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蕪纏(かぶらのまとい)09

「なっ!」

 驚く威力使徒の隙をついて私は二振り目のアスカロンを威力使徒の首元に晒す。

 そして落下。

 私は二振りのアスカロンを交差させて威力使徒の首元に突き付けて押し倒す。

 勝負あり、だ。

「剣を取る者は皆、剣で滅びる……マタイによる福音書のイエス=キリストの言葉だよ」

「是。だから信仰心厚い子羊に剣を取らせないために俺達がいるのだ」

「このまま剣をもう少し押せば殺せるね、だよ」

「そうすればいいだろう」

「冗談だよ」

 私は二振りのアスカロンを無害な光の粒子へと変換した。

 ふわっと光った後、空間に撹拌して消えるアスカロン。

「……何のつもりだ」

「どういう意味だよ?」

「何故殺さない」

「だって殺しはいけないことだから。ヤーウェもそう言ってるでしょ、だよ」

「俺はお前を……魔女を殺すための存在だぞ」

「うん。それは認める。でもだからといって私があなたを殺す理由にはならない、だよ」

「見逃すのか」

「そういうことになるのかな、だよ」

「ちっ」

 舌打ちすると威力使徒は倉庫の鍵を取り出した。

 奇跡倉庫の扉を開いてアスカロンを収納する。

 それから言った。

「今日のところは引いてやる」

「本当! ありがとう! だよ」

「勘違いするな。冷めただけだ」

「それでもありがとう、だよ」

「勘違いするなと言った。魔王は排除しなければならない。神威にかけて。それに……俺の報告によってはお前も魔王に指定されかねないぞ」

「いいよ。仕方ないと……思うし……。それに私は本当に魔王だから、だよ」

「どういう意味だ?」

「私の中にはね。二つの魂が宿っているの。一つは私の魂。もう一つは第六天魔王波旬の魂。だからきっと私も魔王に指定されてもおかしくないことなんだよ。私も魔王器だし、だよ」

「第六天魔王波旬?」

「そっか西洋の人にはわからないよね。人ならざる魂が私の中には眠っているの」

「あのふざけた魔力の使い方はそのためか」

「そうだね……だよ……」

 私は頷く。

 威力使徒は視線を私からプリムラちゃんに向ける。

「プリムラ=メイザース」

「何ですの?」

「今日のところは見逃してやる」

「それはわたくしのセリフですわ」

「ちっ」

 舌打ちして、威力使徒は跳んだ。

 夜の空に溶けて消えたようにその姿を隠した。

「ぶはぁ、だよ!」

 私は緊張の糸が切れてそんなことを言った。

「あれが威力使徒……。正直破軍の陣がなければ何回死んでいたかわからない、だよ」

「異端や魔女の殺戮のエキスパートですからね。それよりもみじさん?」

「何でしょう、だよ」

「誕生日を教えてもらってもよろしいでしょうか?」

「四月四日だけど、だよ」

「四月四日……」

 俯いて、それから突然、

「もみじお姉様!」

 プリムラちゃんは私に抱きついてきた。

「ふえ? え、だよ?」

「威力使徒の魔の手から体を張って私を守ってくださったこと、わたくしとても感動しました。もみじお姉様と呼ばせてください!」

「え、ええ~、だよ」

「駄目ですか?」

「あんまりそういう上下関係はないほうがいいな。私はプリムラちゃんとお友達になりたいから、だよ」

「でも私はもみじお姉様とお慕いしたいですわ」

 まぁ否やはないけどね。

「それに別に私はプリムラちゃんを守ったわけじゃないよ。私が個人的にプリムラちゃんが傷つくところを見たくなかっただけで。そんな偽善に感動されても、だよ」

「それを一般的には優しいって言うんですのよ」

「そんなものかなぁ、だよ」

「なんだかもみじお姉様は不思議な人ですわ。公園で待ち受けていたときには殺したくてたまらなかったのに……」

「剣呑だよぅ……」

「今では大好きになってしまいました。責任をとってくださいましね」

「うん、まぁ。好きでいてくれることは素直に嬉しい、だよ。それよりプリムラちゃん。結界……解いてくれないかな、だよ」

「そうですわね」

 アゾットと呼ばれる魔術剣を公園の四方から引き抜くプリムラちゃん。

「鬼のように自らの霊力だけで結界が張れれば面倒がなくていいんですけどね」

 人の身ではそういうわけにもいかないらしい。

 そう言えば姫百合ちゃんも霊符とヒョウを教室の四隅に刺して結界を創っていたっけ。

 などと、そんな考察をしていた所で公園の結界が解かれる。

 ほぼ同時に、私の持っていた携帯電話が鳴る。

 誰からかと携帯電話を取り出してみるとお兄ちゃんからだった。

「もしもし、だよ」

「愉快なことしてたみたいだな、そっちは」

「なんだか見てたみたいな言い方だね、だよ」

「まぁな」

 事実らしい。

「それで? 何の用、だよ?」

「蕪纏の正体がわかったぞ」

「え、だよ?」

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