第十話 〜覚醒〜
「ハク!」
彼の目には先ほどのライトブルーの瞳ではなく、紅い光が輝いていた。
「今まですまなかったセレナ。こいつを止めてくれて助かったよ」
ハクはセレナに戦ってもらっていことをお礼する。その時のハクはセレナに優しく微笑んだ。それを見てセレナは、ハクがリーフの死による衝撃で変わってしまったのではと思っていた気持ちが一気に楽になる。
「それじゃあ、少し待っててくれ」
そう言うと、ハクはセレナをゆっくり下ろし立ち上がる。手に持った剣を左右斜めに二度振り構えると、息をゆっくり吐く。
「ふぅ……」
そして、一気に眼光を開き、アーデを睨みつけると、地面を砕ける程の勢いで蹴りつけ突進する。
目にも留まらぬ速さでアーデへと接近すると、素早く剣を振り下ろす。
「ァアっ!!」
それをアーデは防御するために剣を持っていこうとするが、ハクの一振りはその防御を待つことなくアーデの体を力強く斬りつける。加速突進型スキル《プランス》だ。
それから横に斬りつけ、その逆に体を捻ると一回転して斜めに切り裂く。そして最後に水平に勢いよく回転切りを敢行する。その四回の攻撃は、加速の光が残像として残り、四角形を作り出す。四連撃の大義の《スクエア》を繰り出す。
「セェアーーーーーーッッ!!」
ハクは目にも留まらぬ速さでアーデを斬りつけていく。その速さにアーデは追いつくことができず、次々と斬撃を浴びていく。なんとか繰り出した一撃も、ハクは華麗にかわす。
「凄い……」
隅から見ていたセレナはハクを見て思わずそう声を上げる。先程とはまるで別人で、動きが速すぎてついていけない。一体さっき何があったのか。セレナには分かるはずもなかった。
アーデはハクに渾身の水平斬りを行う。それをハクはしゃがんで回避すると、足を一気に跳躍させ、アーデに突っ込む。
ハクは剣を左腰に手を添えて構えると、アーデに近づいた瞬間、一気にその構えを解放し、斜め斬り《リバースオブリック》を行う。
その攻撃の威力に、アーデは仰け反り足を一歩後退させる。それを見て、ハクは口元をニヤつかせる。
剣を左に回転させ、回転斬りをハクは行う。しかしそれでも止まらず、二回連続で回転斬り《ハイスピンカット》を繰り出すと、また体を捻らせ、斜めに剣を叩きつけた。
(もっと速く……!)
ハクは攻撃する速度を上げる。それにはもはやアーデは抵抗するのは困難だった。ハクは雨が如く斬撃を浴びせていく。
(もっと速く!!)
「セェアーーーーーーッッ!!」
ハクはさらに攻撃速度を跳ね上げる。剣を振る勢いを活用することで次の攻撃への対応を急激に加速させたのだ。
「ゴォアァオア!!」
凄まじい攻撃を前に、アーデはなす術などなかった。
しかし、アーデは全身の力を振り絞り、両手で剣を握ると、頭上を高く振りかぶった。
「ゴァーーーーーァ!!」
その攻撃をハクはスッとかわすと、体を捻らせ一回転すると、その勢いで水平斬り《プランス》を叩きつける。
カウンターを受けたアーデは体を仰け反らせ、さらにはバランスが保てず転倒する。そこへハクは飛び込むと、両手で剣を握りしめた。
「ハァッッ!!」
振り上げた剣をアーデに振り下ろす。その渾身の一撃はアーデの頭部に炸裂した。それを食らったアーデは首が下へ勢いよく傾く。
「はぁ……はぁ…」
ハクは息を上げ立ち尽くす。アーデは先程の攻撃でほぼ体力はなくなっていた。
「お前が……」
ハクは一歩一歩アーデの元へと近づいていく。
「お前のせいで……」
剣を振り払い剣を着いた血を払い落とす。そしてハクは俯いたまま語り続ける。
「みんなが、死んだ……」
アーデはのろりと立ち上がる。しかし、剣を杖代わりにしていて、もう限界だということは一目瞭然だった。
だが、ハクはそんなアーデに剣を振り下ろした。
「これは…トミーとステフ達の分」
トミーとステフはギルド、ソルティアの一員で、C、D班の人たちで、このアーデにやられた人たちの一部だ。
「これは、ソルとケニー達の分」
ソルとケニー達ギルド、レイヴンのE、F班の人たちだ。彼らはあの凶暴化したガーディアンによって壊滅させられた。
「これはディルク、ロイ!!」
次々とハクはアーデに怒りの攻撃を叩きつける。
「シルク…ザック……ノア!!」
アーデはなす術もなく斬撃を体に浴びる。ハクはまだやめない。
「セレナ!!」
ハクはアーデに攻撃を与え続ける。もうアーデの目は半開きで、息も荒げて死ぬ寸前だった。
「これは……リーフと……」
そう告げた後、ハクは剣を構えて、フルスイングでアーデに叩きつけた。
「ァアーーーーーっ!!」
その一撃は、アーデの腹部に直撃し、アーデは口を開く。
「ガ……ァ…」
そして、そのままアーデは膝を付き、前のめりに倒れる。倒れた衝撃が、このダンジョンに響き渡った。目標を成し遂げたハクは、その場に立ち尽くした。
「終わった……のか……」
そして、ハクは剣を鞘に収めると、セレナの方へと歩き出した。
***
セレナは気づくと宿のベッドの上にいた。窓からは暖かい日差しが差し込んでくる。そして、この少し固めの感じに、全く広くないベッド。これはまさしく宿のベッドだと確信した。周りには自分の荷物が置いてあった。自分の愛剣もしっかりと立てかけられている。しかし、なぜここにいるのか。誰がここまで運んだのか。確か、自分はダンジョンにいたということを思い出す。そして、死闘の末、アーデにトドメをさしかけられ……
そこで、セレナはある人物の顔がよみがえる。目を紅く光らせた白銀の髪の少年を。
こうしてはいられないと、セレナはベッドから飛び降り、そのまま家主の元へと駆け出した。
扉を開け。ものすごいスピードで階段を降りると、勢いよくすぐそばのドアを開ける。
「ど、どうしたんだい?」
そこには家主が新聞を読みながらくつろいでいる姿があった。
「こ、ここに運んできてくれた人はどこに……?」
「あぁ。あの白髪の男かい?そいつなら昨日の晩に出てったよ。安心しな。ちゃんと金は払って行ったよ」
そう言うと、家主は人差し指と親指をくっつけてお金のマークを作り出す。
「どこに行くとか聞いてませんか?」
「ごめんねぇ。あたしゃ何も聞いてないんだ。でも彼、顔がとても疲れてて、あたしは泊まって行ったらって進めたんだけどさぁ。「やらなきゃならないことがあるので」って断られちまったよ」
「そうですか……」
それを聞いて、セレナは肩を下ろすと、家主にお礼を言って部屋を出る。
自分の部屋に戻ると、宿を出る準備を整えた。そして、自分の愛剣に手を添える。すると、またあの光景がよみがえってくる。あの、アーデによる最後の一撃の瞬間。きっと彼がいなければ自分は死んでいたに違いない。あの攻撃の速さ。一体彼に何が起こっていたのかは自分には知る由もない。
最後に剣を腰のベルトに付けて準備を終えると、部屋から出て玄関に向かう。
扉を開けて外に出る。日差しがセレナの目に直撃する。それをセレナは手で影を作るようにしてさえぎる。
しかし、今から一体どうしたものか。アーデとの戦いの体の傷はまだ完全には治っていない。その証拠に体には包帯が巻かれていた。
少し考えた後、セレナは西にあるハンターズ喫茶に向かった。
その店に入るや、セレナは空いているカウンターに腰を下ろす前に、店に置いてある新聞を手にして席に座った。
「アイスコーヒーください」
ウェイトレスを呼んで、セレナそう言って注文した。その後、セレナは先程拝借した新聞に目を落とす。読み続けていると、何分かした後に、注文したアイスコーヒーがやってきた。
それを一口飲んで読み始める。すると、セレナは次に記事を見て驚嘆する。
『ハク・セレクトス。Dランク史上最速昇格』
それは、ハクがDランクに昇格したという記事だった。ただ昇格しただけなら、あのアーデを倒したくらいなんだから当たり前だとは思うが。史上最速と聞いて驚きを隠せなかった。セレナは確か自分はまだ二ヶ月近くしかハンターになってから立っていないことに気づく。あんな死闘の後だから、まったそんな感じはしなかった。正直にいうと、自分も昇格してもいいのではと思わずにはいられなかった。
「ハク……」
一体今、あなたはどこにいるの……
***
一人の少年は、第十五層に存在する地下都市、「アンダーシティ」来ていた。アンダーシティとは、ダンジョンに唯一存在する安全地帯で、しかもその天井には太陽のような光を放つ光石がたくさん埋まっていて、まるで地上のような空間が広がっていた。
「ここが……アンダーシティ」
その少年はそうつぶやくと、その一本の道を、一歩ずつ、噛みしめるように歩き出したのだった。
第一章・完
やっと最初の章も完結することができました。最後はリーフが死んでしまうという展開でしたが、皆さんはどうでしたでしょうか。中にはもうそんな感じがしたという人もいるのではないでしょうか。
さて、無事第一章も終わり、次はいよいよこの物語の最終目的も明らかとなっていきます。そして、新たなハクの仲間たちにもご期待ください。ちなみに、セレナはメインヒロインですので(笑)
では次回、第二章《進撃》乞うご期待!!