表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

第十二話 ゴブリン・クエスト 中編

 ゴブリン・クエストは次で終わります。

――月の湖の浮遊城 クレセント・ティア――



 イオリは帰ってくるなり自分の部屋に閉じ籠り、光属性のある珠紋術を調べていた。

 その珠紋術とは隠形系の『グラス・カーテン』である。

 体に当たる光を屈折させて相手から姿を見えなくさせる光属性初歩の珠紋術。

 ただし、初歩の術だけあって、体を触られると簡単に解けてしまう最大の欠点がある。

 イオリはこの術を光属性の珠紋を作り、その珠紋から更に刻印珠紋を制作する。


 グラス・カーテンの刻印珠紋、無、闇の属性の珠紋、黒曜石の槍、イオリ手製の短剣を身に付け、前々から準備していた地図、方位磁石、アンカー付きロープ、薬品類、予備の袋などの道具類をナップサックに詰め込む。


「よし! これで準備は完了っす! 後はゴブリンの住処を見つけるだけっす!!」


 イオリはその日の夜、行動を開始した。


 城から抜け出し、戻ってくるまでの時間を(はか)る。

 この世界の時間は地球と同じ、一日を二十四で区切っている。


 シャーランが就寝して起床するまでは午後八時~午前三時。

 抜けだして戻ってくるまでは午後九時~午前二時の約五時間。


 この時間の間に戻ってこなければシャーランにバレて恐ろしい折檻が待っている。

 それだけは避けたいイオリであった。


 まずは闇属性の珠紋術『闇夜の目(ダーク・アイ)』を唱えて夜目が効くようにする。

 次にゴブリンの居所を知る為、無属性の珠紋術『探索』を使い種族をゴブリンに限定して補足、多く集まっている場所を探す。

 限定探索は少なくとも探しているもののイメージを出来るだけの知識がなければ術に組み込む事が出来ない。

 幸い、武術訓練の時に何度か実物を目撃していたので苦もなく珠紋術に組み込めた。


 月の湖から時間にして約四十分の距離にある場所に目的のゴブリンの住処らしき場所を見つけた。


 其処は洞窟になっていて、体長一m前後、黄緑色の肌に頭に角が一本ないし二本生えた醜い顔のゴブリンが大勢彷徨いていた。

 洞窟の内外にいるゴブリンは合わせて約八十匹の大所帯。

 その内、洞窟内に居るゴブリンは三十匹。


「凄い賑わってるっすねえ。 でも、これだけ大規模なら鍛冶師の一人くらい居るはずっす」

 

 装備もかなり良質の物の上、魔導の装備を身につけているゴブリンもチラホラ混じって見かける。

 それらのゴブリンは多分、下位のゴブリン達を従える将クラスだ。

 将クラスを従える王クラスだともっと性能が高く、独創的な装備を身につけている者が多い、とシャーランから聞いていた。


 イオリは薬品の中から自身の匂いを消す薬を体に振り掛けた。

 こうする事で鼻が利くゴブリンの嗅覚を誤魔化すのだ。

 最後に刻印珠紋『グラス・カーテン』を使い姿を消した。

 

(さてと、潜入開始っす! これで上手くゴブリンの技術の秘密がわかればいいっすけど……)


 イオリは気配を消してゴブリン達が体に触れないよう注意しながらすれ違う。


(フーム、洞窟の中は結構入り組んでいるすっねえ。 鍛冶工房は一体何処っすかねぇ~?)


 洞窟の中ですえた臭いが漂ってくる場所がある。


(うっぷ! 此処は食料庫のようすっねえ! 臭くてこれ以上は近寄れないっす!!)


  他にも二回り大きなゴブリン、ゴブリン達を統べるゴブリン・キングの部屋やゴブリンの幼生体の部屋、中にはゴブリン達が絡まり抱き合って奇声を発しているおぞましい光景が展開されていて子供のイオリにはまだ理解出来ない繁殖部屋もあったが、イオリの目的の場所は中々見つからない。


(だー! 一体何処に鍛冶工房があるっすか! 気色悪いもんばっかりしかないっす! これ以上は限界っす!!)


 精神的に限界に達しようとしていた処で武器や防具、道具や薬品類をまとめてある部屋を偶然発見するイオリ。


(!? 此処はどうやら保管倉庫のようっすねぇ……なら近くに工房があるかも!)


 イオリはこの部屋は中心に辺りを調べる。

 果たしてイオリの予想通り、近くに作業場のような部屋を発見する。

 其処では六匹のゴブリン達が武具や防具の製作や何やら怪しげな薬品類を調合していた。


(あった! 此処のようっすね……でも、あんまり製作に使う道具らしい道具が無いみたいっすけど……)


 ゴブリン達は地べたの上に直接座り込んで作業をしていた。

 その内、薬品を調合していたゴブリンが防具を製作しているゴブリンに近づき何やら話し掛ける。

 すると、話し掛けられた方のゴブリンが地面に手を置くと土が盛り上がり、土器製の容器が出来上がった。


(なっ!?)


 それを話し掛けてきたゴブリンに手渡すとお互い自分の作業に戻る。


(い、今のは一体何だったんすか!? まるで直に土を操って入れ物を作った様に見えたっす!!)


 先程の防具を製作しているゴブリンの作業をよく見てみると、革鎧を作っているようだがその作り方が異常だった。

 継ぎ目を裁縫で縫い付けるのではなく直接切れ端同士を当てて融合させて癒着させているのだ。


 武器を作っているゴブリンも土壁に手を置くと砂鉄がサラサラと流れ落ち、それを近くに置いてあった木炭を砕いて粉にすると、それを粘土の様にコネ合わせて木で出来た長剣の型枠に押し付けて成形すると見事な長剣が完成した。 しかも、修正値プラス三が付いた魔導の武器である。


(うっ、嘘ん!? どうなってんすか!? 信じれれないっす!!)


 今度は薬を調合しているゴブリンの作業を覗き見る。


 葉っぱに()せた薬草を調合する順番に分けてあるようだった。


 まず、小さい木の実を載せた葉っぱを掴みじっと木の実を睨みつけるゴブリン。

 暫くすると小さい木の実は細かく砕けて粉末になる。


 それを深皿に載せて、次に青々と色づく薬草を皿の上で握る。

 すると透明な液体が薬草から垂れて皿に滴り落ち、それに比例して薬草は薄黄色になって枯れていく。


 最後に紅い花の花弁を全て千切ると、掌に載せて先程と同じようにその花弁をジッと見詰める。 

 今度は花弁の水分が徐々に抜けていきカラカラに乾燥して完全に水分が抜けた状態となる。

 その枯れた花弁を両掌で丹念に擦り合わせて粉末状にし、それを深皿に投入して木の棒で混ぜ合わせる。


 まんべんなくかき混ぜている内にポン、と輪っか状の煙が立ち上ると深皿の液体を土器の容器に流し込み蓋をする。


 どうやらこれで薬の調合は完了したらしい。


(一体どうやって製作や薬の調合してるっすか!? ますますわからなくなってきたっす!!)


 わけがわからず頭が混乱するイオリ。

 其処でシャーランから教えられた言葉を思い出す。


『どんな時でも慌てず騒がず落ち着いて周りをよく見るのです。 見落としていたものを見つけ出す事が出来るはずです』


(そうっす! まずは落ち着いて周りをよく見るっす!!)


 イオリは深呼吸して落ち着きを取り戻し、この工房部屋をよく調べてみる。

 すると奥の方に何やら棚の様な物があり、其処には核石や珠紋、刻印珠紋が大量に置かれていた。


(これは……ひょっとして、ゴブリン達が物作りで使っている? とすると、ゴブリン達は珠紋や刻印珠紋を使って道具類の製作をしているって事っすか!?)


 それなら先程の異常な製作方法も()に落ちる。

 だとしたら、これらはイオリにに取って――職人に取って宝の山なのではないか?

 

 イオリはもう一度、ゴブリン達の作業を観察する。

 あった! よく見るとゴブリン達の足元や手には珠紋らしき物がハッキリと見て取れる。


(この核石とか珠紋や刻印珠紋を持って帰りたい――いや、何としてでも持って帰るっす!)


 イオリは背負っているナップサックの中から予備の袋を出す。

 核石、珠紋、刻印珠紋を部屋に居るゴブリン達に気取(けど)られぬよう慎重に予備の袋の中に入れていく。


 棚に置いてある全ての核石、珠紋、刻印珠紋入れ終わった直後、部屋に居るゴブリン達が騒ぎ出す。


(しまった!? 気づかれたっすか!!)


 だが、ゴブリン達はイオリが居る棚の方ではなく入り口の方を向いて叫んでいた。

 部屋の入口から別の個体のゴブリンが顔を出して部屋の中にいるゴブリン達に何やらしきりに叫んでいる。

 それを聞いた部屋に居たゴブリン達は作業を中断、持っていた珠紋を地面に置いて全員部屋を出て行く。


(何があったかわからないっすけど――あいつらが置いてった珠紋も全てお持ち帰りっす!)


 ゴブリン達が戻ってくるまでに素早く珠紋を袋に回収、その袋をナップサックに詰め込んでイオリは部屋を後にした。


 次の更新は明日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ