第六話
彼女の目の前まで来たところで、自転車を停める。
やはり小さい。目線は僕の方が上だ。
下の川を覗きこむ。何も浮かんでない。
さっきの男はどこに行った?走って帰ったとでもいうのか。
男のいた場所を見つめる。足元には火の点いたままのタバコが転がっている。
灰になってる部分も少ない
今の今までここに居たはずだ。
「さっきの銃声は君か?」
まっすぐ少女の目をじっと見つめ、単刀直入に聞いた。
「ええ、そうよ。」
何も悪びれる様子もなく向こうも即答する。
気のせいじゃなかったことと、銃声の犯人が目の前にいることを改めて認識する。
「じゃあ撃ったのはここに居た男の人なんだね?」
足元をチョイチョイと人差し指でさす。
「和田義雄33歳、同棲している女との間にできた子供を風呂に沈めて殺害。理由は子供がうるさかったから。なお、事故と断定されてお咎め無し。さっき私に銃で撃たれ死亡。」
スラスラとウチの女子生徒は商品名を読み上げるように、おそらく撃たれた男の経歴を述べる。
「ちょっと待って、君はそいつと知り合いか何かなのか?」
その落ち着きはなった態度と、用意していたかのような返事に頭が混乱する。
「いいえ。たった今知ったばかりよ。て言うか貴方も私と同じ銃を持っているし、知ってるでしょ?」
分からない。何を言ってるのかさっぱりわからない。
「言ってることがよくわからないけど、まずあの男はどこに消えたんだ?水音はしなかった筈だけど」
聞きたいことを聞くしかない。
「そうやって油断させる気?この銃で撃たれた人間は消滅するか、過去で死んだことになるかのどちらかしかないでしょ?」
何故か呆れた表情で銃を突きつけられる。
「僕は君の持つその銃を知らないし、持っていない。」
両手を上げて無抵抗の姿勢を見せる。万国共通のアピールだ。
「でも、貴方はこの銃が見えているし、音も聞こえている。」
彼女が握る黒い銃を見てみる。赤い何かのパターンがあつらえてあり、一般的な回転式の銃としか思えない。見たこともない型だが。
「何?この銃が僕にしか見えないとでも言うのかい?」
顎でソレを差す。
そう聞いた僕の横を、自転車で中年女性が不思議そうな顔で少女と僕をそれぞれ見比べ、通り過ぎていった。銃には目もやらずに
「どうやら…本当のようだけど、僕はそんな銃を持っていない。」
目に映る銃の何から何まで映る自分の目が信じられなくなる。
「いいわ。本当か嘘か、こちらもわからないけれど今日は見逃してあげる。それに貴方が本当に何も知らないなら嫌でもわかる時がすぐ来るわ」
やっと拳銃をおろしてもらえた。正直実態がわからものに命が取られるかもしれなかったので実感が湧かなかったが。
「あと、名前を教えなさい。貴方うちの学園の生徒でしょ?悪いけど、私もまだ撃ち殺される訳にはいかないから。あと、ここで嘘をついたって調べるから無意味よ。」
こちらを見上げる格好で名前の白状を迫られるがいまいち迫力がないなあ。
「沢田柊。それが僕の名前だよ。あと学年は一年。」
素直に答えておいた。
「ひいらぎ?アハハ、男のくせに軟弱な名前ね。それに一年生って後輩じゃない。それに犯罪者。アハハハハハハハハ」
何がそんなにおかしいのだろう。ようやく初めて彼女の笑顔を見た。
それと、どうやら僕より学年が上らしい。
「それじゃ、とっとと私の前から消えることね。」
笑いが急に止まり再び拳銃を向けられる。
やはり穏やかじゃないみたいだ。
「そうさせてもらいます。」
今日二度目のUターンを決め、僕は彼女から背を向け言われたとおり帰った。
ジュースを買うことはもうすっかり頭から消えてしまっていたのだった。