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ろくでなし共を顧みず廊下へ飛び出したものの、大の男に抵抗をした己の姿に思い至り我に返った。慌てて身形を確かめればきつく締めた衣には余り崩れた様子がない代わり、結い上げた髪が幾らか解けている。
直そうにも立ち止まれば侍従にすぐ追いつかれてしまうのでそのまま小走りを止めず廊下の端、手摺りに身を寄せて目元を拭った。そして、そっと階下を窺うと照らされた広間には人が疎ら。當生様も見当たらない。ここまでの回廊への扉は幸い階段近く。そして、他に道はない。
駆け下りれば晒す時間その物は短くなるだろうが衆目を集めてしまう。逆に堂々としていれば目に止まっても強くは記憶に残らない――そう、祈る。見た所、残っているのは下位貴族だけだ。彼ら程度であれば振る舞いのみであしらう自信はある。
躊躇って先の部屋に連れ戻されてしまう事を思うと吐き気がした。あんな者達、顔も見たくないからこのまま捨て置こう。侍従は滋實の者から都合すれば良い。それが無理なら宴の無礼を理由にしてでも送ってもらおう。滋實より上位の澳篭本家の娘である瀞からも話を通せば、文句も言えない筈。そして家に帰ったら何よりも先に一の侍女に顛末を聞かせてあれらを侍従から外すのだ。
階段手前で深く息を吐く。成すべき事を思えば気持ちも落ち着いてきた。
常よりも気を引き締めて、慎重に階段へと足をかけようとして立ち止まった。
眼下に少女がいた。若葉色の衣に身を纏って當生様の側に立った、その女が黒い髪を揺らして階段を登っている。
曉衣ならば髪を下ろして公の場に臨む事も多いが、外邦では品位を損なうと眉を顰められるらしくそれに倣って外邦衣では多少とも結い上げるというのに。真っ直ぐに伸びた黒髪を腰元で揺らして、気にも止めていないよう。遠目で見た時には結っていたから、途中で解けたか。それにしても、形ばかりでも直せばいいものを――この女。言葉を交わした當生様まで蔑まれたらどうしてくれるのだ。
女は手摺りを掴んだまま見苦しい歩調で上ってくる。それだけも、唾棄すべきだが事も在ろうにこちらに気付くとを見上げて微笑んできた。
「ご機嫌よ……あ、……こ、今日はご機嫌麗しゅう存じます」
途中で身分が上の者と知ったか、顔を顰めて挨拶をし直す。己の誤りに恥じらっているが、そもそも六華に直接声を掛ける事自体が不作法だ。黙して伏すが常、身動ぎ一つも許されない分際だろうに私と視線を合わせようなどと以ての外。
こんな時に侍従――、いや、侍女がいれば即刻首の根を抑えて取り押さえるのに。
唇を噛みかけるが、苛立ちの少しだってこの者に読み取られたくない。努めて平然と、段を下りる。下りていく先はわざと女と隣り合う位置。察しの悪い女は当惑顔こそすれ膝を折るどころか手摺りを離そうともしない。
「……えっと、すみません……こんばんは?」
語尾を上げて何か言いかけてくるが、言い淀む。並べば私よりも少し背が低くいので自然と見下ろした。その愚かしさ、どこから指摘してやろうかと睨め付けて――――瞠目する。
「あの、どうかしましたか?」
胸元に止めた小さな装飾。真正面から見て漸く気付いた。飾られた石は硝子水晶。技と質によっては貴石と同価値を持つが、目の前にあるのは程度の低い。竜瑙にとっては路傍の石同然。
「……何よ、それ」
「え?」
けれども、その金の台座。竜瑙の職人が施したと一目瞭然の緻密な細工。竜瑙の金山から生まれ出た財であり、竜瑙の手により時重ねて高められ、瑩石と変わらぬ力を宿す代物。竜瑙が選んだ相応しい石を支え、その質を高めて清める希有な物であり。竜瑙が己を飾る為、従家へ授ける為、或いは他華より願われてより形成す物で。
たかが、硝子玉を。選ばれた石を外して繋がりを断ち、無価値の石を飾るなど。宿す力の有り様さえ感じない者にとっては我欲を満たす、それだけの意味だろう。
しかし、竜瑙にとっては無惨な姿を公に晒される辱め。
尊き一華、竜瑙に連なる全ての血を。珠玉と謳われるよりも永きに渡り受け継がれた技を。数多の一族から杲の下にて直々に言祝ぎを授かった名を――誇りを汚される謂われなどない!!
取り戻さなくてはいけない、その一心で咄嗟に手を伸ばすが、女は身を引き一つ段を下りる。これでは飾りに手が届かない。
「ちょっと、何を」
「動くな不届き者!」
命に背いて身を翻す素振りを見せたので慌ててその肩を掴み、力任せに背を手摺りに押し付けると一段を下りる。
「離して!」
乾いた音に始め何が起こったのか分からなかった。
腕に残る鈍い痛みが打たれたのだと間を置かず知らせてくる。
この私が、打たれた?この女に打たれた?
一度に血の気が下がったかと思えば、それ以上の勢いで頭に血が上る。
「だから、いきなり手を出すんじゃなくてちゃんと説明して下さい!急に手を出されるなんて誰だって――」
周囲のざわめきも、目の前の女の言葉も聞こえない。
伸ばした手は胸飾りを今度こそ掴む。引き千切ろうとしたが、離れない。女が両手で腕を掴んできた。痛い。その両手を力一杯叩く。離さない。耐えられずに掴んだ手で揺さぶった。後ろへ蹌踉めく。前に傾くので手摺りを掴んだ。掴まれた腕が痛い。振り解く。
目を見開いた。
「あ―――」
落ちていく。若葉色。黒髪が。
思わず手を差し出して。
「やめろ!!」
悲鳴が聞こえた。
気付けば、寝台に横になっていた。何だか、全身が痛い。
明かりはとても小さくて、部屋全体が暗い。
「お嬢様……?」
憂えの声音で囁かれる。
瀞だ。
首を動かせば、今までにない悲愴な面持ちで跪いているのが見えた。
ぼんやりと眺める。瀞は平時に私室に入らない。四の侍女だから。目が覚めた時、まず目にする侍女は二の侍女の咲江やその集の侍女だというのに。しかも、どこかに出掛けるのか四の侍女の正装。
――務めで遠出するから挨拶しに来たのかな。十日ぐらい都から離れた時より辛そうだから、もっと長い……でも、その間、どこも行けないのは嫌……毅介だけでもいたら……。
青が止まる。笑っていた。囲われ。辛い。伸ばされて。ままならない。砕かれた石。揺れた黒髪。若葉の衣。竜瑙の誇り。痛い。
直前の記憶が一気に蘇る。
落ちて。叫んだ。
「……瀞、……どうしよう。女が、だってあの女、竜瑙を侮辱して、でも――――」
その場にいなかった瀞には何の事か分からないかもしれない。けれど、そこまで考え及ぶ余裕がなくて思い浮かんだ言葉を溢す。
階段から落とす気はなかった。確かに、落とすつもりはなかったのだ。鞭打つにしても、斬り捨てるにしても、どんな返報を行うにせよ私自身が、しかもこんな公の場で手を出すつもりは一切なかった。何故なら、私は竜瑙有嘉梨だから。竜瑙の三の御子だから。無様に振る舞えば竜瑙の醜聞になるから。ただ、女から胸飾りを取り上げたかっただけなのに。結果、女を落としただけに止まらず、諸共に落ちた不始末。
それだけを伝えれば良いのに言葉が震える。息が詰まって、視界が揺らいだ。
「どうかご安心を。この瀞がお側におりますゆえ、御心をお静め下さい」
繰り返し言い聞かせられて、痛みこそ引かないが落ち着いて瀞を見詰められるようなった。
「お嬢様は階段でお体を打たれていらっしゃるのです、どうか、ご安静を」
結局、私も落ちたのか。暗がりに浮かぶ尋常でない悲痛さを訴えてくる顔にその後を詳しく聞くのも怖く、数位の侍女として躾け直そうとする気力も沸かなかった。次いで体の具合について尋ねられたのでそちらを正直に答える。
痛みが体中ばらばらにあるけれど特に背中と頭が痛い。でも、恐る恐ると訊かれた吐き気はない。
寝台に身を預ける私の髪は既に解かれ梳かれていて、身に付けていた外邦衣の為の骨組みも外されている。
「何に代えてもお嬢様をお守りすべき所を側に在らず申し訳ございません。今宵の宴に並んだ連なり共も役立たずとあってはさぞお辛かった事でしょう」
「…………知っていたの」
口にするのも躊躇われる、竜瑙への辱め。
「……お嬢様も知っての通り、お側にお仕え叶った者であれば主家竜瑙皆様の御技による品、その程度がどれほど僅かであっても極自然とその気配を捉えております……務めが長ければより鋭敏に。務めから離れたとしても、多少で鈍るような感覚ではございません」
竜瑙の私には一生知り得ない感覚であの広間にいた従家の者達は、元は胸飾り全体が竜瑙の一品――後に石のみ挿げ替えた物だと分かったのだと瀞は述べた。
けれど、それは詭弁に等しい。
確かに古くから続く華の従家累類は代の重なりにより磨かれてきたのか、その主家に関して感覚が敏い。主家であれば直系が手懸けようと悪し物は悪しと十把一絡げとして気にも留めない所を、従家だと己が主家の手が入ろう物ならば微に入り細をうがち、事細かに気付いてしまうらしい。
ただ、対して主家が鈍いかどうかと問われれば、答えは否。従家と同じように経験を積めば単純に良し悪しの判断ならば変わらず、また直接主家の品と触れる機会も多いのだから目も肥えている。気配を察する事も従家に長こそあるが、主家の者に全く出来ない訳ではない。
だから、今回、眼前にするまで胸飾りに気付けなかったのは完全に私の至らなさ故。尊き一華である父でなくとも、それこそ分家の者でももっと早く気付けただろう。
「此度の事、私も竜瑙の従家として感ずる物がございます。しかし、尊き一華が御子様であるお嬢様であれば比べようもない痛みでございましょう」
痛感しているのは己の力不足。それを容易に口に出来る程度の矜恃ならば持ち合わせていなかった。
どう言い繕おうか言葉に迷っていた所に、恫喝じみた男の声が複数、そして女の喚く甲高い声が聞こえた。聞き覚えがあって余りある、私の連れてきていた集の声だ。思わず、痛みも忘れて起き上がった。瀞は外からの騒ぎにも私へ綺麗な微笑みを浮かべて立ち上がる。
目に霜烈さが過ぎったのも幻かと思わせる鮮やかな立ち振る舞いで、私を背に扉へ向き直った。
集が呻くような叫びで告げた。
「――っ、中守が属、顕職の皆様がお通りです!!」
――政殿の査問官が来ているというの?
これが杲が御座し国の中枢が集う清の域の警固を担う大守の傘下であれば理解は出来る。事に六華の竜瑙が関わってしまった時点で下級貴族の手に負えない。けれど竜瑙が動けば大義名分を得た従家が熱を入れ――更には一部が熱を上げ過ぎて生半可では収まらなくなる。適正な判断を下す為には、和の域を負う国務めの何某かが次第を明らかにするしかない。
――それが、中守?政に関連した範囲にしか当たらない筈でしょう?殿内での争いならばともかく……そもそもどうしてこんなに早く?
「尊き一華、竜瑙が三の御子様に代わり澳篭が二の子、瀞が応じましょう」
悩みが尽きない間に玲瓏たる声が響く。と、同時に勢い良く扉が開いた。数にして五人、男達が部屋に踏み入れる。私の集の侍女はいない。
中守に属する顕職の職衣である鈍色の曉衣に素鼠の袴姿。曉衣と同じ色合いの羽織を纏うただ一人がこちらに進み出る。その迎え入れてもいない客は、横柄さを取り繕わず抜け抜けと形ばかりの挨拶をしてきた。
「中守の顕職、三の級を預かる叉苑が三の子。ご尊顔を拝しまして、恐悦至極に存じます」
級持ち。三ともなればその衣に略式国紋を背負う上級仕官。しかも、叉苑は古くから昵位にある家だ。
「竜瑙が三の御子様の四の侍女にございます。顕職殿。応じるとは申しましたが、立ち入るまで認めてはおりません。皆様諸共、ご退出願います」
瀞が慇懃無礼とはこれとばかり言い放つ。歳月は足らないが同じく昵であるからこそ出来る物言い。竜瑙の青――今宵であれば群青を装っても、相手よりも位が低ければ心中はともかく最低限の礼を失ってはならず。それこそ、相対してしまえば竜瑙の私が直接応じなければならないのだが。
「何、そう長居はしませんよ」
「お嬢様はご静養されております。故に、騒々しい皆様方にはご退出願っているのです」
「はは、先は失礼をした。何分、こちらの話に耳を貸さずに通さぬ一点張りの侍女を説き伏せるのに難儀しましてね。三の御子様の侍女は融通が利きませんなぁ」
「それについては後日、正式な使者を立てて事明かしますのでまずはご退出下さい」
「では、せめて、一言頂きたく」
「さて、くどい事を重ねて申し訳ありませんが、ご退出願います」
気力充実していてさえ口を挟めるような気がしない遣り取りで、本調子ではない今は鍔迫り合いのような対話は聞くのも辛い。相手に無礼があったからだろうが。今までだって同位の昵に瀞が言葉を返した事はあるけれど、こんな話し方は耳にした事がない。
「流石は澳篭がご息女。忠実さにかけては正に侍女の鑑でいらっしゃる。……まぁ、しかし此度はその澳篭にさえ隠しきれないでしょうな。今までの三の御子様の所業を従家始め随分と貴族を抱きかかえてなきものとして始末をつけていらっしゃったというのに」
「……は?」
「我らが隠し立てせねばらならない事などございません」
顕職がしみじみと口にした言葉に思わず漏れた。瀞の切り返しに被って掻き消されるくらい小さな声だったのに級持ちは耳聡かった。
「あぁ、知らぬは当人ばかりでしょう。最近では謳示の御子様の周囲の者に対して随分派手にご活躍されているようで。けれど尊き一華、竜瑙には触れぬよう澳篭を筆頭に皆様方がかなり気遣っていらっしゃったので、ご安心を。此度は無理でしょうが、ね」
――私がしてきた事をお父様が、知らない?何それ……、知らなかったから何も言わなかった?知っていたら、止められていた?今までしてきた事、今更知られたら……そんな。
「再度申し上げましょう。澳篭がお嬢様について隠し立てせねばらならい、疚しさなど一切ございません。まして尊き一華、竜瑙より事隠すなど……従家筆頭たる澳篭を愚弄するだけならばまだしも我らがお嬢様の御心を乱すとあらば、四の侍女として覚悟を決めさせて頂く」
「何とも麗しき忠義心よ!けれどもそれが故に彼の侍従はどうなった?全く報われませんなぁ」
「お気遣いを頂くとは思いも寄りませんでした。しかし、それは無用の事。力量を満たさずお嬢様の御前を汚したのですから当然の報い……いえ、今までお側に置いて頂いていた事からすれば生温い。けして足りる物ではありません」
「澳篭が二の御子殿は手厳しく――真に度し難い」
「四の侍女とお呼び下さい。お嬢様に仕える者としての心得に過ぎません。我が身の巡り合わせを常日頃より有り難いと感じておりますが、それも六華に侍る務めを許されない貴方には終ぞ知り得ぬ事なのでしょうね」
三の顕職から告げられた言葉を咀嚼するのも精一杯の私には、端端から互いへの嫌悪が滲み出る会話を聞き入れる余裕はない。その内、苛立ちと憐れみを混ぜ合わせた思惑も露わな睨み合いへと移り変わって、触れば斬るとばかりの空気に級なしの顕職共が身を強張らせていたのも知れなかった。
終止符を打つように扉が叩かれて、漸くはっとした。
ここで三の顕職に先んじられるとこの部屋の主導を握られかねない。そうと分かっていながら、扉の続く先を恐れて言い淀んでしまう。
「尊き一華、竜瑙が三の御子様に代わり澳篭が二の子、瀞がお応えします!」
私の怯えを即時悟った瀞がこの部屋の最高位が誰であるのかを示す為、声高に応えた。
「失礼致します」
直ぐ様扉が音もなく開き、緑で纏めた袴姿の侍従侍女それぞれが素早く出てくると一方は扉を押さえ、他方は脇に控えた。
竜瑙の髪が黒を基として青を帯びるならば、彼らは白を基としてその色を乗せる。
暗がりに色鮮やかに浮かぶ、白緑が溶かしたような極淡い緑混じりの白髪。対して深い緑の曉衣に身を包む、父と然程変わらない齢の。
「尊き一華、方鐸が一の弟君でございます」
侍従が涼やかに名を告げると、部屋に立つ者達を一瞥し堂堂たる足の運びで部屋に踏み入れた。
「出は先の通り、名は篤信。火急の事、四の侍従からの名告りは勝手ながら省かせて頂いた」
寝台に起き上がった儘に固まる私に目礼し、そう言い放つと顕職に歩み寄る。
六華の者が横に立てば、級持ち顕職と雖も向き直る他はなかった。機があれば向けられた侮蔑の視線が外されて、全身から力が抜ける。瀞が僅かに下がって、瀞と顕職により部屋に満ちていた峻烈さが霧散した――けれども、静まり返った気配は何故か恐怖を掻き立てる。
「さて顕職殿。竜瑙が御子殿にお尋ねする事があれば杲と六華による定めに則り、方鐸が篤信、同席させてもらおう。一華血脈、査問となれば他華同席必須とする定めを三の級を預かる顕職ともあろう方がお忘れになっているとは思えないが、尊き一華が庇護にある御子殿に対してであれば尚更の事と重ねて覚えておくが良い」
「査問など、とんでもない。一の弟君は勘違いなさっている。ただ此度の件で災難に遭われた三の御子様へ御挨拶に伺っただけでございますよ」
「なるほど。傷を負って間もない御子殿が伏せる、侍女の手配も十分でない所に男ばかりの配下を引き連れてとは随分な御挨拶だ。侍女からも再三退出を願われたであろうに」
先程とは違って、穏やか。そう、酷く近くで笑顔を交わし穏やかな口調で双方諍いの欠片もない筈なのに言葉が重なる度に体調の悪さとは別に息苦しさが増した。息が浅くなる。瀞に背を撫でられても一向に収まらない。
「杲の六華、その御子様が伏せられていると聞いて心穏やかでいられましょうか。一刻も早く事の次第明らかにして御子様の憂いを晴らそうとの決意を――」
「申し開きは私ではなく尊き一華である竜瑙並びに方鐸に立てるが良い。ひとまずは繰尾が用意した部屋に移ろうか。万が一に竜瑙が御子殿の身が損なわれてその身一つで事終わると……まさか、そのような甘い考えを持たれてはいないだろうな?」
まだ話は続いているというのに。
痛ましげに細められた薄い緑の目を見たのを最後に、意識に薄雲がかかったように何もかも朧になった。