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伴之もみじの日常01

「Pppp! Pppp! Pppp!」

「う、むに……」

 うるさい。

 眠い。

 だるい。

 私こと伴之もみじは、うーんと腕を伸ばすと騒音の元を黙らせた。

「…………」

 沈黙する目覚まし時計。

 これで万事解決。

「むに……あと五分だよ……」

「何があと五分だっ」

 頭にガツンと衝撃が走った。

「ぴぎゅっ!」

 あまりの痛みに私は目を覚ます。

 痛む頭を押さえて上半身だけ起こすと、

「早く起きろ。飯、できてるぞ」

 お兄ちゃんが目の前に立っていた。

 私と同じ黒髪ショートで切れるような眼差しの、生粋と言っていい美男子さん。

 人を惹きつけるような黒と白のヘテロクロミアが魅力的。

 さっきまで料理をしていた証拠だろう、前髪を乱雑に輪ゴムで纏めていた。

 私はぷくっと膨れる。

「何も叩かなくても……だよ……」

「こうでもしないと目ぇ覚めないだろお前」

 ボソリと言うお兄ちゃん。

 冷たいお兄ちゃんの言葉に反論せずに、むにゅむにゅふわ~とあくびをして、それから私は立ち上がる。

「……眠いんだよ」

「そんなこと俺が知るか」

「うみゅ……」

「変な声出してないでとっととダイニングに来い。飯、冷えるぞ」

「は~い、だよ」

 言って私とお兄ちゃんは揃って二階の私の部屋から一階に降りる。

 お兄ちゃんと階段際で別れると私は洗面所へと行く。

 鏡を前に立つ。

 髪の毛ボサボサの年の頃十一歳のピチピチ女の子が鏡に映る。

 服装はパジャマ。

 まぁご飯を食べ終わってから学校制服に着替えるのでこれはよしとする。

 それよりも……今日もまたすごい寝ぐせだ。

 私はブラシと寝ぐせ直しをもって寝ぐせと格闘する。

 格闘すること五分。

 すっきりとした髪の可愛い女の子が鏡に映っていた。

 髪型は基本的にショートカットだけどサイドだけが肩当たりの高さまで伸びている。

 お兄ちゃんには「もみあげ」って馬鹿にされるけど、これが私の個性だ。

「うん。今日も好調だよ」

「もみじー。飯ー」

 ダイニングからお兄ちゃんの声が届く。

 急かすお兄ちゃんに、

「はーいだよ」

 と答えて私はブラシと寝ぐせ直しを洗面所に置くとダイニングに顔を出す。

「わ、いい匂いだよ」

 ダイニングに着くなりの率直な感想。

 お兄ちゃんの料理はいつもいい匂いがするんだ。

「寝ぐせ直したのかよ。もったいない」

「もったいないって何さ、だよ。寝ぐせじゃ格好がつかないんだよ」

「色気づきやがって」

「そういう言い方されると困っちゃうんだよ」

「あっそ」

 興味なさげにそう呟いて、お兄ちゃんは朝ご飯を食べ始める。

 私も少し高めの椅子に座ると、

「いただきます」

 そう呟いて、それから浄土真宗ではないけれどパンと一拍、朝ご飯を開始する。

 ちなみにメニューはだし巻き卵に焼き鮭にレタスサラダに白米。

 どれも逸品。

「うーん、お兄ちゃんのご飯は美味しいけど……おかげで体重がなぁ……なんだよ。乙女の悩みだよ」

「馬鹿言え。普通に三食食ってりゃ太る道理もないぜ。間食、してねえだろうな?」

「う……だよ……」

「太りたくなけりゃ間食を止めることだな」

「でも甘味処ロマンスのケーキが絶品で、だよ……」

「……好きにしろよ」

 焼き鮭をほぐしながらお兄ちゃん。

 ほどなくして食べ終わると、私は二階の自室に戻ってパジャマを脱ぐ。

 シャツとショーツを脱いで裸になると、箪笥から新しいシャツとショーツを取り出して着て、それからクローゼットから中条小学校の制服を取り出して着る。

 中条小学校の制服は黒を基調としたワンピースに同じく黒を基調としたセーラー服のトップを足したものだ。

 制服を着て、タイを結んで、それから姿見の前に立って自身をチェックする私。

「うん、大丈夫かな……?」

 サイドの髪を手で梳くとサラリと流れる。

 よし、大丈夫だよ。

 私はそう納得すると、一階へ降りる。

 一階のリビングに顔を出すと、何やら流麗な文字が書いてあるお札を持ったお兄ちゃんがいた。

 お兄ちゃんはよく切れる眼差しをこちらに向けると、

「ん」

 そう言葉になってない言葉を放って、そのお札を私に渡してくる。

 近づいてお札を受け取る私。

「あの……これは……」

「退魔の札。もってけ」

「占いで何か出たの?」

「まぁそんなところだ」

「うん、ありがとうだよ。お兄ちゃん……」

 私はお兄ちゃんにチューをした。

 私のチューをあっさりと受けるお兄ちゃん。

 まぁ当たり前か。

 だってもう何度目だって話だし。

 チューをし終えて、それからお兄ちゃんが言う。

「どうせ幽霊辺りに絡まれるんだからそいつをかましてやれ」

「駄目だよぅ。幽霊さんだってちゃんと生きてるんだから、だよ」

「死んでるからの幽霊だろ」

「そ、そうだけど……だよ……」

 反論できないでいると、お兄ちゃんはシッシッと手を振って言う。

「もう学校だろ。早く行けよ。遅刻するぞ」

「あ、そうだった。じゃあお兄ちゃん、行ってきますだよ!」

「はいはい」

 投げやりに応答して、それからリビングの机に置いてあった湯呑みを取って白湯をすするお兄ちゃん。

 そんなお兄ちゃんの背中から視線を外して、私は玄関へと向かった。

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