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冬のモンスター  作者: 赤木 紅
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田舎に帰ろう!


雪が降る真夜中の田舎の産婦人科で、ひとつの命が誕生した。

父親となった男も母親となった女も泣いて喜んだ。


赤子の名は『のぼる』

誇り高き立派な男の子に育ってほしいと愛情込めて育てられた。





今年も冬が近づき、厚手の上着を着ないと夜は寒くていられない季節になってきた。

イルミネーションが輝く繁華街を横切り暗い路地裏に入ると、まだ20時だというのに酒に酔いつぶれた中年の男どもがゲロにまみれている。

その男どもを踏みつけないように、赤く高いヒールで上手に歩く。(このヒールは、先月のお給料で買った、ちょっとお高い品物。)

少し進むと、古びて錆のついたグリーンの扉が見えてくる。私は迷わずそこに入ると、しっとりとしたジャズの音色に聴き慣れた歌声が重なる。

「パメラちゃん、おはよ」

歌声に耳を傾けていると、これまた聞き覚えのあるしゃがれた声が私の名を呼ぶ。

「キャリーおはよ」

彼女のここでの名前は、キャリー。右の目元のほくろがセクシーな子。ブロンドの髪にゴージャスなライトグリーンのドレスは、ティンカーベルを思わせる、この店の妖精ちゃん。

「ちょっとぉ、聞いたわよ!?パメラちゃん、ここ辞めるんですって?」

「ああ・・・、もう、伝わってるのね。ヤダなぁ。」

「どうして、辞めちゃうの!」

キャリーは、なんでなんで?と問い詰めてくる。

私だって、ここで働きたいし、それに東京を離れるのは嫌なんだけど、そうも言ってられない。


「パメラ!あんた、まだ着替えに入ってないの?早くしなさい」

陰になって、姿は見えなかったけれど、私のことを呼び捨てにした偉そうな口調はきっと、杏沙姐さんだ。

「あ、はい!」

私は慌てて支度をするため、更衣室に入った。と言っても、小さな店。専用の更衣室なんかなく、裏の隅っこで明るい照明もないまま、着替えるだけなのだけど。



19歳で上京してきて、6年が経った。すっかりこの夜の街にも慣れてきて、私は一生ここで過ごすんだと思っていた。けれど、一週間前、母親が亡くなったらしい。父親とは離婚して、他に男を作ったあの女は、現在14才の娘を持っていた。

これで、なんとなく話が見えてきただろうけど、そう、私は父親の違う妹の世話をするため、実家に帰るのだ。

その子の父親は、残念ながら他界していたらしい。

引き取り手に関して、たぶん親戚の反対は強かっただろう。けど私の父親は優しいから、離婚しても子供は関係ないと、彼女を引き取ることにしたのだろう。



「え、なにそれ!?パメラちゃん、全然得しないじゃないの」

「パメラさん、そんなんで良いんですか!?」

仕事も終わり、帰り支度の途中、さっき話せなかった辞める理由をキャリー含め、みんなに話すと、次々に私を心配する声が飛んできた。

「父親はたぶん料理とかできないし、それに14才の年頃の・・・しかも母親に似た女と暮らしちゃったら、変な気起こしちゃうかもしれないしさ!」

「やだ!近親相姦ってやつ~?」

「やめてよ~、でも、アンタも気をつけなさいよ?まだ、下付いてんでしょ?」

みんなが、私の股間に目を当て、爆笑した。

まだまだ手術のお金は貯まっていなかった為、私はまだ男の要素も持っている汚いモンスターなのだ。


「パメラ、なんかあったら、電話してきなさい。私たちは家族なんだから」

「杏沙姐さん・・・」

黒髪を一つに束ねた華奢な体の彼女は、偉そうだけどとても優しくて、私は泣きそうになった。







出発の日は、すぐにやってきた。

カラッポの部屋は、なんだかとても綺麗だった。

「さようなら。東京。また、きっと戻ってくるわ」




私は安く済ませるため、夜行バスに乗って翌朝7時頃に到着した。

バスを降りた瞬間、東京との空気の違いに涙が出そうになった。

なんて、清々しい澄んだ空気なんだろう。この空気に慣れてしまいたくない反発心と、気持ちいい肌寒さに困惑した。




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