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それぞれの群像02

「正直、僕自身も自分の本質を理解はできていた。人を襲う鬼。いや……日本では人を襲う隠を全て鬼というのだろう? そういうものだと諦めれば傷つくこともなかった。けどね……」

「けど、だよ……」

「君は言ってくれたよね。人を殺すほどの吸血量に苦しんでるエヴァちゃんを救える。それだけで意味はある、と。これで僕ともみじ君は友達だ、と。それがどれほど嬉しかったか……君は理解していないだろう」

「…………」

 言葉を返せない私に、エヴァちゃんは吐露した。

「嬉しかったよ。嬉しかった。僕を肯定してくれて。僕を否定しないでくれて。僕は自身を化け物と肯定しなければ生きていけなかったのに、君は対等に接してくれたんだ。僕の優しさをあの戦いの中から見抜いてくれた。これ以上の幸せがどこにあるんだい?」

「なら、よかった……だよ」

「…………」

「もうエヴァちゃんは人を襲わなくていいの。私の仲間で、一緒にいてくれるなら自分を化け物だなんて思わなくていいの。それは私にとっても嬉しいことなの、だよ」

「……うん」

 そう頷いてエヴァちゃんは涙を一滴、零した。

 その涙は私の唇に落ちた。

 エヴァちゃんの涙を舐めとる私。

「そう言えばお腹が減ったな。もみじ君、いい?」

「……いいよ、だよ」

 私は首元をあらわにして、それから霊力をトゥインクルスターの赤雀に込める。

「トゥインクルスター……お願い……だよ……」

「じゃあ、いただきます……」

 エヴァちゃんが私の首元に噛みついた。

 プツッと牙が突き立てられる。

 そして嚥下。

 ゴクンゴクンと私から血を吸い続けるエヴァちゃん。

 そして失われていく血を補完するトゥインクルスター。

 エヴァちゃんが私をベッドに押し倒したまま血を吸う。

 はたから見れば淫靡な光景に見えるだろうか。

 そんなことをエヴァちゃんに言うと、

「私たちの眷属はレズレズなんだよ。知らなかった?」

 なんて言った。

「そうなの、だよ?」

「そうだよ。言っただろう? 僕が好きなのは可愛い女の子とその血液だって……」

「でも私みたいな、だよ……」

「君は自分がいかに可愛いか知らないとみえるね」

「はう、可愛い……だよ?」

「そう、とても可愛い。鏡の国のアリスよりも可愛いよ」

「褒めすぎだよ……」

「そんなことないよ。君は美少女だ。だから僕も君といれて嬉しいし、君の血を吸うんだ」

 吸血を再開するエヴァちゃん。

 ゴクンゴクンと嚥下される私の血液。

 その血液の不足を補うトゥインクルスター。

 三十分ほどそれが続いた後、エヴァちゃんは私の首元から牙を引いた。

 そして言った。

「御馳走様」

「お粗末様、だよ」

 そして私は首元を私服で隠す。

 それから起き上がろうとして、エヴァちゃんに阻止された。

 エヴァちゃんがグイと私に顔を近づけてきて、そして言った。

「ねえ、もう一度キスしていい?」

「え、いいけど、だよ……」

「ありがとう」

 エヴァちゃんがチューしてくる。

 ただのチューじゃなかった。

「ん……んっ……!」

「ん……!」

 いわゆるディープキスだ。

 私とエヴァちゃんは唾液を交わらせながら舌を互いにからめとる。

 数秒ほどそうしていただろうか。

「何をやってるんですの、お二方?」

 そんな声が私の部屋に響いた。

 私とエヴァちゃんがディープキスをやめて声のした方を見ると、腕を組んで不機嫌そうにしているプリムラちゃんがいた。

「私の荷物の整理も手伝わないで何をしているかと思えば、女子同士でキスしているなんて……いつのまにそんなに仲良くなったんですの?」

「ふわ、これは……だよ……」

「少なくともメイザースのお嬢さん、君に関与しうることではないね」

 少しの挑発をのせてエヴァちゃん。

「ま、荷物の整理はお姉様と私とで終わらせたので別に問題もありませんが……もみじさん?」

「はい、なんでしょう、だよ?」

「よくもまぁ先刻の敵を相手にそこまで寛容になれるものですね」

「だって……エヴァちゃんは優しいから、だよ」

「もみじ君……嬉しいよ」

 エヴァちゃんがベッドに倒れている私をギュッと抱きしめる。

「ふん、まぁいいですけどね。それより弐目一眼斎が呼んでいましてよ」

「弐目一眼斎だよ?」

「あなたのお兄様です」

「ああ、だよ」

 そう言えばお兄ちゃんはそんな愛称だった。

「おーい、もみじ……」

 噂をすれば影がさす。

 気だるげな双眸のお兄ちゃんが私の部屋に顔を出した。

 料理中だったのだろう。

 前髪は輪ゴムでくくられていた。

「なぁに? お兄ちゃん、だよ」

「晩飯……できたぞ」

「今日のご飯は?」

「もつ鍋」

「スープは?」

「味噌」

「にらは?」

「多め」

「ちゃんぽん麺は?」

「六玉」

「あは、だよ」

 私は嬉しくて笑う。

「ありがとうお兄ちゃん、だよ」

「別にお前のためじゃねーよ」

 キッチンへとだろう戻っていくお兄ちゃん。

 そっけないとは思わない。

 あれがお兄ちゃんの照れ隠しなのだ。

 私はエヴァちゃんを引き連れて、プリムラちゃんと姫百合ちゃんと合流してキッチンに向かった。

 味噌の匂いが一階へと続く階段からも嗅げた。

 お兄ちゃんの料理はいつも美味しい。

 多分、今回も。

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