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第十三話 ゴブリン・クエスト 後編

 今日はかなり長めです。

 イオリが洞窟の外に出た途端、怒号やぶつかり合う金属音、火の手があちらこちらの木から燃え上がる。

 その燃え盛る炎に照らされて、ゴブリン達と人、妖精族、獣人族が入り乱れて刃を交えていた。


(一体、何事っすか!?)


 兎に角、状況を把握する為にも喧騒の中から一旦離れるイオリ。

 洞窟の反対側から五百m位離れた場所で集まっている二十人程の大人達を目にする。

 それぞれが統一されていない装備を身に付けている処を見ると冒険者の(たぐい)か何かだと予想がつくのだが、生憎イオリにはそういった知識が不足していたのでこの集団が何者であるかはわからなかった。


 其処でイオリはこの集団に近づき、何か情報を得られないか聞き耳を立てて探る事にした。


「あいつら! 俺達の指示を無視して勝手に動きやがって……」


「ああ――まず、ゴブリンに攫われた子供達が何処に居るか斥候で捜索、確認してからゴブリンの動きが鈍る早朝に仕掛ける算段だったはずなのに……」


「これだから冒険者になりたてのヒヨッコ共を連れて来たくなかったんだ! 感情に流されて簡単に暴走しちまうからな!」


「とは言え、始めちまったものはどうしようもない! 直ぐに応援に行くぞ! でないとあいつらヘタしたら全滅だ!」


「三班に分かれて一番から順に行ってくれ! キングが出てきたら全員で集中して攻撃するぞ! でないと被害がでかくなる!」


「了解~! これが終わったらヒヨコちゃん達全員お説教&お仕置き決定な!」


「生きてたらだけどな」


 話しを盗み聞きして、やっとイオリにも彼らが冒険者であると理解できた。


(どうやらこの人達、冒険者のようっすねぇ。 でも、なんで……普段は人の立ち入らない場所なのに。 そういえばさっき、ゴブリンに子供が連れ去られたとか何とか言ってたっす。 もしかして、それが原因でこの騒ぎに?)


 イオリは探索の無属性珠紋術を行使した。


探索(サーチ)冒険者』


 冒険者の人数はゴブリンの半数、約四十人。

 これが全員一人前以上の実力の持ち主なら十分制圧できるだろうが、先程不穏な言葉を聞いて不安になっているイオリ。


(此処に居るのが全員ベテラン冒険者の人達なら、後の半数が半人前の初心冒険者って事じゃないっすか!? そんなんで夜中にゴブリンと遣り合って大丈夫な訳がないっす!!)


探索(サーチ)ゴブリン』


 イオリは念の為、もう一度ゴブリンの数を確認する。

 ゴブリンの数はイオリが洞窟に進入する前より増えて百二十を軽く超えていた。


(て、駄目じゃん! 冒険者の数が少なすぎて圧倒的に不利っすよ!!)


 今度は周辺に自分以外の子供が居ないか珠紋術で探索してみた。

 すると洞窟の中に十八人の子供の反応が出た。


(うわっ! 洞窟の中に連れ込まれてる! 出てくる時に入れ違いになったみたいっすねぇ……全然気付かなかったす)


 イオリは迷った。 もし仮に自分が攫わわれた子供達を助けに行ったとして逆に失敗したら冒険者達は余計に不利に立たされるだろう。

 かと言って初心冒険者の暴走を指をくわえて見ているままでは中にいる子供達が危険に晒される。

 イオリには関係ないのでいっそこのままこの事態を放置して帰宅するというのも手だ。


 自分には関係ない。 そう思い、イオリは帰宅しょうとクレセント・ティアに向けて足を一歩踏み出した。


(……)


 だが、イオリの心の中ではそれでも未だ迷いや葛藤が続いていた。

 このまま帰れば普段通りの日常が遣ってくる。 子供達を助けようとすれば確実に帰宅時間を超えてしまう。 どちらが大事なのか子供のイオリでもわかり切った答えだ。


(……だー! 囚われた子達が冒険者の人達に無事保護されるまで見届けるっす! んでもって駄目そうならおいらが打って出るっす!!)


 イオリは振り向いて洞窟へ引き返した。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 洞窟の中に引き返したイオリは子供の反応があった場所に急行し、其処で目にしたのはいつものお仕着せ姿で長剣と短剣を二刀流で構えるシャーランとゴブリン・キングが子供達を背にシャーランと対峙している光景であった。


 (シャ、シャーランさん!?)

 

 しかも、ゴブリン・キングはエルフと見られる少女を服の切れ端が体に纏わりついているが殆ど全裸の状態で盾にしていた。

 エルフの少女の年頃はイオリよりも少し年上と言った処か。 エルフの少女の股間からは太腿を伝い足にかけて黄色い液体が流れ出ている。

 エルフの少女は恐怖の余り失禁してしまったのだ。


「くっ! 種付けされる前に駆けつける事は出来ましたが、これでは身動きできません!」


 よく見るとゴブリン・キングの背にいる子供達は全員女の子だ。


(これってシャーランさんの言ってた生殖活動て奴っすか? 他種族の女性を(さら)って種族を増やすっていう……)


 其処で先程、冒険者達の襲撃前に洞窟内に侵入して目撃した、ゴブリン達が絡み合って奇声を発し興奮していた光景を思い出す。

 イオリの心の中になんとも言えない嫌悪感が生まれた。


(あんな事、ゴブリン達に寄って(たか)ってされたらこの娘達、死んじゃうっすよ!!)


 そう思った途端、イオリは目の前のゴブリン・キングに対して怒りと殺意が心の中を埋め尽くす。


「なに! この殺気は一体何処から!!」


 部屋の中に今までなかった殺気が充満し、動揺するシャーラン。

 しかし、シャーラン以上に動揺したのはゴブリン・キングだった。

 ゴブリン・キングはこの殺気が自分に向けられているのを本能で察した。

 このまま、この部屋に居ては不味い。 そう感じたゴブリン・キングは盾にしていたエルフの少女をシャーランに向かって投げ飛ばし、部屋から脱出した。


 シャーランは投げ飛ばされたエルフの少女を難なく受け止めるとその娘を地面に下ろしてゴブリン・キングの後を追おうとした。

 アレが外に出ては初心冒険者は一溜まりもなく殺られる。 攫われたこの娘達をこの部屋に結界を張って、一旦この部屋で保護して後で回収するつもりだった。

 しかし、何処からとも無く。


「追う必要はないっすよ」


 と、シャーランがゾクリと寒気を感じる制止の声が聞こえて動きを止めた。


 同時に洞窟内を走っていたゴブリン・キングがドサリと倒れ、その生命の灯火は消え去り絶命した。 ゴブリン・キングの背にはイオリの黒曜石の槍が深々と刺さっていた。


 この限られた空間の洞窟内で、しかも子供であるイオリがゴブリン・キングを一撃で仕留める事が出来たのは、リザード・ドラゴンを倒した時に黒曜石の槍が覚えた技のお陰だ。 槍が覚えた技の内容はどんなに離れた敵でも必ず命中して深手を追わせるというものだった。


 イオリが刻印珠紋『グラス・カーテン』を解除してシャーランの前に姿を現す。

 すると、シャーランは一瞬、目を丸くして驚く。


「イ、イオリ様! どうしてこんな処に!!」


「えっと……散歩?」


「冒険者とゴブリンがぶつかり合っている戦場のまっただ中で散歩ですか? 随分、余裕なんですね? では、今度から武術訓練を今の倍にします」


「シャーランさん! それだけは堪忍を!!」


 慌てふためくイオリ。 ただでさえ、訓練内容がキツくなってきているというのにこれ以上増やされては(たま)らない。


「では、素直に白状しますか?」


 最早、誤魔化しが通用しないと観念したイオリは素直に事情を話した。


「……私、言いましたよね? 私を倒さない限りそんな危険な事はさせませんと。 今度から訓練を三倍にします」


 蟀谷に青筋立てたシャーランはイオリにきっぱり言い放つ。


「ひょえぇぇぇ~~~!? それは勘弁っす! 許して欲しいっす! シャーランさん!!」


 頭を地面に擦りつけて土下座するイオリ。


 溜め息を一つ盛大に吐いてイオリに提案を持ちかける。


「では、その娘達をお願いします。 守ってあげて下さい。 今のイオリ様なら腰の短剣でゴブリンの十匹や二十匹軽いものでしょう? そしたらお説教だけで許して差し上げます」


「結局、怒られるのは変わらないんすね……」


 ボツりと愚痴を(こぼ)すイオリ。


「なにか言いましたか?」


 片眉を釣り上げ、笑顔で威嚇(いかく)するシャーラン。


「何でもありません! 全力で守らせて頂きます!!」


 シャーランに対して(うやうや)しく敬礼するイオリ。


「では、行ってまいります、イオリ様。 あっ! それとあの槍、借りていきますね」


「もう、お好きにして下さいっす……」


 イオリの了承の下、黒曜石の槍をゴブリン・キングの死骸から引き抜いて洞窟の外に出て行ったシャーラン。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 ぽつんと取り残されたイオリと十八人の女の子達。

 正直、イオリは今まで女の子と接する機会が無かったのでどう対応していいのかわからなかった。

 ゴブリンの所為で怖い思いをして怯えている女の子には尚更である。

 が、取り敢えず目の前の裸のエルフの少女に自分の着ていた上着を脱いで羽織らせた。


「う、ううん……こ…こは? 私……?」


「無理して起きる事ないっすよ。 君を襲ったゴブリンならおいらがやっつけたっす」


「ゴブ…リ……ン!? イヤッ! 怖い、怖いよう! 誰か助けて!!」


 エルフの少女は先程の事を思い出し恐慌状態に陥った。

 イオリは暴れるエルフの少女にそっと優しく抱き寄せて、精神を安定させる闇属性の珠紋術『アトラクティック』を唱えて心を落ち着かせる。


「あ……」


 次第にエルフの少女は落ち着きを取り戻し、大人しくなる。


「もう大丈夫っす。 悪いゴブリンはもう居ないっすよ」


「あ、ありが…と……う……。 イタッ……!」


 落ち着きを取り戻したエルフの少女は体の傷で気がついて自分の惨状を見て顔を真赤に染める。


「怪我してるようっすね……。 ちょっと待つっす。 今、傷薬を出すっす」


 イオリはナップサックから傷薬を取り出すとエルフの少女の傷口に薬を塗っていく。


「おいら、イオリって言うっす! 君の名前は何て言うんすか?」


「私…は……レムネリア……」


「へー。 レムネリアって言うっすか? いい名前っすね!」


 エルフの少女――レムネリアは自らの名前を褒められ、再び顔を真赤にして俯く。


「君達は大丈夫っすか? 何処か怪我してたりするっすか?」


 部屋の方隅で震えている残りの女の子達に(たず)ねて見たが全員頭を左右に振って否定した。


「あの……薬と…服ありがとう」


「ん? 別に気にしなくていいっすよ! 困った時はお互い様っす!」


 などと言いつつガッツポーズをしてニカッと歯を出して笑うイオリ。

 そして、レムネリアはポツポツとゴブリンに襲われた時の事を話す。


 彼女はケサラパサラの街に住んでいてお祖父さんが営む魔導具専門店に住んでいて領主が住んでいて直接治めている街、領都にいる両親にあった帰り、ゴブリン達の襲撃にあった。

 しかもこのゴブリンの住処に連れて来られて直ぐ、あの大きいゴブリン、ゴブリン・キングに服を引き裂かれ裸に()かれてあわや襲われる寸前、シャーランとイオリが割って入って助けられた、と言う訳だった。


「……ホントに危機一髪だったんすね! あっぶねー!!」


「だから……ありがとう」


 レムネリアはイオリに感謝の印に額にキスをした。


「へっ!?」


 一瞬、何が起こったかわからなかったイオリ。

 しばらく放心状態だったが、やがて状況が飲み込めて顔を真っ赤に染めて動揺しまくる。


「良いご身分ですね? イオリ様」


 と、其処へシャーランが戻って来た。

 お仕着せや体は処々(すす)けて汚れているだけで、かすり傷一つ負ってはいなかった。


「シャ、シャーランさん!? ゴブリン達は!!」


「全部始末しました。 全て終わりましたよ」


 長かった夜は明け、これで(ようや)く一つの問題が解決した。


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