第十一話 ゴブリン・クエスト 前編
文字数が多くなるので二つか三つに分割します。
――山岳地帯ギガントス 太古の砦跡 巨人族の里 里長の屋敷――
イオリは自分にあてがわれた部屋で荷物を整理していた。 汚れた服や下着をナップサックに詰め込んでいる。
明日は週に一度、月の湖の浮遊城クレセント・ティアに帰る日だ。
丁度、イオリが持ち帰る荷物の整理が終わった所で部屋の扉をノックをする音が響く。
「イオリ、いいかい? 頼まれてたもんを持ってきたよ」
扉を開けてイオリの師匠、クレオが中に入ってくる。
その手には初級の光属性の珠紋術について記された他種族が用いる本だ。
巨人の砦跡には巨人族以外の者が使用する武具や防具、道具や書物が沢山残されている。
この本もその内の一つだ。
「ほらよ」
そう言ってイオリに本を渡す。
「これで一体何するんだい?」
イオリはクレオに話すかどうか一瞬迷ったが素直に話す事にした。
「はあっ! ゴブリンの後を付けてゴブリンの住処に潜入して鍛冶技術を知りたいだって!?」
クレオはイオリの話に呆気に取られる。
まさか、自分達巨人族から高度な鍛冶の知識や技術を学んでいるのに低級の魔族、それもよりにもよってゴブリンの鍛冶技術を知りたいだなんてクレオは思っても見なかった。
その事に思わずイオリを叱りつけるつもりだったが、イオリの次の言葉にそれを思い留まった。
「そうっす! おいら、前々からゴブリン達がどうやって高度な鍛冶技能を覚えたか知りたかったんす!」
イオリの言う通り、低級の魔族であるゴブリン達は自分達巨人族に匹敵する鍛冶の技術で武具や防具、道具類を作る事が出来る。
その事に今初めてクレオも疑問を持った。
「……確かにそうだね。 イオリの言う通りだよ。 奴らゴブリンは時に俺達巨人族の物より優れた物を作る事がある。 その謎を解き明かせれば巨人族の技術が今より高まるかも……。 でも、それが光属性の珠紋術とどう関係があるんだい?」
イオリはそれについて今まだ話してなかった自分の能力、核石、珠紋、刻印珠紋の三つの製作スキルである。
それを聞いたクレオは目を見開いて驚愕した。
わずか八歳の幼児が珠紋と刻印珠紋の製作が出来るだけでも驚きなのに、核石まで作れるとは思っても見なかったのである。
「核石も作れるだって!? 本当かい!!」
「本当っすよ。 こんな風に……」
イオリは両掌を握り拳1つ分空けて魔力を集中する。
すると、その両掌の空いた空間に透明な結晶が生まれ、それが大きく成長する。
その出来上がった核石をクレオに渡す。
「……これは確かに核石だ。 まさか、鍛冶の神ヴェデルと同じスキルを持つ者が居るなんて思わなかったよ……」
「ええっ!? 鍛冶の神様も作れたんすか!?」
驚くイオリ。
「ああ、そうさ! 鍛冶の神ヴェデルは核石を作る力を持っていたんだ。 ……もしかして、アンタに珠紋や刻印珠紋の作り方を教えたのって、あのいつも来る黒い人かい?」
黒い人とはセレネディアの事である。
セレネディアは巨人族に自分の名をイオリに明かす事を禁じていた。
それはイオリが素直すぎて、うっかり自分の名前を他者に教えてしまう危険性があるからだ。
「そうっす! 黒モヤさんっす!」
「そうかい……。 それなら納得だねえ」
実はセレネディア、太陽と光の神ペルセオンと結婚する前は鍛冶の神ヴェデルの恋人であった。 その為、鍛冶の神ヴェデルから色々と教えてもらっている。 その中には珠紋や刻印珠紋の作り方も含まれていた。
鍛冶の神ヴェデルの亡き後、職人の保護や加護も担ってきたのはこの事が起因する。
「その目は止めてもやるつもりだね。 でも、無茶すんじゃ無いよ。 無理なようなら直ぐに逃げるんだよ! 命あっての物種だからね!!」
「はいっす!」
そして、翌日の朝。 休日のいつもの時間に黒モヤはイオリを迎えに来てクレセント・ティアに帰っていった。
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