第八話
あの小さな女の先輩との短い非日常な時間が嘘
ように時は流れた。
登校日も今日で終わり、夏休みはもう明日から始まる。
もっとも特Aクラスは修了式のあとにも授業が残っていた。一般クラスの耕助が少し羨ましい。
エアコンの効いた部屋の中で、物思いにふける。
犯罪者。
彼女は確かに僕にそう言った。
あの時、サラリとそう言われた、
動揺する暇なんてなかっただろう。
しかし、今になって思い出す度に心臓が跳ねる。
彼女の何もかも見透かしたような、そして何もかも見捨てたようなあの眼が脳裏をよぎり胸が締め付けられる。
彼女はあの男が罪人だから殺したのだろうか。
目的のない快楽殺人者には見えない。
しかし、殺害を達成して喜んでいたようにも見えなかった。
虫ケラを殺す程度、そう考えていそうな雰囲気そのものだった。
この学園に居る…筈の彼女とはあれから出くわさなかった。
向こうはこちらを調べると言ったが、ハッタリだったのだろうか?
一人なる時は注意を払って過ごしていたが、視線をかんじることもなかった。
杞憂に過ぎないか。
そうさ。手品でも見せられたんだ。
頭の中の彼女の言葉が駆け巡り、手付かずだったノートに黒板に書かれた要点だけ勢い良く写す。
写し終えるのに残り時間を費やしていたら終了を告げるチャイムが鳴った。
少し書き写しに手間取ったあと、荷物を纏めると最後に残ったのは僕だけだった。
皆、明日から休みだから帰るのも早い。
さあ、僕も帰るか。扉を開く。
瞬間、心臓が止まるかと思った。
"発砲少女の先輩" その人が目の前に突っ立っていた。