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鬼姫物語  作者: コロ
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来訪

長い、長い微睡み(まどろみ)の底。

彼のモノは薄く、覚醒した。

そこは世界の軸。比喩ではなく世界のど真ん中であり、何者も犯すことのできない神域だ。

そこの主たる彼女は、だがその神域において無いはずの他者の気配を感じていた。

ボォォっと、月明かりが差す。今は夜のようだ。数日ぶりに彼女は瞳を開ける。アメジストのような、だが作り物では有り得ない生きた色合いのその瞳はまだ何者をも映すことはなかった。

「気のせい…ではなさそうね。だいたい神域の端から100キロってとこかしら。ついこの間来た坊やがなんの用なのかしら?」

一つ頷くとかすかに身じろぐ。周囲の岩壁に身体が当たり、見る者に不思議を感じさせる模様を削り出す。こここで彼女の姿を見ることのできる者がいたら、そのものは喩え10キロの先から確認したとしても生きた心地がしなかっただろう。

月光を反射して、薄く光をまとっているその身は、しかし黒く艶のある鱗で覆われている。いまだ伏せているにも関わらず両岸の崖がまるで特注のベットの如くその巨体にフィットしている。高さ15メートル程もある崖が、だ。加えてその体長は、頭から尾の先までで100メートル…は確実にある。体を包み込むようにして丸まっている羽を広げたら、恐らく、人種でいうところの、一つの集落程の大きさになるのではないだろうか。千年樹の幹ほどもある後ろ脚には、この世界で一番の硬度を持つ爪が。頭の角と、今は閉じられているが口内にも、お同じ硬度を持つ牙が並んでいることだろう。


冥竜クローディア・ナッサ


今は文献にすら残っていない太古の神の一柱であるその姿は、しかし恐怖に囚われずに見ることができたなら驚くほどに穏やかだ。今もその爬虫類の顔に、なにをどうやってかはわからないが、久々の来訪者に向けての好奇心が見て取れる。おもむろに首をもたげ、待ち人のいるであろう彼方に目を凝らす様はけして他者を受け入れない類の者では持てない雰囲気を宿していた。


【化身】


ふと呟かれた古き言葉。その名残を追うかの如く、先程までそこにあった太古の一柱は霞の様に消えていた。

代わりにその跡地に先程までと色合いを同じくした服を着た一人の女が佇んでいる。

凛々しいと表現できる紫の瞳。漆黒の髪、薄紅の唇。異性どころか同性にすら溜め息すら吐くことを許さない造形に、彼女特有の、やもすればいたずらっ子が浮かべるような笑みを浮かべる。そして唯一、背に負っていた銀の大剣をおもむろに掴むと…。

「とりあえず、お出迎えは礼儀…よね。」

一閃。

彼に届けとの茶目っ気を込めて身の丈程の得物を振る。その結果、空気を切り裂き斬撃の地平線が飛ぶ。

「…よし。道もできたし、暫く暇だろうし。とりあえずお茶の用意でもしましょうか。」

自身の寝所までただ、ひたすらに真っ直ぐに開いた道を背に呟く。辺りには場違いにいつの間にか用意されたお茶の席を眺める物言わぬ木々達。その中心で愉しげに微笑む女が一人。それから丸二日の間、この光景は誰に見られることもなく、また飽きる気配も無く絵画のように。ひたすら、ひたすら続くのだった。

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