五話~
私はあなたより二年早く社会人になった。
だからお金なら私の方があったのにあなたは意地でも自分が払うって聞かなかったわね。
それからあなたが無事就職して、
私は社会人一年目のあなたの愚痴をよく聞いてあげてたわね。
仕事に慣れるまでは精神的に疲れ切っているようだったし、慣れてくるとだんだんと帰りが遅くなる日も増えていった。
でも、貴方がそれだけ忙しいって事は浮気する暇が無いって事だから私は安心できたわね。
私もさすがに、私の事より仕事の事で手一杯でも我慢できるようになっていたわ。
そして次の年、貴方からプロポーズされた。
あなたは周りに社会人二年目で結婚か、なんて言われていたようだったけど私がそれ以上は待てなかった。
プロポーズはいつかされる事はわかってたけどやっぱり心臓が止まるほど嬉しかった。
結婚式は小さく済ませた。わいわいやるよりしっとりとやる方が深く愛を感じられる気がしたから。
結婚旅行は震えるほどに幸せだったわ。なにせ夫婦になって始めての旅行だったから。
貴方は私だけを気にしてくれてそんな貴方とずっと二人で過ごせるなんてね。
結婚してからも私は貴方の中の最高の女であり続けられるよう頑張った。
特に料理に関しては手を抜く事は無かったわ。
味噌汁を作るのに出汁をとる事を知らない人がいるらしいなんてあなたから聞いたけど信じられなかったわね。
「女性は完璧ではいけない。しかし、その欠点が相手に害を為すモノではあってはならない。」
理想の男性の繋ぎ止め方という本に書いてあったわ。
最悪、私の場合は浮気などされたら貴方を外に出さずに今度は完璧に監禁するつもりでもあったのだけどね。
そんな仕事も家事も完璧にこなす私の日常に異常が現れた。
朝、起きたら体が重い。私は寝起きが良い方だから珍しい事だった。
風邪を引いたのかと思ったけどなんだか違う気がしたのよね。
この日、私は結婚してから始めてあなたの朝食を作れなかった。
吐き気まで感じ始めた私を貴方は優しく気遣ってくれた。
朝早くから近くのコンビニでゼリーを貴方が買ってきてくれて、たまには「こういうのも良いな」なんて頭の片隅で思ってたことは内緒。
そんなこんなでこの症状はインフルかな?とか、なら貴方に移してはいけないからしばらく別の部屋で寝ようか、なんて考えてた。
とりあえず熱を測った。
微熱だった。
この時点でこれはついに……なんて考えていた。
母に電話するとすぐ来てくれた。
母が買って来た検査薬によると陽性らしい。
また一つ貴方を縛る鎖が増えた、そう思った。