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星辰天環04

 そんなこんなで陰陽寮に属することになったわけだけど……。

「お邪魔します」

「駄目だよ姫百合ちゃん。今日からここが姫百合ちゃんのお家なんだからただいまって言わないと、だよ」

「……ただいま」

「はい、お帰り、姫百合ちゃん、だよ」

 私とお兄ちゃんは諸々の事情が終わった後、自宅に帰ったわけだけど、私の監視という名目で姫百合ちゃんが私の家に同居することになった。

 既に姫百合ちゃんの荷物は届いている。

「それで……」

 前髪を輪ゴムで纏めてエプロンをかけたお兄ちゃんが私と姫百合ちゃんに聞いてくる。

「今晩何食べたい?」

 私は言った。

「ハンバーグだよ!」

 姫百合ちゃんは言った。

「何でもいいですよ一眼斎」

「じゃあハンバーグだな……」

 調理を開始しだすお兄ちゃん。

 時間は夕方といったところか。

 姫百合ちゃんは不思議そうにお兄ちゃんを見る。

「弐目一眼斎が料理上手だとは知りませんでした」

「味は期待するな」

 そっけなくお兄ちゃん。

 私はそんな二人を横目に、星辰天環を睨みつけていた。

「むむむ……だよ……」

「どうかしたかい、もみじさん?」

 いつの間にかキッチンから戻ってきた姫百合ちゃんが私の不審な挙動に問いをかける。

「んとね。星辰天環ほしふるあめのわって名前が固すぎると思うんだ。他に良い名前をつけてあげたいなって思って、だよ」

「別の名前……」

「うん。それで考えたんだけどトゥインクルスターってどうかな。キラキラのお星さま、だよ!」

「……そうだね。いいんじゃないかな」

「そうだよね! トゥインクルスターの方が可愛いもんね!」

「ガキの発想だ」

「お兄ちゃんうるさい」

 私はお兄ちゃんを牽制した後、リビングのソファに腰掛けるとテレビをつける。

 夕方のニュースをやっていた。

 その夕方のニュースでは、この近辺で三体のやせ細った死体が見つかったことを取り上げていた。

 手短にその不審死のニュースを伝え終わると、キャスターは次のニュースを滔々と話し出す。

「姫百合ちゃん姫百合ちゃん、やせ細った死体だって。怖いね、だよ」

「鬼の仕業だ」

「へ?」

 私は一刻ポカンとした。

「鬼の仕業だ、と言ったよ。既にこの鬼を討つべく凶都の鬼切が動き出している」

「さっきのニュースが鬼の仕業、だよ……」

「表向き不審死。しかして実際は。そんなものは日常茶飯事だ。すくなくともこの魔窟凶都にとってはね」

「鬼の仕業、あれが……だよ……」

「やせ細ったということは、血を抜かれたか、生気を吸い取られたか、そんなところだろう」

「退治するの、だよ?」

「無論。それが鬼切の使命だからね」

「怖くないの、だよ?」

「恐怖などとうの昔に落としてきたんだ」

「……そっか、だよ」

 そうとしか私は言えなかった。

 そこに姫百合ちゃんが念をおすように言う。

「他人事のように言っているけれどもみじさんも鬼退治に参加するんだよ?」

「え、私が、だよ?」

「当然。陰陽寮に属したならば凶都の鬼を切る使命をおびている」

「でも私、そんなこと……だよ」

「あなたは最強の陰陽具、ほしふる……トゥインクルスターを持っているじゃないか」

「それはそうだけど……だよ」

「とりあえずは……そうだね。変身ができるようにならないとね」

「変身、だよ?」

「そう。鬼との戦闘は熾烈を極める。防御や身体強化の魔法のかかった戦装束にいつでも変身できるようにならないと」

「そんなことできるの、だよ」

「大切なのはイメージだよ。自らを守り、自らを強くする戦装束をイメージするんだ。そうすれば後は万能の陰陽具、トゥインクルスターがあなたに見合った戦装束を作ってくれるでしょう」

「戦装束……だよ……」

「もみじさん、目を閉じて」

「うん、だよ……」

 言われて目を閉じる私。

「防御魔法と強化魔法のかかった服装をイメージするんです」

「うん、こうかな……だよ……」

 なんとなくのニュアンスで想像する。

「後は霊力をトゥインクルスターに送って具現化する」

「トゥインクルスター……お願い……」

 自分の中にある力を右手のトゥインクルスターに流し込むイメージ。

 私は目を開く。

「変身……!」

 そして変化が起きた。

 私の来ている部屋着が光の粒子となって私を取り巻く。

 光の粒子は帯状になって私を包むと、別の服へと変化した。

 黒を基調としたワンピースに同じく黒を基調としたセーラー服のトップを足したものだ。

 所々に太極図や五芒星が描かれてはいるけど……これは……、

「ほとんど中条小学校の制服じゃないですか」

 そうつっこむ姫百合ちゃんを誰も責めれはしないだろう。

「まぁ馴染んだ服と言う意味ではこれがイメージしやすかったもので、だよ」

「ちょっと失礼」

 私の戦装束を触る姫百合ちゃん。

「うん、防御魔法に強化魔法がちゃんとかかってるね。これなら並の鬼相手なら軽くあしらえるだろう」

「触っただけでわかるの、だよ?」

「そうだね。流れている霊力を読むことも鬼切には必要だからね」

「私、溢れる霊力を知覚するだけで精一杯だよ」

「そこまではもみじさんに求めてないよ。今は戦装束を作れただけで良しとしておこう」

 ちゃんちゃん。

 追記。

 お兄ちゃんの作ったハンバーグはとてもおいしかった。

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