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平和との決別

 朝が来て夜が来て、また朝が来る。

 そんな当たり前のことが、当たり前でない世界もある。

 この5年間で、御鏡裕樹(みかがみひろき)はだいぶ多くの世界を知った。

 樹海で初めて自分の宿命を知ってから5年。裕樹は15歳になっていた。

「あれ? 父さんは?」

 ワイシャツのままキッチンに入ってきた裕樹は、手にぶら下げてきた学ランを椅子の背にかけた。いつもの席に父親の俊樹が座っていないことに気がついて、背を向けている母親に疑問をぶつけた。

「お父さんは、昨日の夕方から東京に行っているわよ。あれ? 昨日、(ひろ)には言わなかったかしら?」

「聞いてない、っていうか、俺、帰り遅かったからかな」

「そうだったわね。おじいちゃんのところから帰ったの、夜中だったのよね」

「東京って、どっちの仕事?」

 マグカップにコーヒーを注ぎながら、食パンを2枚トースターに放り込んだ。

「樹木医のお仕事よ。皇居の松の古木が、一昨日の雷で真っ二つに裂けちゃって、それで、緊急に処置しないといけないらしいのよ」

「ふぅん」

 焼きたてのパンとサラダ、それに、目玉焼きとウィンナー。あっという間にテーブルに朝食が並べられていく。しかも、ウィンナーはご丁寧にタコ型。

「それで、お父さんから裕に伝言があるのよ」

「俺に?」

「そう。お父さん、『急な仕事で東京に行くことになっちゃったから、そっちの仕事は裕にお願いしたい』って。この近くらしいのよ。はい、これ」

 マグカップに口を付けている裕に、封筒を手渡す。

 封筒にはご丁寧に、護符で封緘がしてある。

 5年前のあの一件の後、裕樹の世界は変わってしまった。

 15歳になって、背も20センチ近く伸びた。

 でもこの家の中だけは少しも変わってはいない。

 夫婦の仲の良さも、母親である律子の笑顔も。

 母は何もかも知っていた。知った上で父と結ばれたのだ。しかも、母も霊が見えるのだという。この点だけは父は嘘をついていた。理由は、「子供には10年間は隠し続けると決めたから」らしい。


『両親が自分と同じ物を見えていることを知ったら、息子はきっと、もっと早くに、それをなんとかする技を身につけたいと思うだろう』

というのが律子の予想だった。

『だって、俊樹さんがそういう優しい人だから。だから生まれてくるこの子も、きっと優しい子供だわ』


 結局、その予言通りになった。

 10歳で全ての真実を知ってから5年間。

 裕樹は祖父の道場で祖父や父から剣を学び、呪術を学び、何度も修練のために山に入った。それから、仕事に同行して何度か死にそうな目にもあった。

 去年、祖父が仕事中に大怪我をしてからは、裕樹も重要な戦力として御鏡家の仕事を継承することが期待されている。

「ちょっと難しそうな仕事みたいなんだけど、『来月には霊泉学院に進学するわけだし、今の裕なら大丈夫だろう』って、お父さんが。信頼されて来たじゃない」

 裕樹は、中学を卒業したら地元を離れて、東京にある霊泉学院に進学することが決まっていた。

「信頼っていうか、父さんが行けないから仕方なくだろう?」

「仕方なくってことはないでしょ。本当にあなたに無理そうなら、断ったはずよ」

「これ、猫風家からの依頼?」

「そうよ。だから、この週末は猫風さんのお屋敷にお泊まりに行くように、って。猫風さんのところから、土曜日の朝8時頃お迎えが来て下さるらしいわ。来月からお世話になるんだし、いろいろ新生活の準備についても伺ってきなさいよ」

「げっ。まじかよ?」

「こら、裕くん。言葉遣いが悪い」

 母の律子が頬っぺたを膨らませる。

「仕方ないだろ? あそこんちに行くと、口が悪くなるの」

「何言ってるのよ。蒼雲くん、とても言葉遣い丁寧じゃないの。初めて会った時、ビックリしたわぁ。だってあの時、まだ確か12歳だったでしょう? 敬語も上手に使えていたし『お母さんがあまりにもおきれいなので、裕樹くんのことが大変羨ましく思います』なんて言ってくれて」

「あー、それ騙されてるから。あいつ、蒼龍さんと蒼龍さんの猫の前ではあり得ないほど丁寧な敬語使うのに、他の人には普通だから。それに、俺にはひどい乱暴な言葉遣い」

「それは仕方ないじゃない? だって2人は同級生なんだから。お友達に敬語使うっておかしいでしょ」

「同級じゃないよ。あいつ、そもそも学校通ってねぇし」

「ほら、裕。その言葉遣い。直しなさい。それに、4月からは同じ学校に通うんだから同級生でしょ」

律子がキッと怖い顔をした。

「そんな言葉使っていると、蒼雲くんのお父さんに怒られるわよ。日常の言葉遣いは、ふとしたきっかけでポロッと出てしまうんだから。ともかく、大事な仕事のお手伝いなんだからね。ちゃんと行って、足手まといにならないように頑張りなさいよ」

「分かってるよ、母さん」

パンにバターをたっぷり塗って口に運びながら、裕樹は仕方なく頷いた。

猫使いの一族は、蒼雲のいる猫風家の他にいくつかの家があって、10歳になるまでまったく知らなかったことだが、この国で起こる悪鬼悪霊が引き起こす事故や事件の対応の多くを、その一族が担っているらしい。遠い昔に、猫のゲノムと融合した特殊なゲノムを持ち、バケネコを使役することで自らも猫化して身体能力をあげ、呪術によって魔を祓う。らしい。

 一方、裕樹のいる木霊(こだま)使いの一族は、古樹に宿った精霊と対話し、その維持管理を担ってきた。また、猫使いの仕事を補佐するために、時々一緒に組んで仕事を行ってもいる。

 御鏡家は代々優秀な木霊使いらしく、猫使いの中で最強の一族と言われる猫風家に請われて出向くことが多い。

 朝食を早々に切り上げて、裕樹はいったん自室に戻った。封筒の封印を開き、中身を確認する。書類が何枚か。新聞記事のコピーが三枚。写真が五枚。写真のうちの二枚は、小さな女の子の写真だった。赤い靴の女の子ならぬ、赤いスカートの女の子。一通り目を通してから、再び封筒に戻して元のように封印する。

 それを机の引き出しに入れる。

 引き出し自体にも結界が張って有るため、これでもう、他の人の手に渡ることはない。

「じゃぁ俺、行ってくるから。今夜もじいちゃんちの道場寄ってくるから、たぶん帰りはいつもの時間」

「はーい。分かったわ。じゃぁ、お母さん、美味しい夕食作って待ってるね」

「ありがと」

「気をつけて行ってらっしゃい」

「うん。行ってきます」

 リビングの椅子の背から学ランを回収して、母親に手を振って玄関を出た。母親の表情が少し悲しそうなのに心が痛んだ。

(あー、無駄に天気だけはいいのな)

 眩しい朝日が目に入って、裕樹は右手でそれを遮った。

 いつもの通学路を、いつものように歩き始める。

(等級3か)

 先ほどの封筒の中の書類のことを思い出す。

 ランク3を示す印がされていた。

 木霊使いの仕事を請け負う時、仕事の依頼書には、おおよその難易度が記されてくる。簡単な等級1から、非常に難しい等級5まで。これまでに何度か等級3以上の仕事の現場にも行ったが、その時は常に父親と一緒だった。昨年から一人で請け負う仕事が数回あったが、それらは全て等級1の比較的難易度の低い仕事だった。難易度3の仕事をたった一人で担当するのは初めてだった。

(大丈夫かな)

 一抹の不安が脳裏を掠める。

 ふと、裕樹は足を止めた。

「隙あり!」

 背後から迫ってくる自信たっぷりの声。

「あれ? かわされた?」

 思い切り頭を狙って振り下ろした竹刀が宙を切り、声の主は悔しそうに小さく舌打ちをした。

「当てたと思ったのに」

「お前なんかに当てられてたまるかよ。隆司」

 朝から悪ふざけで絡んできた親友を軽くいなして、裕樹は再び歩き出した。

 中学校に入ってから、隆司は毎朝、竹刀で裕樹に殴り掛かってきていた。

 でもそれも、明日で終わり。こんなくだらないやり取りも、無くなると思うと、それはそれで少し淋しかった。

「隙ありだと思ったんだけどなぁ」

「そんなことより、朝っぱらから公道で竹刀なんか振るなよ。警察に捕まるぞ」

「えーそうなの? 善良な市民なのに?」

「朝っぱらから道端で竹刀振り回すヤツが善良な市民なわけないだろう?」

「えーこの顔見たら分かるじゃん。どっからどこまで見ても、善良な市民」

「一人で言ってろ」

 並んで歩きかけながら、隆司は悔しそうだ。川原隆司(かわはらりゅうじ)。幼なじみ。幼稚園の頃からの親友だ。祖父の道場に通う仲間として、祖父が道場を締める5年前までは、同じ町道場の仲間でもあった。

「そんなに強いのにさー。どうして剣道部入んなかったんだよ」

 これもこの3年間ほぼ毎日触れられてきた話題。

 当然入部するだろうと思われた剣道部に、裕樹は入らなかった。

 なにしろ、5年前のあの日から、裕樹には余裕が無いのだ。だが、そんな事情を知らない親友は、同じ部活に入れると信じて疑わなかったのだから寝耳に水だ。3年経った今朝も、その事実に納得していない。

「そりゃぁ、部活なんてめんどくさいって思うけどさ」

「なら誘うな」

「帰宅部なんてもったいないって」

「もったいなくない。それに、俺は帰宅部じゃなく華道部。ちゃんと部活には入っている」

「剣道部に入っていれば、絶対に全国大会優勝だったぜ、お前の腕なら」

 裕樹の前を、後ろ向きに歩きながら、

「あーあー、もったいない」

と喚く。そんな彼に呆れながら、

「世界は広いんだよ」

ぶっきらぼうに言う。

「なんだよ、それ?」

「上には上がいるって話さ。俺なんて、町道場じゃそこそこ強いかもしれないけど、外へ出てったらたいしたことないの。世界には、強いヤツがいっぱいいる」

「あー、それ、また世界の話。(ひろ)の敵は壮大すぎるんだよ」

「俺の世界に干渉するなっての」

「それにしても、今日こそはお前に一発当てるチャンスだったんだけどな」

「チャンスなんて一生来ない」

「そんなことないだろ。お前が珍しく何か考え事しながら歩いているからさぁ、油断してただろ?」

「バ〜カ。考え事していたって、お前なんかに当てられるかよ」

「これは一発逆転、明日の幸運にかけるしかないな」

「明日もかかってくるつもりなのかよ?」

「あったりまえだ! ついに迎える晴れの卒業式の朝。そここそが、油断。そこをついて遂に!」

能天気な親友は、くそ真面目に明日の作戦について考えているようだ。

「って、そんな計画、言ってしまったら意味ないだろ」

 裕樹は呆れて呟く。

 いつも明るく調子のいい親友だが、今日は一段と元気がいい。理由は何となく分かっていた。

「お前、東京行ったら剣道部入るのか?」

「なんで?」

「だって、広い世界にでるじゃんか」

 精一杯明るく振る舞っているのは淋しさを隠すためだ。

 裕樹と別れることを、悲しんでいる。その淋しさを隠すために、彼は昨日も今日もおそらく明日も、今までと同じように竹刀を振って殴り掛かってくる。

『裕樹はどこの高校受けるんだ?』

 そう聞かれた時、その答えを聞いた時の川原隆司の顔は、今でも忘れられない。

 困惑と悲しみと、裏切られたような怒りと絶望のようなものと、いろいろな表情が彼の顔に溢れ出していた。

 だが裕樹は、それを敢えて無視した。

 進まなくてはいけない世界が、違うのだから。

「それにしても隆司、なんでお前、こんなに朝からハイテンションなわけよ?」

 何事もなかったように聞いてやる。

「だってさぁ〜。もう俺ら明日卒業だよ。いよいよ」

「だから?」

「四月からは楽しい高校生活。楽しみだな〜。東高の剣道場ってさ、新体操部と半分ずつ場所シェアしてんだよ」

 ニヤニヤと嬉しそうな隆司の顔。正確には、剣道場として利用されている第二体育館が、半分新体操部に貸し出されているという状況らしい。学校説明会の時に、隆司はその事実を確認してきている。

「だから?」

「はぁ?? だから? だからってなによー。新体操部とシェアだよ。新体操部」

「だから、それがなに?」

「新体操部だよ。レオタードだよ」

 ぐっと右拳を握りしめて力を込めている隆司に見向きもせず、裕樹は足を速めた。

「おい、待てってば、本気かよ? レオタード、興味ないの?」

 隆司は彼に追いすがって、鞄を挟んでいる左手を掴んで大きく揺さぶる。

「あんな布きれに興味あるかよ」

「あー、それって、レオタードじゃなくて中身に興味があるってことだよな、な、な」

へへへ、と笑いながら、肘でこちらをついてくる。

「そっちにも興味ないよ」

「はぁ? なんだよ、それ。新体操部、女子、レオタード、ムフフ、って…、おい、聞け!」

 自分を無視してどんどんと先に行ってしまう裕樹を、隆司は走って追いかける。

「隆司お前、すっかり変態じゃないか」

「健全だって言ってくれ。レオタード女子に興味が湧かない中3男子の方が、よっぽど変態だと思うけどな」

「お前の物差しで人を判断するな」

相も変わらぬ素っ気ない返事に、隆司がまた肩を落とす。

「またまた〜、裕樹くんったらそんな硬派なこと言っちゃって。それだから女子どもに『御鏡くんってクールで格好いい♥』とか言われちゃうんだよね〜。まったく。健全な男子中学生が、そんなんでいいの? おい?」

 時々小走りになっては裕樹の前に出て話し続ける。 

「ほら、見ろよ。俺達を取り巻くこの熱い視線を。まったく。こんな幸せな環境にいて、どうしてそんな女子に気のないそぶりができるわけ? あぁ、もったいない。どうせ明日の卒業式には、お前のその第二ボタンを求めて女子たちがバトルを繰り広げんだぜ。『あぁ、女子の皆さん。こんな不健全なむっつりスケベのことは忘れて、俺に乗り換えませんか? 俺なら皆様のご期待に、ご期待にきっと……』って、おい、待てよ!」

 演技に陶酔している隆司を平気で置いて、裕樹は何メートルも前に進んでしまっていた。

「おい、待てって」

「知ってるか? 隆司」

「なにを?」

「心理学的には、自分が好きな人をけなされると、けなしている相手のことが大嫌いになるって言われているらしいよ」

「まじ? ねぇ、それまじ?」

「この前読んだ本に書いてあった」

「それ、まずいじゃんかよ。『あぁ、女子の皆さん。御鏡裕樹くんはかっこ良くてスポーツ万能、頭も良くてとっても良いヤツです、俺も彼のことが大好きです』」

 隆司は慌てて演技をやり直す。

「って、おい、待てって」

「気持ち悪いから止めろ」

「ったく、お前は。お前の興味がある物って何? 宮本武蔵よろしく、『剣の道こそ全て!』なんて、硬いこと、言うわけじゃないよな?」

「言わないよ」

「お前なんて大都会東京に出てくんだろ? いいなー。羨ましいなー。楽しみでしょうがないだろ?」

「別に」

「なんだよ、それ。いいな〜。芸能人とかさ、会えるんだろ? いいなー」

「だから、俺はアイドルとか興味ないの。それに勉強に行くんだからな。遊びに行くんじゃないんだ」

「あーもったいない。せっかくの東京だってのに、こんな真面目なヤツが行くなんて、もったいない」

「余計なお世話だ」

「つまんないやつだな、お前は」

少しも乗る気のない素っ気ない返事に、隆司は裕樹の前に回り込んで、口を尖らせた。

「なんだよ、そのやる気な〜い感じは。それでも、同級生には期待してるだろう? 都会の女子高生、きっと可愛いぜ。こんな田舎のブスどもなんか比べ物にならないくらい、可愛い子がいっぱ……イテテテ、なにすんだよ」

 こちらも幼稚園の頃からの同級生、滝島美知香(たきしまみちか)だ。

 隆司の耳を掴んでねじり上げている。

「なにすんだよ、美知香」

「田舎のブスどもで悪かったわね!」

 美知香は先ほどから2人の前を歩いていて話を聞いていた。自分の話に夢中になっていた隆司はちっとも気づいていなかったが。

「べ、別に、お前のことなんて言ってないだろ?」

「へぇ、そうですか。その『ども』には私は入ってないわけですか」

「ないない、入ってません、イッテテテ、だから離せって」

「離せ?」

「いや、離して下さい。あぁ、すみません、離して下さい、美知香様」

「ったく、アホか」

「あぁ、待ってよ、御鏡くん」

 2人を置いて歩き始めた裕樹を、艶やかな声を立てて、慌てて美知香が追いかけてくる。彼女のツインテールが、背中で跳ねる。

「あー、待てよ、裕」

 隆司も追いかけてくる。

「川原は来なくていいの」

「ところでさー。なんで裕は“(くん)”づけで俺は呼び捨てなわけ?」

「川原は川原でしょ? あたりまえじゃん」

「はぁ? なにそれ。それ、答えになってないし」

川原が口を尖らせると、美知香はケラケラと笑って、

「人間の格の違い?」

なんて言って、さらに隆司を不満顔にさせている。この2人は、4月から同じ東高に通うことになっている。幼なじみの3人のうち、裕樹だけが違う道を進む。

 否。もうすでに、彼だけ別の道を歩いている。

 5年も前から。

「隆司、高校入ったら新体操部に行きたいってよ」

「えー、何それ、きもーい」

「男子新体操部でも作らせてやってよ」

「いくら御鏡くんの頼みでも、それは無理。っていうか、御鏡くんがやりたいって言うなら大歓迎だけど、川原は無理」

「なんだよ、それ、差別だ差別だ!」

「ははははは」

 美知香はまるで妖精みたいにピョンピョン飛び跳ねて、ケラケラと笑っている。

 美知香の健康的に日焼けした長い足が、飛び跳ねるたびにスカートの裾からチラリチラリと見える。

「ほんと、もー、どうして御鏡くんが東京に行っちゃって川原が残るの〜。川原が行けばいいのに」

「なんだよ、それ!」

「ははははは」

「このやろー!」

 言葉とは裏腹にとても楽しそうに笑いながら、隆司は美知香を追いかける。

「やだ〜危ないってば〜」

「待てよ、美知香」

「おい隆司、危ないから、公道で竹刀振るうなって」

 周りの他の生徒達もケラケラと笑っている。

 いつもの朝の光景。

 追いかけっこをしている2人を微笑ましく眺める裕樹。

 幼稚園の頃。

 平和だった子供時代。

 懐かしい思い出。

「2人とも本当お似合いだから、付き合っちゃえば?」

 自分を盾にぐるぐる回っている隆司と美知香に笑いかける。

「え〜、やだそんなの。川原となんて絶対付き合えない。無理無理、死んでも無理」

「なんだよ、そりゃ。俺だってお前みたいなドブスお断りだ」

「あ〜、今私のことブスって言った!」

「痛ってぇな、殴るなよ」

「あ〜、変態川原が女の子を殴るぅ〜」

「なんだと〜!」

 じゃれ合いながら校門をくぐっていく2人。

 2人とは違う世界で生きるようになった裕樹。

 明日、卒業式を迎える。

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