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第三話 日常

「馬鹿野郎! 帰ってくるのが遅えんだよ!!」


「ぐぼっ!?」


 帰ってきたイオリは酒に酔って不機嫌なゴドルボに思い切り顔の横っ面を殴られる。

 仮にもゴドルボはドワーフ。

 妖精族の中でもその怪力は一二を争う。

 そんな相手に殴られて八歳の子供が平気なわけがない。


 だがゴドルボは、そんな事は気にする事もなく。


「おい! 早く晩飯作れや! この、のろま!!」


 と、晩飯を催促する。

 文句一つ言う事もなく、口から血を流しながらイオリはふらつく足取りで台所で夕食の調理に取り掛かる。

 ゴドルボはイオリが狩ってきたジャイアント・ビーの尻尾が入ったズタ袋の中を確認する。


(しっかしコイツ、旨い事ジャイアント・ビーを狩ってくるな。 そろそろゴブリンでも狩らせてみるか)


 ゴブリンはポピュラーな魔物で世界中で確認される魔物である。

 そして、とても弱い。

 その為、初心冒険者の練習台とも言われている。

 だが、八歳の子供が一人で倒せる程、ゴブリンは弱くは無い。


 ゴドルボはイオリの生み出す核石がもたらす富に既に常識などの感覚が麻痺していた。

 なので、イオリの能力とゴブリンの強さを冷静に分析、判断する能力もなくなってきていたのだ。


「おう! 晩飯が出来たらお前は寝ろ! 罰として今日の晩飯は抜きだ!!」 


「……へいっす」


 イオリは夕食を作り終えると直ぐに自分の部屋代わりの納屋に戻った。

 納屋に戻ったイオリは隠してある非常食の干し肉やドライフルーツをもそもそと食べる。


「いてっ! 口の中、思いっ切り切ったから染みるっす……」


 しかし、空腹には勝てず、イオリは何とかドライフルーツを一つ食べきった。

 空腹が少し紛れたイオリはそのまま目を閉じ眠りに付いた。


 翌朝、空腹と前日にゴドルボに殴られた傷が痛み少し早い時間に目を覚ます。

 服を着替えたら昨日ゴドルボが食べた跡の食器を片付け、日課の朝食作りを始めるイオリ。

 朝食の匂いに釣られてゴドルボが起きてくる。

 朝食を作り終え、神への祈りを済まし朝食を摂っている最中の事。


「今日は酒と食料を買って来い。 それが終わったらお前に武器と防具を作ってやる」


「ホントっすか!?」


 思わず大声を出して口の中の食べカスを飛ばして驚き叫ぶイオリ。 

 今までイオリがどんなに頼んでも武具や防具を作ってくれなかったゴドルボが自分から言い出したのであるからイオリでなくとも驚くであろう。


「喰いカスをを飛ばすんじゃねえ! 汚えだろうが!!」


 ゴドルボはイオリの座っている椅子を思い切り蹴飛ばす。

 椅子ごと勢い良く後ろに倒れ、床に頭を打ち付ける。


「あだっ! いってぇ~!」

 

「とっと飯食って片付けたら早く買いもん行って来い!」


「はいっす!」


 イオリは言う通り口の中の傷の痛みも忘れて朝食を口一杯に頬張り、食器を片付けて買い物に出かける。


 イオリはゴドルボにから買い物に必要なお金を渡され、台車を引いて店に向かう。

 向かう店はベルン村では唯一の雑貨屋『トールキン』である。

 日用品の他に農作物、酒や煙草などの嗜好品も一手に扱っている。


 店に到着、台車を店の前に置いてトールキンの扉を潜るイオリ。


「いらっしゃ……なあんだ、ゴドルボん処のガキか……。 挨拶して損した。 で、なんかようか?」


 恰幅のいい、年齢は四十前後、頭の天辺の髪が薄くなった店の主人がカウンターに腰掛けて応対する。


「あのー、いつもの下さい」


「へいよ、いつものねえ」


 この雑貨屋の店主、他所者のゴドルボとイオリを嫌っていた。

 ゴドルボは性格の悪さから。 イオリに至っては孤児だからという理由で。


 だからこの店主、密かに傷んで売り物にならない物や規格外の物など商品を混ぜてあるのだ。

 酒は安物中の安物。 それで料金は割増。

 ボッタクリもいい処だ。


 しかし、イオリは世間を知らないまだ子供。 自分が騙されている事にも気が付かないのは無理もない。


「おらよ。 いつものやつだ。 金額はいつもの値段だ」


「はいっす」


「毎度あり。 へへへ!」


(ちょろいもんだぜ! 儲けた、儲けた!)


 真相をを知らず、荷物を台車に積み込み帰宅の途に就く。

 途中、子共達に遭遇。 だが、村の子供達はイオリに関わる事無くすれ違う。

 子供達は親からイオリと関わるなと言い含められているのだ。


 それは、イオリが孤児だからだけでなく、口汚い乱暴者で性格が悪いゴドルボと関わり合いになりたくないからだ。

 その為、イオリはこの村ではいわゆる『ぼっち』というやつだった。


 帰宅したイオリは荷物を台所に運んで、ゴドルボの居る工房に向かう。

 

「ただいま帰ったす」


「おう、ちょうどいい処に来た! これを付けてみろ!」


「これは……」


「お前の装備だ!」


「えええぇーーー!?」


 イオリは思わず絶叫した。


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