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それぞれの群像01

「で、なんでこうなるんだ?」

 自宅に帰った私たちを出迎えてくれたお兄ちゃんの第一声がそれだった。

 お兄ちゃんはその黒と白のヘテロクロミアで私、姫百合ちゃん、エヴァちゃんを眺めた後、プリムラちゃんに視線を止めた。

「ていうか、何。なんでお前までいるんだよプリムラ」

「あら。いけませんの? 弐目一眼斎……」

「ただでさえ鬼切に吸血鬼にと万国びっくりショー化しつつあるのにこの上まだ家を異空間化する気か」

「お姉様がこちらに住まわれるというのなら、そこが私の住まう場所ですわ」

「こっちの意向は無視か」

「いいじゃないですの。美少女が四人もこの家にいるなんて、羨ましい限りですわ」

「ガキに興味はない」

 キッチンに引っ込むお兄ちゃん。

 姫百合ちゃんが、ふ、と吐息をつく。

「一眼斎の苦労も知れる。こうも人数が増えればね」

 それは考えない方向で。

「ただいま、もみじさん」

「はい、お帰り。姫百合ちゃん、だよ」

「ただいまですわ」

「はい、お帰りなさい。プリムラちゃん、だよ」

「お邪魔します」

「駄目だよエヴァちゃん、だよ」

「え?」

「今日からここがエヴァちゃんの家なんだから。ただいまって言わないと、だよ」

「……ただいま、もみじ君」

「はい、お帰りなさい。エヴァちゃん、だよ」

 私はニッコリと笑う。

 エヴァちゃんは顔を赤くしていた。

「どうしたの、エヴァちゃん? 顔が赤いよ、だよ」

「いや、なんでもないよ」

 そして私から視線を逸らすエヴァちゃん。

 まぁなんでもないというのなら気にすることもない。

「じゃ、行こ、だよ」

 私は姫百合ちゃんとプリムラちゃんとエヴァちゃんを二階に上げた。

 二階には三つの部屋がある。

 一つは私の部屋。

 一つはお兄ちゃんの部屋。

 一つは姫百合ちゃんの部屋。

 この際お兄ちゃんの部屋はおいといて。

 つまりプリムラちゃんとエヴァちゃんは私か姫百合ちゃんと相部屋しなければならないわけで。

「どうする、だよ?」

 尋ねた私に、

「当然わたくしはお姉様と同じ部屋を所望しますわ」

 ふんすと胸を張ってプリムラちゃん。

 エヴァちゃんは私の右腕に自身の両腕をからませながら、

「僕はもみじ君と一緒がいいな」

 主張した。

「じゃ、そういうことで、だよ」

 私たちはプリムラちゃんの荷物を姫百合ちゃんの部屋に運んだ。

 それから私はふと気づく。

「そういえばエヴァちゃんは荷物とかないの、だよ?」

「あることにはあるけどね」

 苦笑するエヴァちゃん。

「その荷物は今どこに? 運ぶの手伝う、だよ」

「いや、いつも異空間に保管しているから運ぶ必要がないんだ」

「異空間、だよ?」

「まぁ口で説明するより見てもらった方がいいね」

 私の部屋へと向かうエヴァちゃん。

 それにつれられて私も私の部屋に向かう。

 私の部屋に入ると、エヴァちゃんは霊力を放出して、

「出ろ、僕の領地」

 そう呪を紡いだ。

 私の部屋に空間の歪みができる。

 その空間の歪みから黒い棺桶が出てきた。

 その黒い棺桶を軽々と片手で持つと、私のベッドと並行するように置くエヴァちゃん。

 呆然とする私にエヴァちゃんはまた苦笑する。

「うん、百年も吸血鬼やってるとね……空間魔術なんかも覚えちゃうんだ。だからいつも僕の領地は異空間に保管してあるんだ」

「まさか棺桶で寝るの、だよ?」

「まぁそれが吸血鬼だからね」

 あっさりとエヴァちゃんは言う。

「…………」

 私が言葉を発せないでいると、

「二人っきりだね」

 エヴァちゃんが言葉を切り出した。

「あ、そうだ。まだプリムラちゃんの荷物が残ってるんだったね。早く行かないと、だよ」

「待って……!」

 エヴァちゃんが私の肩を握って自身の方へと無理矢理引き寄せると、押し倒すようにして……いや、事実私をベッドに押し倒した。

 押し倒された私は、押し倒したエヴァちゃんの顔を間近で見つめてしまい心臓の鼓動を早める。

 金髪のセミロングに碧眼のエヴァちゃんは、やっぱり絶世の美少女だ。

 そのまま、一秒、二秒、三秒と時間が流れる。

 そして、

「キスしていいかい? もみじ君……」

「キス? 別にいいけど、だよ」

「ありがとう」

 私にキスをするエヴァちゃん。

 唇が重ねられる。

 そのまま一秒、二秒、三秒。

 そしてキスが終わる。

「えへへ、キスしちゃった」

「ちょっと恥ずかしいけど、だよ……」

 御互い頬を朱に染めて言い合う私達。

「もみじ君、君は僕を友達だと言ってくれたね」

「うん、言ったね、だよ」

「嬉しかったよ。とても、とても嬉しかった」

「そうなの、だよ?」

「吸血鬼の歴史というのはね……往々にして迫害の歴史だ。僕は血を吸う鬼としてヨーロッパで迫害の限りを受けた。誰も僕も好きにならない。誰もが僕を殺そうとする。僕が身を浸していたのはそんな世界だ。きっと言葉で言っても君には本質は理解できないだろうね」

 そんなことはない。

 迫害なら私もされてきた。

 吸血鬼のような酷いものではないかもしれないけど、それでも鬼を見られるものとして私も迫害はされてきた。

 絶望は……死に至る病だ。

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