第五話
傾斜に押し負けないようにサドルから腰を浮かせ、立ち上がる。
その高さから川面に映った夕日を見下ろす。
橋の端から見えた女子高生姿がさっきより、はっきりと見えてきた。
あれはウチの制服だ。背丈が低いし1年生かな。
足取りがずいぶん速い。
スカートのポケットに手を突っ込んで橋の反対側、つまりコチラ側目指してというより
端の側道の中央でタバコを吸っている男に向かって歩いてるように思える。目線も男から離さない。
こんな時間に待合せかな。門限がある寮生ではないのか。
目を細めて彼女の顔を見るが知り合いではなさそうだ。男とその女子生徒とすれ違い進んだ。
さて、なんのジュースを買おうかなあ。
そんなことを頭に思い浮かべなおしていたら、思いがけない大きな音が耳に飛び込んできた。
間違いなく橋全体に響き渡る爆発音。
いや、破裂音か。
自転車のブレーキをかけ、音のした後方を勢い良く振り返る。
しかし自動車の追突はなかった。
車も通ってなかったから当たり前だ。
第二に先程の男と女子生徒が居た場所に目を向ける。
そこには女子生徒しか居なかった。男は居ない。
先ほど男がそうしていたように手すりに肘をついている少女に違和感を覚える。
気のせいじゃない。彼女は右手に何かを握っている。眼を細めると、そのシルエットが分かった。拳銃?いや、まさか。
たった今殺人があったとでも?
居ても立ってもいられなくなったので、自転車をUターンさせる。
もしかして危険なことをやってるかもわからないが、確認せずにはいられない。先程の男があの銃声の姿を消したとしか考えられない。
さほど距離は離れていないのでまたがってる自転車から降りて、押して少女の方へ歩く。
少女の方は引き返してきた僕に気づき驚いた表情を見せる。
その顔は幼かった。中学生と言っても分からないほどだ。
長いさらさらとした髪を揺らし彼女は僕の方へ握っていた拳銃を構える。
不思議と撃たれることに恐怖は感じない。彼女の前まで淡々と僕は歩を進めた。