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ソード・レート・オーガス(SwordLateOgres)  作者: ♤Spade♤
第一章 〜失う哀しみ〜
9/11

第八話 〜失う〜

 ダンジョンの中は何もいつもと変わらない状態だった。

 しかし、第十層に近づくほど、ハンターの数は少なくなっていき、第九層にはもう一人もハンターを見かけなくなった。

 なぜなら、第九層までいけるハンターなら、この討伐組に呼ばれているからだ。要するに、もう今現在では、第九層までこれるハンターはこの街にはいないと言ってもいい。

 そして、十層にとうとう到着する。

「皆。これより、イレギュラーフロアボス、エレファントス・セル・アーデの、討伐作戦を実行する。作戦の内容は言った通りだ」

 そうディルクが告げると、彼は背中を向ける。

 その向こうには、ボスがいる大広間が存在する。そこからはとても不気味な威圧感を感じる。

「全軍っ!」

 その言葉で、全員剣を抜く。俺も習って背中の剣を引き抜く。

 周りの空気が静かになる。これから、大規模な作戦が始まるのだから。

 そして、

「突撃ィィイ!!」

 うぉおおおおおおおおお

 全員が勢いよくボスのいる大広間へと走って行く。

 中へと入ると、奴はいた。

 奴は頭に角が二本生えていて、口には鋭い牙が並んでいる。そして、一番存在感を感じさせる巨大な大剣。

 左右には二体のガーディアンがいる。奴らも同様に剣を持っている。体は鱗に囲まれており、ボスと同じく鋭い牙が並んでいる。

「情報通り!E、F、G、H班は予定通りに動いてくれ!」

 その合図とともに、E、F班は左に。G、H班は右にそれる。

 ハク達H班とセレナ達G班は作戦通り右側に回ると、陣形を整える。

 ディフェンダー、アタッカー、スナイパーの順に並ぶ。

 ゴォアーーーーーーーッッ!!

 ガーディアンが咆哮を放つ。

 その咆哮の大きさは強烈で、その大きさにみんなが怯み動きを鈍らせる。しかし、その咆哮に負けずハク達は前の敵へと突き進む。

 それに気づいたガーディアンは手に持った剣を横に振りかぶる。

「薙ぎ払い!デフェンス!」

 セレナはガーディアンの振りかぶる体制から、薙ぎ払いだと瞬時に判断する。それを見て俺は驚きを隠せなかった。

 指示を受けたディフェンダーは、前方へ出ると、迫り来る刃と自分の剣を滑らせ、別の方向へと攻撃をそらす。

 思いっきりからぶったガーディアンは、その勢いで体をよろめかせる。

「スナイパー!」

 セレナはディフェンダーがガードする前にスナイパーの射撃準備は済ませておいたのだ。

 その指示を聞いたノアとセレナのパーティメンバーのスナイパーは同時にマジックスキルをまとった矢を放つ。それは見事にガーディアンに命中し、マジックスキルの威力で煙をあげる。

「一斉攻撃!!」

 その声と同時にG、H班全員はガーディアンへと突っ込む。

 それを聞いたハクもガーディアンに向かって突っ走る。

 だが、みんながガーディアンに攻撃しているところから少し離れたところに待機する。

 ゴォアーーーーーーーッッ!!

 体制を立て直したガーディアンが方向と共に剣で薙ぎ払う。

 だが、もうその時にはみんな後退していた。

 剣を振り終え、確実に隙のできたガーディアンの元に、ハクは再度走り出す。

「せぇェアッッ!!」

 ガーディアンのすぐそばまで来ると、肘を引いて、一気に剣先をガーディアンに突き刺す。そこでは止まらず、合計三回目にも留まらぬ速さでガーディアンに剣を突く(ハイブローズ)と、剣を振りかぶり縦に切り裂く。そこから同時に三回攻撃し、合計四連続(スクエア)の大技を繰り出す。

 この連続技に、他の見ていた人たちは度肝抜かれる。

 その攻撃で、ガーディアンは脚をよろめかす。そこにすかさずみんなは突っ込む。もうこの時点では確実にこちら(ハンター)の方が有利に戦っていた。しかし、

「よし。いけるぞ!」

 シルクがそう口に出す。だが、そう思えたのもそこまでだった。

 ゴォアーーーーーーーッッ!!

 ガーディアンは咆哮を響かせると、剣を勢いよく横殴りに薙ぎ払う。その動作に驚いたハンターたちは急いでガーディアンの周りから後退する。

「なんだ!」

 ガーディアンの様子がおかしい。

 奴は剣を一振りしたあと、呼吸を荒げている。それに、目には赤い光が宿っていた。

 ゴォアーーーーーーーッッ!!

 そして、ついに恐れていた状態が起きた。

 ガーディアンが体をうずくめると、背中から何やらヒレみたいなものが無数に勢いよく生える。体には異常なほどに血管が浮き出ていて、目は酷く血走っている。

「なんだ……これ……」

 その存在感と恐怖に、みんな絶句する。

 アァアーーーーーーーッッ!!

 怪物は咆哮を轟かせる。

 その爆音で、地面は揺れ、風が荒ぶる。それにハクは体制を崩し吹っ飛ばされそうになる。中には飛ばされた奴も少なくはなかった。

 その威力はさっきのガーディアンとはもう桁違いだった。

 脚がすくむ。体が恐怖で動かない。手足は震え、剣がカタカタと音を出す。

 だが、奴は待ってはくれなかった。

 ガーディアンは地面を蹴りこちらへと突っ込んでくる。その速さは尋常ではなく、目で追うことができなかった。

 そして、その先にいたのは、

「っ?!」

 俺たちの……

 その瞬間が、俺にはスローモーションに見えた。まるで、一フレームを一秒のように感じさせるようなものだった。


 そのころ、エリアの奥ではABCD班がボスと交戦していた。

「ディフェンス!」

 ボスの攻撃に対し、ディルクの冷静な判断で攻撃を食い止める。そして、そこからすかさずアタッカーが突き進む。

「スナイパー曲射準備!」

 アタッカーがボスへ持ってる最大の加速スキルをぶつけている間に、ディルクはスナイパーたちにそう指示した。

 アタッカーのスキルが終了し、全員オーバーヒートで無防備になってしまう。

 そこにボスは躊躇せずに剣を振りかぶる。

「打てーーーーーッッ!!」

 そのボスの動作を見て、ディルクはスナイパーに射撃の指示を瞬時にとばす。

 それを聞いたスナイパーたちは弦を引っ張っていた三本の矢をいっせいに宙に向かって放つ。

 放たれた矢は上空でこうを描いてボスの真上で落下し始める。落下した矢は見事ボスに直撃し、その矢に仕込んでいたマジックスキルが発動する。

 ゴォアーーーーーーッッ!!

 発動したマジックスキルで、矢は全て爆発し、ボスは爆炎に呑み込まれる。

「よしっ!」

 ディルクはそれを見て笑みをこぼす。

「総員攻撃!!」

 その合図を聞き、全員はボスに突っ込む。爆炎も消え、ボスの姿があらわになる。

 しかし。

「ッッ!!」

 そこにあったのは、何もない空間だった。

 周りを見渡すが、どこにいったかわからなかった。

 ゴォアーーーーーーッッ!!

 その爆音のした方、まさに自分たちの真上を皆見上げる。

 そこにいたのは、天井の突起に捕まるボスだった。

 奴は口をにやつかせると、脚のバネを使い、一気に彼らの元に落下する。

「そ、総員てっ……?!」

 その言葉もいう間もなく、ボスは彼らに重い一撃ぶつける。

 その威力は想像を絶するもので、周りに凄まじい衝撃波が生まれ、周囲にいた者達は軽く吹き飛ばされる。

 そして、その一撃で起こった煙が晴れる。

 そこには、堂々と仁王立ちしているボス。そして、無残にも倒れるハンターたちの姿があった。

 そこし離れていたスナイパーたちも、衝撃で吹き飛ばされていた。

「………ぁぐ…」

 ディルクは勢いで右腕に力が入らなかった。だが、一番中心にいたものたちは、とても悲惨な姿と化していた。

 あそこで、判断を誤らなければ。

 その未練だけが、ディルクの頭を行き来する。

 あの時、奴が跳んでいることに気づいていれば。

 しかし、もう過ぎたこと。どうにもならない。

 もう脚にも力が入らない。右手に持っていた剣も、力が入らなくて持てない。

 ディルクは見えるところだけ視界を広げる。

 だが、立っているものはほとんどいなかった。

「隊長っ!」

 そこに、白虎の第三郡副長のロイが駆けつけてくる。

「隊長ッッ!!しっかりしてください!隊長ッッ!!」

 声を出そうとしても、声が出ない。呼吸もいまいちできない。

「隊長!これを飲んでください」

 そう言って渡してきたのは、回復系のポーションだった。それもここらでは高級品のものだ。

 だが、それを飲んでも、きっと回復はできないだろう。

 ディルクは体の力を首に集中させ、なんとか首を左右に振る。

 そして、振った先に、ゆっくりとこちらに向かってくるボスの姿があった。

「ぃ……ぇ……ぉぁ………」

 逃げろ!

 そう叫びたかったが、全く声がでない。

「隊長!飲んでください!隊長!」

 しかし、ロイには届かない。

 ゴォアーーーーーーーッッ!!

 そして、とうとうここまで来たボスがディルクたちに向かって剣を振りかぶる。

 奴の咆哮に気づき、ロイは絶望した顔とともに振り向く。

「あ……あ……」

 それを見て、彼女は硬直してしまう。

 そこに怪物の剣が振り下ろされる。

「ロイィーーーーーーッッ!!」

 ディルクは決死の思いでそう叫び、左手でロイを吹っ飛ばす。

 ロイはそのまま遠くに落下する。

「ロイ……俺は、」

 グシャ………

 そして、ボスの一振りがディルクを貫通した。


「あ……ぁ……」

 ガーディアンの刃は、シルクの心臓部分を貫いた。

 その目の前の光景は、ハクには信じられなかった。

「し、シルクーーーーッッ!!」

 俺は無我夢中でシルクの元へ駆けつけ、その隣にいるガーディアンに斬りかかった。しかし、ガーディアンは先ほどのガーディアンのステータスよりも遥かに上がっていた。ハクの攻撃は受けても全くきいてはいなかった。

「クソ!あれを使うしかないのか…!」

『やめろハク!今それを使ったらボスまで持たないぞ!」

「うるせぇっ!出し惜しみしてる場合じゃねぇんだよ!」

 ハクはシロマの忠告を無視して、奥義を発動させる。

「リミッターッッ!!」

 その言葉を放つ瞬間に、奴の攻撃がとんでくる。しかし、それをハクは瞬時に体をひねらせ回避すると、スキルを発動させた。

「レモーバルッッ!!」

 そう叫ぶと、ハクは即座に剣を加速させる。

 一気にガーディアンまで走りこみ、奴の足と足の間を走り抜ける。通り抜けざまに足を切り裂くと、そのまま上へと切り上げる。

 そこではまだ止まらず、次々ガーディアンへ連続の加速スキルを放ち続ける。

「す、凄い……速すぎてついていけない」

 リーフの言うとおり、彼のスピードは尋常じゃなかった。彼は攻撃をがむしゃらにしている訳ではなく、なるべく関節を狙っている。それに、ガーディアンの攻撃も受け止めるのではなく、避けたり、少し刃を相手の剣にあてて、攻撃の軌道を変えたりして防いでいる。

「だが、火力が足りない。奴にはそこまできいていないんだ。もっと一発で大ダメージを与えなきゃ……総員、ハクに続け!」

 おおおおおーーーーー!!

 その言葉とともにセレナ班、ハク班ともにガーディアンへと走り出す。

 だが、量は多いものの、攻撃の火力が足りず、ほとんど効いていない状態だった。

 ハクの連続の攻撃も、一発一発のダメージではガーディアンの防御力を貫通することはできないでいる。

 ハクは高く跳び、ガーディアンの顔の目の前へと躍り出ると、深く右手を引いた。

「せぇアッッ!!」

 一気に剣をまっすぐにガーディアンへ突き刺す(ブロード)。それを三回連続(ハイブロード)打ち、剣を両手に持つと、全身の力を込めて垂直に叩き落とした(ツーハンズヴァティカル)。

 しかし、その攻撃でさえ、ガーディアンは怯むまでに止まり、ダメージを受けたようには到底思えなかった。


 ーーこのままでは負ける!ーー


 そうハクが思って歯を噛み締めた。その時、

「ハク。俺に任せてくれ」

 そうハクの肩を手で軽く叩いて前へと歩み出たのはザックだった。

 そして、ザックの右手には、上級者になることで使用できる魔法、冥王術のために必要なマジックスティックを持っていた。だが、なぜそのようなものをザックが持っているのかがわからなかった。

「ザック、それは……」

「俺の親父の形見さ。使えるか分からないけど、今はこれを使うしかない」

 確かに、ハクも少し冥王術を見たことがあるが、その威力は凄まじかった。しかし、その冥王術は体に相当な負担がかかることをハクは知っていた。

「それを使ったら、お前は…!」

「俺は、ハクがこのギルドに入団する前まで、いつも仲間にはぶられてたんだ。毎日毎日、殴られたり、雑用させられたり、そんな毎日を、ハクが変えてくれた。毎日が楽しい。そう思えるようになった。だがら、そのお礼をしたいんだ」

 そう告げると、ザックはそのスティックを頭上に上げる。

「やめろッッ!!」

 ハクは腹の底から声を出す。しかし、ザックの手は下がらない。ザックが冥王術を使えば、確実に体が持たずに死ぬ。

「ごめんハク。これしかないんだ」

 そして、様子に気づいてリーフ、ノアも駆けつける。

「ザック!お願い!もっと違う方法があるはずよ!」

「ザックやめて!」

 皆がザックの行為を静止させようとするが、ザックの意志は、いつまでも変わらなかった。

「みんな……本当に…ありがとう」

 そして、ザックの目から、大粒の涙が流れ落ちた。

 ザックは前へ向き直ると、周りのものに告げた。

「みんな!いったんさがれ!」

 それにみんな疑問な顔を浮かべながら、少しガーディアンから下がる。

「じょあね………ハク…」

「ざ、ザックゥーーーーッッ!!」

 ザックはガーディアンを見る。その姿は、ハクにはとてもカッコ良く見えた。

「ビック……」

 あの綴りから始まる魔法、それは、ハクでさえ知っている途轍もない魔法だった。

「バン!」

 そうザックが口にした途端。彼の体は光だし、眩しくて誰もが目を閉じてしまう。

 そして、次の瞬間。凄まじい爆音と爆風に包み込まれる。

「あぐっ!」

 その爆風にハクは耐えきれずに吹き飛ばされる。

 しばらくすると、爆風も止み、視界が明らかになる。そこにあった光景は、とてつもなかった。

 先ほどザックがいたところを中心に、大きな穴ができていた。そこにはガーディアンと思わしき体の破片が散らばっていた。しかし、どこにもザックの姿は見当たらなかった。

「ぁ………ぁ……」

 ハクは立ち上がり、その爆発の中心へとゆっくり向かう。

 その足取りは非常に重かった。中心へと近づくにつれてその重さも増してくる。

 俺のせいで、シルクに加えてザックまでもが犠牲になってしまった。その責任感と、自分の弱さからくる劣等感に、ハクは押しつぶされそうになる。

 中心までくると、ハクはそこに落ちていたマジックスティックを拾い上げる。あの爆発の中でも、この棒だけは全くの無傷だった。

「ザック……」

 ハクがそれを見つめていると、後ろからセレナがやってくる。

「ハク……このクエストは、」

「分かってる。もう、誰が死んでもおかしくない。そろそろけじめをつけないとな……」

 ハクは差し出されたセレナの手を振り払い立ち上がる。

 そして、みんなの方へと向き直ると、ハクは彼らに向かって言った。

「ここからが本番だ。まずはもう一方のガーディアンと戦っているE、F班に合流する。そして奴を倒した後、ボスへと向かう。もうここからはもう……」

 そして、ハクは一拍おいて、続けた。

「誰も死なせない」


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