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ソード・レート・オーガス(SwordLateOgres)  作者: ♤Spade♤
第一章 〜失う哀しみ〜
8/11

第七話 〜希望〜

「あんたは……」

 そこに立っていたのは、ハクもよく知る人物だった。

 髪は艶やかで長く、ハクと同じく白色の髪。手には凄腕の鍛冶屋が作ったのであろう太刀を持っている。

 あの怪力の化け物と化したバッカスのナイフを、まるで力を感じさせないガードで楽々と止めている。それを見るだけ、強者だということは言うまでもない。

「なんで……今……ここに…」

 そもそも彼女はここにいるはずがないのだ。今は前線でダンジョンの攻略を行っているはず。なのに、なぜ……


「なんでここにいるんだよ!姉貴!!」


 そう。彼女は選抜組の幹部であって、ランクAの超一級ハンター。


 エル・セレクトス。


「お、おい!あいつエルじゃねぇのか?!」

「おっ?!本物だ。かっけぇ」

「え?!どこどこ?!」

 彼女を見て、誰もが驚きを隠せない。

 それもそのはず。選抜組は合計五十人ほどしかいなく、ランクB以上から入団試験の許可が得られるのだ。その中の一部の超実力者が今、目の前にいるのだから。

 エルはガードしていた剣を勢いよく振り払う。

 すると、バッカスは紙のように軽く吹っ飛ぶ。

 バッカスはそのまま後ろの壁に激突し、その壁はほぼ半壊していた。

 エルはバッカスの元に近づくと、剣を首につきたてる。

「鬼人化の活性薬の所持、及び使用は禁忌に反する。その中で第一級の禁忌に反した事により、あなたを"終身労働刑"とします」

 そうエルはバッカスに告げた。

 終身労働刑。それは、アランからおよそ三千キロ行ったところにあると言われている監獄『ヘルヘイム』で行われる刑で、死ぬまで過酷な仕事をさせられるという。人たちの中では、この監獄を、エンド、E永遠、Nの、D死と呼ばれている。

 それを聞いたバッカスは、口を開けて硬直している。それも無理はない。エンドに連行されたものには、もう未来などないのだから。死ぬまで働かされて、飯もろくに与えられない。死ぬより厳しいことだろう。そう言うこともあって、監獄内では自殺が相次いでいるとのことだ。

 もし俺が捕まったのなら、きっとその生活に絶望して、自ら命を絶つことだろう。

 すると、エルはライセンスカードをいじると、バッカスに言った。

「ここにはもう選抜見廻組がやってくる。ちなみに彼らは全員ランクC以上だ。逃げようものなら、一瞬で貴様なら捕まるぞ?」

 ランクC。バッカスよりも二つも上だ。つまり逃げ場など無いに等しかった。

 エルはバッカスに背を向けると、次はハクの元へと向かった。

 ハクの前に来ると、彼女は笑みを漏らした。

「大きくなったな……ハク」

 もう何年振りだろうか、姉貴と会ったのは。

「姉貴は相変わらず性格は変わってないな」

「なんだと?これでも少しは優しくなったんだぞ?」

 もう俺は姉貴と会えただけで嬉しかった。

「積もる話は山ほどあるんだが、私もあまり暇じゃないんだ。こっから早く前線に戻らねぇとリーダーに怒られちゃうからね」

 それを聞いて俺は思っていた疑問を思い出した。

「あ、そうだ!なんで姉貴がここにいるんだよ。前線にいるはずだろ?。……いてっ!」

 それを聞いて、エルはニコっと笑うと、俺のデコにデコピンをかましてきた。

 ランクAだけあって、そのデコピンはなかなか痛かった。

「あんたがハンターになったって聞いたからわざわざ上まで上がってきたんじゃないのさぁ。それくらいすぐに理解してよぉ」

 そう口にすると、エルはハクに背を向ける。

「それじゃ、私はそろそろ行くわ。それと」

 エルは、首だけこちらを向いて、真剣な目で言った。

「凶暴種は手強いよ」

 エルはそう言い残して、手だけを振ってそのまま走って行ってしまった。

 それから数分してから見廻組も到着し、無事バッカスはヘルヘイムに連行された。

 振り返ると、完全に蚊帳の外と化していたリーフがいた。

「あ、えっと……ほっとかしといてすまなかった」

「い、いいですけど、今の人がハクさんの……」

「あぁ。俺の姉貴だ。選抜組の幹部やってる。俺は姉貴の足元にもまだおよばねぇからな。早く追いつかなきゃなぁ」

 追いつくと言っても、一体どれだけかかるのやら。

 俺はライセンスカードで時間を確認すると、もう十一時を過ぎていた。


 レジで勘定をすませ、俺たちは店を後にする。

 そして、そこから少し離れた鍛冶屋に向かう。

 この前その鍛冶屋の人と知り合い、なかなかの腕だったので、防具なんかもその鍛冶屋に頼んだりしている。それで、この前頼んだ剣が今日完成したと連絡がきたのだ。

 だから、俺たち二人は今からそれをもらいに行くのだ。

「お邪魔します」

 入口は暖簾がかかっているだけで、中は石造りになっていて、すぐ目の前に扉がある。

 それを開いて中に入ると、そこは工房になっていた。火がメラメラと燃えているかまどに、周りにはたくさんの剣が飾ってあった。

 そして、その真ん中に、一人の少年が座っていた。

「よう、レイン。久しぶり」

「……お?ハクか、待ってたぜ」

 レインは鉄を売っている最中だった。その最中に話しかけたことを一度謝る。

「いやいいよ。それより、あんたらの品はこれだ」

 レインは壁にかけてあった一振りの剣と、箱を持ってきた。

「こっちは君のだね」

 そう言うと、剣の方をリーフに渡す。形からして中の剣は長剣だろう。

 リーフは剣を受け取ると、早速巻いてあった袋をほどき始めた。

 そして、袋からやっと剣が顔を出す。

「す、凄い……」

 その剣は紅色をした長剣で、とても綺麗に輝いていた。

「名付けて、『アクセラレータ』だ。この剣は加速後のオーバーヒートの秒数が三割減少する優れものだ。ハクの持ってる剣とちょっと似てるかな」

 俺が持っているアクセルスラントは、オーバーヒートの秒数を二割減少させ、加速攻撃のスピードが二割縮まるのだ。少し性能は俺のより低いが、相当なレア物だ。

「あ、ありがとうございます!」

 リーフはレインに向かって深く頭を下げる。

「あぁいいよいいよ。貰うもんは貰うんだし」

 レインの言う貰うもんとは、きっと金のことだろう。それに、今回買った剣は相当高かったので、もうリーフの財布の中は寒冷地帯だことだろう。

 それから、レインはもう一つの箱の方を手に取ると、蓋を開けて渡してきた。

「これはもう一つのオーダーメイドの品だ」

 その中に入っていたのは、二つの大小のブレスレットだった。

 これは、俺が事前に頼んでおいたリーフとのお揃いとして買ったものだ。

「何ですか?これは」

 実はまだリーフにはこのことを話していなかった。この反応はわかっていたことだ。

 俺はブレスレットを一つ手に取ると、リーフに差し出した。

「これは俺とお前の親友でいるお守りだ。何年何十年経とうと、これをつけている限り俺たちはいつまでも仲間だ」

 ハクがそう告げた後、リーフはそのブレスレットを受け取る。

「は、ハクさん……」

 リーフはブレスレットを両手で持ったまま、号泣し始めてしまった。

「ハクさん……本当に……グスン、嬉しくて……本当に、ありがとうございます……」

 もうリーフの顔はグシャグシャになっていた。

 それに見兼ねた俺はハンカチを取り出すと、リーフに差し出す。

「ま、まずは顔を拭いて。女の子なのに恥ずかしいぞ……」

 リーフはハンカチを受け取ると、「ズズズズズズ……」と勢いよく鼻をかんで、スッキリしたかと思うと、「ありがとうございます」と言って返してきた。さすがにフルパワーで鼻をかんだハンカチは受け取りずらかったので、リーフにそのハンカチはプレゼントした。

 俺ももう一つのブレスレットを取り出すと、自分の腕にそれをつけた。

 鉄なので、ブレスレットはなかなかの重量だった。ちなみにこのブレスレットは二の腕につけるものだ。

「それじゃ、ありがとなレイン。また今度お願いな」

「あぁ。また来いよ」

 俺は貰うもんを貰うと、レインのもとから立ち去った。

 隣を見るとまだリーフは半泣きして顔をメチャクチャにしていた。

「……はい」

 俺はもう一つのハンカチをしぶしぶボケットから取り出し、リーフに渡す。

「ありがとうございます……」

 ズズズズズズ……

 そして、ハクはブレスレット代と、二枚のハンカチを失うのだった。


 ***


 ギルド・ケルベロス会議室。

「何っ?!。討伐隊六十人が全滅した」

 今、俺たちはフロアボス討伐組は、ケルベロスの会議室にて、最終調整を行っていた。

 しかし、今日の朝、送り出された六十人の討伐隊が、そのフロアボスに挑んだ後、跡形も無く壊滅したとの報告があったのだそうだ。

「俺たちは五十人なんですよ?!六十人で足にも及ばないんじゃもう倒せる確率なんて皆無じゃないですか!」

 トミーは昨日の夜はあれほど静かだったのに、その情報を聞いた途端に取り乱し始めたのだ。

「だが、彼らは私たちと違って寄せ集めの軍隊だし、ろくな戦法や情報もないまま突っ込んだわけでしょ?それに対して私たちは、現在残っているハンターたちから選ばれたメンバーで、ある程度情報もあって、作戦もたてられる。そう考えれば無理でもないんじゃない?」

 ロイはもっともな意見をトミーにぶつけ、トミーの意見を完膚なきまでに論破する。

「で、彼らが命をかけて手に入れた情報では、フロアボスのエリアにはボスだけしかいないわけではないんだ」

 それを聞いて誰もが驚いた。

 普通フロアボスのエリアにはボス以外のモンスターは存在しないはずなのだ。そう考えると、今回のフロアボスのイレギュラーは異常すぎる。

「で、情報によると、そのモンスターは『ガーディアン』という大型のモンスターで、合計二体のガーディアンがボスと一緒に存在している。そして」

 説明していたディルクの顔が一段と険しくなる。

「ボスなんだが、片手に巨大な大剣を装備しているらしい。それだけではなく、ガーディアンたちも、片手に剣を装備しているとのことだ」

 それは特に珍しいわけではない。他のフロアボスに、剣を持ったモンスターはいくらでもいる。

 だが、おかしいのは、今回のボスの通常種は、剣などは持っていないということだ。ボスのステータスの前後はあるにしても、剣などの装備品まではどうにもならないはずなのだ。

「一体どうなってるんだ……」

 ステフはそうつぶやく。それも無理はない。ここまでのイレギュラーは世界初かもしれない。そのようなモンスターを、自分たちだけで倒せるのかと、不安に思うものもきっといるだろう。

「では、切り替えて、作戦の方の説明を行う」

 そう言うと、ディルクは持っていた紙の束をめくった。

「まず、今回集まったチームは、番号で決めようと思う。まず私の班はA班。ロイはB班。トミーはC班。ステフはD班。ソルはE班。ケニーはF班。そしてセレナはG班で、ハクはH班ということで、異論がある方」

 そこで反論する人はいなかった。今の話で異論することはまずないだろう。

「それで、最初の役割なんだが、E班とF班、そしてG班とH班はガーディアンを始めにおさえてくれ。残りの四班は全員ボスと当たってくれ」

 まぁそれが妥当だろうと、今回も異論は出なかった。

「戦闘スタイルは組んだ班とともに相談して決めてくれ」

 なんだかんだで、俺はセレナと一緒になってしまった。

「どうする?」

 俺はセレナに戦闘スタイルのことを問いかける。

「まぁ普通に私たちとあなたたちのアタッカーはアタッカー、ディフェンスはディフェンスで協力するっていうのは?」

「まぁそれが妥当だわな」

 俺はセレナの言うことに異論はなかった。

「あと、今回のボスは閃光弾が効くらしい。各班持ってくるよう団員に伝えておくように」

 閃光弾とは、丸い直径七センチくらいの玉で、玉に着いている紐を引くと、三秒後閃光が炸裂する目くらまし用のアイテムだ。モンスターの目の前で炸裂させることで、一時的にモンスターの動きを封じることが可能なのだ。まぁ人も同様で、使用する時は注意が必要だ。


 それからもいくつかの話がされ、今回の最終調整は終了した。

「明日正午、ダンジョン入口前で集合なので、送れないように。では解散」

 そう言われ、俺たちはすぐに自分たちの宿舎に帰った。


 ***


 翌日。正午、ダンジョン入口前。

「それでは、皆。今回はこの作戦に参加してくれてありがとう。作戦も大事だが、皆は自分の命を第一に行動してくれたまえ。各リーダーから聞いているとは思うが、目標は三体。ボス、そしてガーディアンだ。E、F班とG、H班は、ガーディアン。残りのA、B、C、D班は、ボスへの攻撃が最優先だ、閃光弾な使用の際は、必ず前持って皆に知らせること。それだけだ」

 そこで、フロアボス討伐組隊長のディルクの話は終了した。

「それと、最後に……みんな」

 ディルクは息を吸い込むと、腹の底から大きな声を響かせた。

「勝とうぜ!!」

 おおおおおおおおおおお!!

 周りはそれに答えるように大きな歓声が鳴り響いた。

 そして、ハクも、声は出さないものの、改めて気持ちを引き締める。

 全ての前置きが終わったところで、討伐組はダンジョンの中へと入っていった。

 俺は必ず、リーフを守る。死ぬまで、絶対に。命に変えてでも。

 しかし、彼らはまだ知らない。これから始まる恐怖、そして絶望を……

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