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第五話 黒モヤさんの居候

「黒モヤさん!」


 イオリは全力で黒モヤの処に駆けて行き抱き付く。


『イオリ! 何故こんな危ない事を! 一歩間違えたら死んでいましたよ!!』


「仕方なかったんす! 師匠が『ゴブリンの長剣五本集めて来い! 取って来るまで帰ってくるな!!』なんて言われたもんだから仕方なく……。 そしたら、リザード・ドラゴンと出くわして逃げられなかったから戦ったんす!!」


『なんですって!? どうも嫌な予感がしたので来てみて正解でした……。 まさかあの男、まだ八歳のイオリにゴブリンと戦わせようだなんて流石の私も思っても見ませんでした……。 イオリ、先日は我慢しなさいと言いましたが前言撤回します! 直ぐにあの男から離します! でないとあなたの命が危ない!!』


「でも、師弟契約書が……。 それにおいら、行くとこ無いし……」


『それは、私が何とかします。 この森の奥に誰も近寄れない、私の隠れ家があります。 其処に案内しますから、暫く其処に隠れていなさい』


「いいんすか? 黒モヤさん?」


『いいんですよ……。 私の判断ミスからあなたを苦しめてしまったのですから。 さあ、私に捕まりなさい。 アレは回収しておきましょう』


 黒モヤはイオリの黒曜石の槍とリザード・ドラゴンを闇を生み出し、その中に仕舞った。

 イオリは言われた通り、黒モヤの体に捕まった。

 その時、イオリは懐かしい匂いに包まれ安心しきってしまい眠りに落ちた。


 次にイオリが目を覚ましたのは白い漆喰が塗られた寝室だった。

 その場に黒モヤが居ない事に不安を感じ、部屋から出ていこうとした。

 イオリが扉のノブに手を掛けようとしたその時、ノブがひとりでに回転し扉が開かれる。

 其処には銀髪に紅い瞳、浅黒い肌、長い耳の美しい女性が立っていた。


「お目覚になられましたか、イオリ様」


「あの……あなたは? 黒モヤさんは何処ですか?」


 女性は恭しくイオリに頭を下げて礼をする。


「わたくしは、セレ……黒モヤ様にお仕えするシャーランと申します。 今回、イオリ様の御世話兼教育係を任されました。 宜しくお願いしますイオリ様」


「あ、はい! 此方こそお願いします」


「では早速ですが、お食事の準備が出来ておりますがどうなさいますか?」


 食事という言葉でイオリのお腹はぐうぅ~と鳴り、空腹を訴える。


シャーランは微笑み。


「お食事ですね。 では此方に。 食堂に案内いたします」


 その広さに驚くイオリ。 イオリが案内された食堂は優に三十人は同時に食事が摂れる広さがあった。


「凄いっす……。 黒モヤさんて貴族か王族かなんかなんすか?」


「違います。 それらの者達よりも尊いお方です。 此方にお掛け下さい。 今、食事を運んで参ります」


 そう言ってシャーランは厨房の方に姿を消した。

 改めて食堂を見渡すイオリ。

 しかも壁には迫力ある大きな絵画が壁に掛けられており、圧倒されて萎縮してしまう。


「黒モヤさんて、一体何者なんすかねえ……」


 イオリは今まで気にしなかった黒モヤの素性に、今、初めて疑問を持った。

 と、其処へ、台車に食事を載せたシャーランが遣って来る。


「お待たせしましたイオリ様。 さあ、温かい内にお召し上がり下さい」


 用意された食事は焼きたての白いパンにクリームシチュウ、鳥の照り焼きだ。

 一般家庭でも食されるそれらは、イオリにとっては始めて見る食べ物であった。


「な、何すか、これ! 何かすんごい美味しそうな臭いがするっす! 食べてもいいんすか!」


 イオリの涎を垂らし目を血走らせ飢えた獣の様な迫力に氣圧されるシャーラン。

 

「え、ええどうぞ。 お代わりもありますから沢山食べて下さい」


 シャーランは苦笑いで答える。


「いただきます! あんぐ……いたっ! そういえば師匠に殴られて切れた口の中、まだ治って無かったす……」


「まあ、それは大変! 怪我の具合を見ますから口を開けて見せて下さい」


 イオリはシャーランの言われた通り口を開ける。


「これは酷い……。 食べ物が口の中で染みても可笑しくありません。 ちょっと待ってて下さい。 今治療します」


『ヒーリング』


 水属性の治癒の術でイオリの口の中の傷は瞬く間に塞がり治る。


「……痛くなくなったっす。 ありがとう! シャアーランさん!」


「どういたしまして。 それより早くお食べ下さい。 せっかくのお料理が冷めてしまいます」


「はいっす!」


 その後、イオリは食事を五人前平らげた。

 食事の後、イオリは体を洗う為、浴場に連れて来られた。


「此処はなんすか?」


「此処は浴場です。 イオリ様は相当汚れておいでですから先ずはお体を綺麗に洗います」


「お、おいら、そんなに汚れてるっすか!?」


「はい、それはもう……」


「そういえばおいら、沐浴したのって三ヶ月前だったような……。 その時以来、服も洗ってないっすね!」


「……イオリ様、すぐに服をお脱ぎ下さい! 直ぐに湯浴みして体の垢を全て洗い流します!!」


「へっ! どっ、どうしたんすかシャーランさん急に! うわっ! ちょ、ちょっと! いきなりなにすんすかーーー!!」


 シャーランは有無を言わさずイオリの服を脱がし、すっ裸にして浴場に叩き込む。

 そして垢擦りと石鹸でイオリの体中をまんべんなく擦って垢を落としていく。

 髪は丁寧に洗髪料を髪や頭皮に染み込ませ洗う。

 イオリの髪の毛にはシャーランの予想通り、シラミが大量に湧いていた。

 

「シャ、シャーランさん……。 体中がヒリヒリして痛いっす……」


「我慢して下さい。 男の子は我慢の子です」


「シャーランさん、頭がす-すーして冷えるっす」


「それは髪と頭皮が綺麗になった証拠です」


 取り付く島もなかった。


 イオリは新しい清潔な服に着替えさせられ此処で目が覚めた部屋に案内された。


「今日はもう遅いのでお休み下さい」


「はいっす。 あの……黒モヤさんは今、何してるっすか?」


「黒モヤ様はただ今、イオリ様に付いての保護権利をイオリ様の師匠からぶん取る為に動いています。 二、三日中には片が付きすのでどうか安心してお待ち下さい」


「黒モヤさんには迷惑掛けるっす……」


 肩を落とし、項垂れるイオリ。

 今まで世話になった黒モヤにこれ以上、自分の事で迷惑を掛けるのが心苦しくて仕方が無い。


「大丈夫ですよ。 我が主はそうは思っておりませんから。 それよりもイオリ様が元気であられる方があの方も喜ばれます」


「そうっすか?」


「そうです。 さあ、もう床に就いて下さいませ」


「わかったす」


 イオリはそう言うと安心してベッドに潜り込んだ。


「お休みなさいませイオリ様。 良い夢を……」


 シャーランは部屋の明かりを消して静かに扉を閉めた。


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