表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/104

眼鏡萌えの朝

 今日も良く晴れている。

 普通なら学院に出かける時間だが、今日はこれから、調査のために出かけることになっていた。15分ほど前から、裕樹と蒼雲は今日の予定について最終打ち合わせをしていた。

 火災現場の調査に、別々のチームで行くためだ。

 蒼雲は、雲風を膝に乗せたまま、左手でテーブルの上に長々と横たわっている風霧の背中を撫でている。毒舌で手厳しい化け猫二匹も、こんな時は愛らしい飼い猫のように喉を鳴らす。

「痕跡があるとすれば、周囲がどの程度見ているかだが」

「わかっているよ。木霊(こだま)を使って探ってみる」

「あぁ。七枝も協力してくれるはずだ」


「おい、蒼雲」

 そこへ、空気を読まない形で雅哉が入って来た。

「どうした?」

「お前、なんだよ、この格好」

 蒼雲も裕樹もだが、ワイシャツにネクタイ、それに上に着るべきジャケットがテーブルの端に置かれている。

「お前らは爽やかサラリーマンみたいだけど、俺、これじゃぁすっかりおっさんだろう?」

「俺に文句を言われても困る」

「雅哉がおっさんに見えるのは蒼雲のせいじゃないだろ。無駄に偉そうに見えていい感じだぞ。それにスーツ姿は、刑事に見える格好ってことで、SICSからの指示だよ。俺たちが決めたわけじゃない」

「はぁ? そうなの? だけどなぁ。お前ら、ネクタイ結べたのかよ」

 聞くまでもなく、裕樹も蒼雲も、ネクタイをピシリと結んでいる。学院の制服の時とは違って、スーツ姿はより一層大人っぽく見えた。

「あー。もう、ネクタイなんて、結んだことないって。こんな格好強制するなんてふざけてるっての。それに、なぜにお前、眼鏡?」

 蒼雲が眼鏡をかけているのに気がついて、「その眼鏡はずるい」と理不尽な不満をぶつける。

「猫目を隠すための眼鏡なんだって」

「猫目を? なに、ちょっと外してみてよ」

 蒼雲は、めんどくさそうに眼鏡をずらして見せる。青い猫の眼が、眼鏡を通すと普通の茶色の目になる。もちろん、光彩も縦長ではなく丸い。

「便利だな、それ」

「お前には必要ないだろ」

 羨ましそうな目で眺めている雅哉に裕樹が笑いかける。

「そりゃそうだ、でも、ってことは!?」

「何を騒いでいるのですか?」

 雅哉の後ろから、梓乃が姿を現した。

 こちらはまた、ピッタリと体にフィットしたミニ丈タイトスカートのスーツスタイル。深くスリットが入ったスカートから、長い足が惜しげもなく覗いている。それを見ただけで、誰のセレクションか想像ができる。

「でもでも梓乃ちゃぁん。いいねいいね、そのスカート。まじでいいねー。萌えるよ。あー、可愛いなぁ梓乃ちゃん。で? 眼鏡は??」

「え? ありますけど……」

 梓乃はそう言いながら、手元のカバンから眼鏡ケースを取り出した。

「えー。それ、蒼雲のと同じ眼鏡だろう? どうして梓乃ちゃんはせっかくの萌アイテムをかけて無いのよ?」

「あぁ。私は蒼雲さんと違って、常時猫化しているわけではないので」

 くりくりとした緑色の目で、じっと雅哉の目を見つめる。確かに梓乃の虹彩はヒトの目をしていた。

「ちょっとだけかけてみてよ、ね。ね」

 雅哉が気持ち悪いくらいに梓乃の眼鏡に反応する。ミニスカスーツに眼鏡姿が、雅哉の萌えポイントを完全に刺激したらしい。梓乃はしぶしぶ眼鏡を取り出してかけてみる。蒼雲と同じ、偏光眼鏡だ。

「うふぁっ! いい! いいよ、それ!」

 雅哉が興奮気味に身を乗り出す。

「ちょっと、雅哉さん。気持ち悪い目で見ないで下さい」

 雅哉の気迫に押されて、梓乃が数歩後ろに下がる。

「おはよう、梓乃ちゃん。さすがは弥生班長セレクション。似合ってるよ。そのスーツ」

 裕樹が褒めると、梓乃の顔が真っ赤になる。

「そ、そうでしょうか…私には、丈が短すぎるのではないかと思うのですが…」

「え? え? これってお袋のセレクションなの?」

 雅哉が自分の結べないネクタイと梓乃のスカートから伸びている足を交互に見て、下心ありありな笑みを浮かべる。

「そうみたいだよ。サイズもぴったりだったろう?」

「お袋も、時にはいい仕事するな」

「さっきまで、ネクタイ結べない、ふざけるなってぼやいていたくせに現金なやつだな」

 裕樹が呆れたように笑う。蒼雲は、溜め息をひとつついただけで言葉も発しない。

「雅哉さん、ネクタイも結べないのですか?」

「梓乃ちゃん結んであげてよ」

「仕方がないですね。ほら、その階段の下に降りて下さい」

 雅哉を茶の間と廊下の段差の下に立たせて、梓乃が雅哉のネクタイを結んであげている。

「何で梓乃ちゃんがネクタイ結べるのよ」

「一般常識ですよ。高校生にもなってネクタイも結べない方がおかしいです」

「は? そうなの? だって、必要ないじゃん。俺の中学学ランだったし、今だって制服はネクタイじゃないし。でも、梓乃ちゃんに結んでもらえるならネクタイも悪くないな」

「何言っているんですか。今日だけですよ」

 梓乃が不満そうに口を尖らせる。

「まぁどうでもいいが、そろそろ行くぞ」

 蒼雲がすぐ脇まで歩いて来ている。その肩には、当然のように雲風と風霧が乗っている。

「雅哉は梓乃のこと好きなの?」

「違う違う、雅哉は女なら誰でも好きなの」

 猫たちは、雅哉に対しても容赦ない。ヒゲをピクリと動かしながら、冷たい視線を雅哉に向けている。雅哉と梓乃が自然と道を開ける。

「迎えの車が、後5分で着くって」

 後ろを歩いてくる裕樹が二人に情報を与える。

「あ、あぁ」

「行きましょう」

 四人は揃って玄関に向けて歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ