人よ。今朝、オカマって言われたけど、その通り。あっちでは、それに引け目を感じずに働ける仕事をしていて、その時の名前が『パメラ』だったわ。パメラ宛になにか届いたりしたら、私のものだから気を付けてね。そのくらいかな」

お父さんを見ると、ニコニコしながら頷いてくれた。

「じゃあ、最後にお父さんの自己紹介やな!

岸岡竜之介54歳。バツイチ!土木関係の仕事をしていて、今日は休みをとれたけど、基本的にはあんまり家にいないので、どうぞよろしく。好きなものは、梅のガムかな」

ちょっと、標準語を喋ろうと頑張ったような訛りの抜けない喋りに気持ち悪さを感じたが、お父さんは気付いてないような笑顔でご飯を食べた。




その日の夕食は、お父さんのおしゃべりが凄くて、私と琴子ちゃんはなにも話せないまま終わった。








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