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第六話 怒らせてはならぬもの

 私の父親の三回忌の法事なのに風邪を引いて辛いです。

 でも、更新します!

――ケサラパサラの街 冒険者ギルド支部 ギルド・マスターの執務室――



 この部屋では、今、金髪、碧眼の美貌の女性がダーク・エルフの老人の目の前で床に正座していた。 否、させられていた。


「……」


「反省されましたかな? セレネディア様」


「……はい! しました! しましたから、正座はもう堪忍して下さい!! ホッポ!!」


 このホッポというダーク・エルフの老人、このケサラパサラの街の冒険者を束ねるギルド支部長である。

  

 そして、床に座らされている女性は、今から三百年前に行方知れずとなっていた月と闇の女神『セレネディア』、黒モヤの正体その人であった。


 ダーク・エルフは女神セレネディアの眷族であり、ホッポは幼少の頃よりセレネディアの世話係を務めてきた、セレネディアが頭が上がらぬ人物の一人である。

 

「全く! 貴方という方は! ほんっとうに抜けているんですから! いいですか! そのイオリの師匠なるドワーフ、ゴドルボは確かに鍛冶師として世界で五本の指に入ります! ですが、三十年前、現在の職人ギルドのグランド・マスターであるアルノート殿と共にグランド・マスターの座を掛けた選考途中にアルノート殿に殺人の濡れ衣を着せ、自らがグランド・マスターの座に収まろうとした悪党、犯罪者ですぞ! せめて、そのイオリという孤児の事をわたくしめに相談して下されていたら、もっと早くにゴドルボを捕える事が出来たというに……!」


「ですから! 今! 相談に来たではありませんか!!」


「ですから! 遅過ぎると言っているのですよ!!」


 ホッポは蟀谷(こめかみ)に青筋を立てて女神であるセレネディアを怒鳴り付ける。

 むうっと唇を尖らせ無言の抗議をする女神セレネディア。

 神の威厳もこれではあったものではない。


「これで、夫がある身で二柱の母とは思えませぬな……」


「あの人の事は言わないで頂戴! あんな嫉妬深い最低な人! 夫でも何でもありません!!」


 女神セレネディアの夫は太陽と光の神『ペルセオン』である。

 このあまねく世界を隅々まで照らす神として信仰されているが、その一方で、妻や二人の娘を愛するあまり(わづ)かでも近づく男達がいようものなら、太陽の力で(ことごと)く焼死させてきた嫉妬深い一面を持つ。

 口癖は『妻と娘は私が守る!』である。


「さっきの話しの続きですが、ゴドルボは既に職人ギルドから除名されております。 ですので、その師弟契約そのものは無効になります。 ですから、セレネディア様がそのイオリと言う孤児を引き取っても何も問題はありません。 あるのは、まだ五歳の幼児の師弟契約を許した教会の人間です。 普通、師弟契約は早くとも八歳からと職人ギルドで決まっておりますものを……。 ゴドルボと共にその教会の関係者も捕らえて調べさせます。 叩けばまだまだ埃が出てきそうですからな」


「ペルセオン教が問題視して横槍を入れてくるのでは? その教会はペルセオン教傘下の教会ですし……」


「犯罪者とグルならば如何(いか)にペルセオン教とて文句は言えますまい。 ……処で、その孤児は引き取ってどうなさるおつもりですか?」


「私が責任を持って育てます! そして、ゆくゆくは……」


 セレネディアは恋する乙女のように頬を朱に染め、イヤン、イヤンと言いながら腰をくねらせる。


「ゆくゆくは?」


 ホッポはセレネディアのその様子に若干、いや、かなり引きながらセレネディアの答えを待つ。

 いや~な、答えしか帰ってこない感じがしてならない。

 

「な、何でもありません! 兎に角、ゴドルボの事、くれぐれも頼みましたよ!! もし、捕まなければ私が直々に赴き天罰を下します!! 良いですね! ホッポ!!」


「はあ……。 良いも悪いも止めても聞かぬでしょう? セレネディア様は……」


 ホッポは盛大に溜息を付く。


「良くわかっているではないですか、ホッポ」


 背を反らし、巨乳を強調するセレネディア。


 ポッポはそんなセレネディアを半目で見据えて考える。


(そのイオリという者、場合によっては儂が保護してやらねばならんかも……。 でなければ、人妻の毒牙に掛かって、トチ狂った夫に殺されてしまう)


「しかし、三百年前に家出して、今まで他人に興味を示さなかった貴方様がご執心なさるとは何あるのですか?」


「ヒューペリオン大陸でブレイブエンブレムの力と混沌属性の力のぶつかり合いを偶々、近くにいた時に感じて其処へ向かってみたのです。 最初、私はてっきり女神ファリスの関係者と勇者が戦っているものだと思っていたのですが、其処には赤児のイオリが殺されそうになっていたのを私が助けたのです」


「女神ファリス……最近活動が活発ですからねえ。」


 女神『ファリス』――破壊と死と魔物と魔族を生み出し統べる混沌の女神。 人、妖精、獣人、巨人の生みの親であり創造と命の神である神々の王『ローエルン』と敵対する存在。


 ローエルンはファリスに対抗する為、自らが生み出した種族にブレイブエンブレム――勇者の力を与えたと言われている。


「それにイオリは、闇の属性を所持しています」


「なんと! 闇の属性ですと!?」


 闇属性を持つ者は魔力の扱いと魔力量に優れ、珠紋術や魔導具、薬剤調合、錬金術などの物作りに優れた才能を発揮する。

 だが近年、その闇属性を持つ者が急激に減少し、人手不足に陥っていた。

 その為、職人ギルドからの要請もあり、冒険者ギルドでも闇属性持ちは出来るだけ説得し、職人関係の職種を斡旋している。


「セレネディア様がわざわざ保護し、養育するのですからかなりの才能を持っているのですな?」


「秘密です♡」


 セレネディアは月と闇の他に職人の保護や加護を司る側面を持つ。

 ゆえにホッポは、イオリが才能ある者と判断したのだ。


「そうですねえ……イオリもいずれホッポのお世話になるのですからヒントを差し上げましょう」


 そう言ってセレネディアは何処からともなく一本の黒い石作りの穂先の槍をテーブルの上に出す。

 それは、イオリが作った黒曜石の槍であった。


「この貧相な槍がど…う……!?」


「うふふ、気づいたようですね」


 ホッポは驚愕し、我が目を疑う。

 黒曜石の槍にはプラス修正が二十五もあった。 修正値とは道具などに基本の能力に加え、魔力を付加する事で威力や効果を高めた数値である。 ちなみにプラス修正二十五は、下級のドラゴンの鱗すら余裕で貫通する威力である。


 通常、使用者本人の熟練度が上がると、その系統の武具や道具の使い方が洗練され、使用者自身が劇的に効果を上げる技を覚えたりする。

 しかし、出来ている素材や製法によっては、道具は魔道具となり魔導の技を覚える場合がある。 ただ、覚える技の数は素材や込められている魔力の量によって比例する。


 そして、黒曜石の槍は、何らかの魔導の技を覚えていた。


 つまり、この黒曜石の槍はその二つの条件を満たしているのだ。

 

(これは興味深い。 そのイオリと言う者、わずか八歳でこれだけの物を作るとは……。 たしか、わしの孫のシャーランが世話をしとるとセレネディア様は言っておったな。 其処から探りを入れてみるか……)


 セレネディアに気づかれぬよう、ホッポは俯きニヤリと笑みを浮かべた。


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