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第十七話 ケサラパサラの街

――月の湖の浮遊城 クレセント・ティア――


 セレネディアはイオリがゴブリンの巣で手に入れた自分宛ての刻印珠紋の手紙を巨人族の里長マテス経由で受け取り、それを読んでいた。

 差出人は鍛冶の神ヴェデル。 刻印珠紋の手紙には太古の砦での日々の出来事をが色々と書き(つづ)られていた。

 だが、この手紙で一番重要な内容は『セレネディア、愛している。 女神ファリスとの戦いが終わったら結婚しよう』と言う、要はセレネディアに宛てたプロポーズの文章であった。


 セレネディアは読み終えると刻印珠紋の手紙を両手で握りしめ、そっと胸に()き抱く。


「ホントに駄目な人ねぇ……。 こういう大事な事は相手に直接会って言葉で伝えるものですよ……」


 微苦笑しながらセレネディアは今は亡きヴェデルの為に涙を流した。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




――ケサラパサラの街――


 イオリとシャーランはケサラパサラの街に来ていた。

 今日はイオリの誕生日である(イオリをセレネディアが拾った日を誕生日と定めた)。


 その祝いを兼ねて今日はケサラパサラの街に買い出しに来たのである。

 イオリも九歳になり、服が少し縮んできたので服を勝ったり、足りなくなった日用品を買い足したりしている。


 ちなみに荷物は巨人族謹製のバックに入れている。 このバック、容量に制限が無く、バックの口のサイズのものなら生き物以外何でも入る。

 これも、イオリがゴブリンから取り戻した鍛冶の神ヴェデルが記した奥義書の技術が使われていた。


「あっ! そう言えばこの街にレムネリアの家があったんす! シャーランさん、魔道具専門のお店って何処にあるか知ってるっすか?」


「それならば大通りにある専門店が通りに何件かあったはずです」


 二人は大通りにある魔道具専門店に数軒立ち寄り、店の人にレムネリアの事を聞いてみた。


「ああ、レムネリアちゃんね! あの娘は機工魔道具(マシン・クラフト)を主に扱う店『ヴェデル』のお孫さんだよ」


 ()しくも店の名前は鍛冶の神ヴェデルと同じ名前であった。

 イオリ達は魔道具専門店の店朱から聞いた店の場所に行ってみる。

 其処はこ ぢんまり とした三階建ての建物で、店の入り口には槌と懐中時計が描かれた看板が掛けられていた一階部分が店舗になっていた。


 二人は店の扉を空けて潜った。 すると扉に取り付けられたベルが鳴り響いて店の者に来客を知らせる。

 ベルの音を聞いて店主らしき白髪のエルフの老人が店の奥から出て来た。


「いらっしゃい。 何かご入り用かい?」


 店の店主らしき丸眼鏡を掛けた老人がシャーランに要件を尋ねる。


「いえ、私達は客ではなく……」


「レムネリアに会いに来たっす!」 

 

 シャーランの否定の言葉にイオリが元気良く言葉を(つな)げる。


「レムネリアに? アンタ達は一体……」


 階段を勢い良く駆け下りる音共に見知った顔が店の奥から出てくる。


「イオリちゃん!」


 白金(プラチナ)短髪(ショート・ヘア)(アメジスト)の瞳、白い肌の美しい少女、レムネリアだ。 レムネリアは勢いそのままにイオリに抱きつく。


「元気にしてたっすか?」


「はい! イオリちゃんは?」


「おいらはいつも元気っす! ……処でそのちゃん付けはなして?」


 聞きなれない敬称にレムネリアに質問するイオリ。


「だってイオリちゃん、私より二歳年下ですよね? だからイオリちゃんです」


「決定事項なんすね……」


 イオリは思い切り肩を落とした.。 この敬称を甘んじて受けるしか無いからだ。 

 やはりイオリも男の子。 綺麗な女の子には勝てなかった。


「イオリと言うと……ひょっとしてレムをゴブリン共から助けてくれた子かい?」


 レムネリアから毎日の様に聞かされたこの地域では珍しい男の子の名前をシュルツは思い出した。


「そうなんですお祖父様.! 私の傷の手当をしてくれたんです!」


 レムネリアは興奮しながら祖父に話す。


「そうかい! そうかい! ウチのレムが世話になったねぇ。 助けてくれてありがとうイオリ君。 私はレムの祖父でこの店の主『シュルツ』だ。 よろしく」


 イオリに対し深々と頭を下げるシュルツ。


「イオリでいいっす! シュルツさん。 んで、こっちがゴブリン・キングを倒した……」


「お前さんはもしかしてホッポの処のシャーランかい?」


 シュルツは丸眼鏡を掛け直してシャーランの顔をよく見る。


「ご無沙汰してますシュルツさん」


 シャーランはシュルツにお辞儀する。


「お知り合いっすか?」


「はい。 シュルツさんは私の御祖父様の旧友なんです。 でも、まさかレムネリアさんがシュルツさんのお孫さんとは知りませんでした」


「シャーランが奉公に出た後で生まれた娘だからねぇ。 知らなくて当然だよ。 でも、どうやらシャーランにも世話になったみたいだねぇ。 ありがとう、シャーラン」


 シャーランにも深々と頭を下げるシュルツ。 もう少し遅ければレムネリアはゴブリン・キングに辱められていたのでシュルツは心から感謝していた。


「いいえ、偶然そうなっただけです。 気にしないで下さい」


「大した事は出来んが家に上がって行ってくれ。 御茶くらいだそう」


 シュルツはイオリとシャーランを店の奥、生活スペースである居間に案内する。


「それなら私がお出しします!」


 レムネリはそう言うと店の奥の台所に引っ込んだ。


「久しぶりにあの娘の元気な姿を見たわい。 余程君に会えたのが嬉しかったんだろう。 あの娘の両親は領都『トリスヴァン』で騎士をしておってのう。 滅多に会えんし、同じ年頃の子もこの辺にはおらんから寂しいんじゃよ。 君さえ良ければ時々でいいからあの娘――レムの相手をしてやってくれんか?」


「いいっすよ! 時間が空いたら遊びに来るっす!」


 イオリはシュルツの頼みを快諾した。


 その後、イオリとシャーラン、レムとシュルツはお互い取り留めのない会話を楽しんだ。

 楽しい時間は早く過ぎるもの。 イオリとシャーラン、二人がお暇しなければならない時間がやって来た。


「今日はレムに会えてよかったす! また、遊びに来るっす!」


「本当ですか!? 嬉しいです! そうだ! イオリちゃんの上着洗ってあるの! 今、持って来ますね!」


 レムネリアはイオリに助けられた際に羽織らせてもらった上着を返す。


「いつでも遊びに来て下さい! 待ってますから!」


 そして、イオリ達はケサラパサラの街を後にした。


 後日談。


 イオリがケサラパサラの街に来ると聞いてホッポが孫娘のシャーランに冒険者ギルド支部にイオリを連れて来てくれと頼んでいたが、頼まれていたシャーランはその事をすっかり忘れてクレセント・ティアに帰ってしまった。


 後日、その事を責められたシャーランはホッポとギルド支部で盛大な大喧嘩をして建物が半壊、その出来事は代々のケサラパサラの街の冒険者ギルド支部長に語り継がれていった。

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