料理界の救世主
「今日はケルススは最初から飛ばしているぞー! 挑戦者魅了されて呆けているぅううう!」
「元康さん! 何呆けているんですか!」
「ハッ! ですぞ!」
あの流れるような技捌きはお義父さんのそれでした。
なんと恐ろしい……錬はお義父さんの技能を模倣しているという事ですぞ。
く……俺も勝てる自信がありませんぞ。
「おーっとケルスス! 肉の調達に闘技場に駆け込んだぁああ! さあ出てくる獲物はぁああああ!」
この会場では肉や魚などは闘技場部分に降りて出てくる魔物を処理して食べるとの話だそうですぞ。
そこから出て来たクラレットヴォルドラプターという恐竜型の魔物が飛び出してきました。
「GAOOOOOOOOOOO!」
ですが錬はすかさず包丁を振りかぶって掛け声と共にスキルを放ちました。
「クッキング……メサイアⅩ!」
錬が通り過ぎて包丁に着いた血を拭う動作をしますぞ。
「GYA!?」
ジャンプしたままクラレッドヴォルドラプターは一撃であったにも関わらず幾重にも切り刻まれて調理しやすそうな肉と骨、そして皮に分けられて地面に落下しましたぞ。
肉が……品質が上がっているのが俺達の目には一目瞭然で分かりましたぞ。
少なくとも最高品質という文字が見えました。
「よし……クロ、そしてチョコミ! キッチンで調理だ!」
「おー」
「了解」
その光景を俺と樹、ユキちゃんとラフえもんは絶句する事しかできませんでしたぞ。
「なんですか今のスキルは!?」
「樹、フィニッシュ技というのがあるだろう? これはその一種だ。刹那・みじん切りを含めてな」
「弱い技ですがトドメに放つとレアドロップなどの確率を引き上げる類のスキル……いえ、品質を大幅に向上ですか。どれだけあなたは積んでいるんですか」
「フフフ……全てだ!」
などと錬は勝ち誇った表情でキッチンに運び込んだ食材でどんどん調理していきますぞ。
その手つきは淀みが無く、お義父さんの料理する際の手つきを髣髴とさせていますぞ。
あれは完全にオート操作か、もしくは武器に内包されたアシストが大きく掛かっているのは一目瞭然ですぞ!
「剣の精霊は一体何を考えて尚文さんの包丁にあそこまで評価を……」
「樹、お義父さんですぞ!」
「く……これは幾ら僕でも指摘しきれませんね。元康さん! あんなコピーに負けてはいけませんよ!」
ぐぬぬ……ですぞ! ですが俺程度の腕前でお義父さんをトレースする錬の料理に勝てるのですかな?
条件は限りなく近くてもお義父さんの包丁分の差はとても大きい……大きすぎるのですぞ!
きっと専用効果など無数にお義父さんの包丁に強化で積まれているでしょう。
どうにかしてこの隙の無い相手に料理で勝たねばならないのですぞー!
俺は出来る限りの料理知識とお義父さんの料理風景、味付けを思い出しながら食材を調達し、コロシアムで出てくる魔物を仕留めてキッチンに運び込みました。
学生時代に豚共が絶賛したようなエッグベネディクトやカレー……ローストビーフなど出来る限りの料理をしました。
そういえば昔、最初の世界のお義父さんに俺の料理を試食してもらい、更なる高みへ行きたいので厳しめの感想を言って貰ったことがありましたな。
『元康、お前の料理は香辛料の使い過ぎが目立つ。飯を食いたいんであって香辛料を食いたいんじゃないんだぞ? そこを意識して調理しろ』
でしたな。
ああ……懐かしいですな。
そう言っていたお義父さんですが、俺は使い過ぎなだけで香辛料を使う料理が下手な訳ではないそうですぞ。
一応慣れている分、香辛料を使った料理の経験はあるから他の料理より上とかなんとか。
要するに変な癖が付いてしまっているという事ですな。
ともかく、俺は出来る限りの料理をしたのですぞ。
錬にはできない火力調整をして煮る料理の火の通りをよくするなど、魔法の無い世界ではできない料理だってやってやりました。
他にも最初の世界のお義父さん直伝の調理法を駆使しましたぞ!
「はぁ……はぁ……これは……」
「も、元康様が息を切らしていますわ!」
「あの強さだけなら右に出る物が無い元康さんがこれほどまでに力を尽くしても勝てるかわからない勝負という事です」
「ぼく達も出来る限り手伝ってるけど……勝てるかわからないよ」
「ラフえもんさん。どんな料理も美味しくなる調味料とか無いんですか!?」
「あるにはあるけど、勝てると思う? 盾の勇者印のフレンドパウダーって言うんだ! ただ……あくまで後年で再現された道具で調味料なんだけどね。魔物と仲良くするための……」
「色々とツッコミたい道具ですが念の為に投入しておきましょう」
もはや手段は選んでいられませんぞ。
「……」
錬の方を見ると涼し気に料理を終えて審査員に運ぶテーブルに料理を並べておりました。
やがてゴォオオオン! という音と共に調理時間が終わってしまいましたぞ。
で、出来る限りの料理を並べましたぞ。
「料理人達よ! よく力を尽くしてくれた! ではこれから闇の料理界の審査員たちと観客が作り上げた料理を審査する!」
司会の言葉に合わせて闇の料理界の審査員たちの元に料理が運び込まれて行き、試食が行われて行きますぞ。
「う、うおおおおお! 相変わらずケルススの料理はうめぇええええ!」
「天にも昇る味わいだぁあああ!」
「こ、これクラレッドヴォルドラプターの肉なのか!? 今まで食った事のない位凄い柔らかさと歯ごたえの良さ、そして味わいだ」
「素直に美味いって感想しかねえ! 俺の語彙が少ないことがこれほど悔しい事はねえ……な、涙が止まらねえよ!」
「美味い……い、生きててよかったー」
と、わずかに出された観客たちは錬の料理を食べて空を仰ぎながら涙を流している者たちが多数ですぞ。
「これに比べたら愛の狩人の料理は鈍い味だ」
「ブブー!」
何か豚の罵倒が聞こえた気がしましたぞ!
お前を料理してやりますかな!
「酷い野次ですね……錬さんの料理に比べたら臭くてゴミの匂いだと言いましたよあの方……後で死んでも文句は言えませんね」
「元康様! ユキはこの料理、とてもいい香りなのですわ!」
「ぼくも酷い匂いじゃないと思うよ? 良い匂いだと思うのに何であんな……あっちのファンだからって言って良い事と悪いことがあるよ」
「く……悔しいですが俺は豚に関してはともかく料理に関して言い返せませんぞ」
お前も自らの敗北を認めるが良いとばかりに俺たちにも錬が作った料理が運ばれてきました。
匂いが程よく……俺の作った料理が如何に自己主張し過ぎているのかを罵倒しているかのような誘惑的な香りが漂ってきますぞ。
恐る恐る俺達は錬が作った料理を食べますぞ。
「く――」
その味わいは限りなく本気でお義父さんが作った料理を連想するほどに再現度の高い代物でした。
感受性が豊であったらきっとここで高らかに声を上げて素材一つ一つの表現をしながら口から魔法を放つことができるでしょう。
うぐ……やばいですぞ。口からビームの魔法を放つところでした。
普段からお義父さんの料理を食べていなければ堪えられるものではなかったでしょう。
「これは……恐ろしいほどの再現度ですね」
「これは凄い……なおふみくんがぼくの為にって作ってくれたホットケーキと餡子や餅に匹敵する美味さだよ! チキンライスだったら危なかった」
ちなみにラフえもんはお義父さんが作ったチキンライスが好物になったのですぞ。
最初の世界のお姉さんも好きな料理でしたな。主にケチャップを使った料理がお姉さんの好物でしたぞ。
「も、元康様! ユ、ユキは……ユキは元康様の料理の方が……」
「ユキちゃん。我慢しなくて良いですぞ!」
「で、ですが……う、うう……」
これは……完全に敗北ですぞ。
「誰の目から見ても結果は明らかだぁああああああああ! 勝者ぁあああああ! ケルススぅううううううううう!」
観客の投票なども終わり、俺達に目に見えた数字として提示されました。
いえ、見るまでもなく……俺達の料理に票などありませんでした。
ゴォオオオオン! という音が響き決着がついてしまったのですぞ。
「はははははは……敗北が知りたい!」
と、錬が何処かの王者みたいな口調で言いました。
一見すると転生者が言いそうなセリフですが、言い返せないのですぞ。
「行けるところまで行くだけ」
「勝利を認識。次の行動に入る」
クロタロウとラフミが錬の勝利宣言に合わせて一言述べました。
完全に俺達は眼中にないですぞ。
ここまで実力差が開くとは悔しいですぞ。どうして俺は槍の勇者なのでしょう。
お義父さんの包丁に匹敵するお義父さんの調理器具を探さねばなりません。
麺棒辺りならできるでしょうかな? ですが包丁には劣るような気がしますぞ。
串焼きの串……いえ、コピーできた事は無いですぞ。
ぐぬぬ……悔しいですぞ。お義父さんの道具を武器に登録したいのですぞー!
「それではぁあああああ! 次の挑戦者はぁあああああああ!」
そうして敗北してしまった俺たちの次の挑戦者が控室からやってくるのですぞ。
「……訂正、そろそろ潮時の様だ。栄光はここで終わりだ。我らの敗北がやってきた。ケルスス」
ラフミが何やらそうつぶやきましたぞ。その視線の先には……。
「フラグ回収。草」
ブラックサンダーがニヒルに笑っております。
「あれ? 元康くんに樹、それと錬? こんな所でみんな揃って何してるの?」
次の挑戦者としてやってきたのは……パンダの養父と一緒に居るお義父さん達でした。
「終わった……」
錬の目が完全に死んで行くのが、俺の目からも明らかでしたぞ。
どうしてお義父さんがここにタイミングよく現れたのかというと、なんでもパンダの養父の元にも闇の料理界からの助っ人要請が来ていたとの話ですぞ。
パンダの養父は昔、闇の料理界を相手に色々とあったそうで、今ではいろんな繋がりがあり、荒らされているので助けてほしいとの声に止む無く応じて参加する事にしたそうですぞ。
そこに滞在していたお義父さんも手伝いとしてポータルでゼルトブルに送り、一緒に参加することになったんだとか。
この後の勝敗に関しては語るまでもありませんな。
料理勝負という事で本気でやらなきゃいけないとお義父さん達も加減無く戦い……錬達は負けてしまったのですぞ。
所詮、武器頼りのコピーでは同条件であるお義父さん達には勝てないという事なのでしょう。
敗北した錬は賞品を返却……ではなくお義父さんに譲渡しておりました。
お義父さんは首を傾げながらパンダの村へと戻って行きました。
「で、敗北を知ったケルススさん、気分はどうですか?」
「……」
村に戻った俺達は正座させた錬に事情を聞くことにしたのですぞ。
樹の命中が珍しく正当な形で効果を発揮していますな。
「錬さん、一体どうしてあんな馬鹿な真似をするようになったんですか?」
「大体の理由はわかるだろ。俺も好奇心から尚文の包丁で何か出ないかと思ってな……そしたらコピー出来て、とんでもない数の専用効果に驚いて試しに大会に出たら文字通り連戦連勝で……」
「どんどんのめり込んでしまって引くに引けなくなったと……一体いつからやってたんですか?」
「……村の開拓を始めて少しした頃から」
「結構前! ブラックサンダーさんから逃げ回っていた頃からじゃないですか!」
樹は腕を組んで錬に詰問を続けますぞ。
「樹だってわからないはずないだろ? どれだけやっても勝ち続けるんだぞ。面白く無いはずないだろ、転生者共だってきっとこんな感覚でどんどんのめり込んでいくんだ。わかっていたけどやめられなかったんだ」
「はぁ……まったく……今日ほど剣の聖武器という武器の性質が恐ろしいと思わない日はありませんよ。むしろ尚文さんの料理技能が恐ろしいんですかね」
確かにお義父さんの恐ろしさですぞ。コピーである錬に俺は手も足も出ませんでしたからな。
「同様の事を僕達も出来たら良いですけど……尚文さんの包丁とか武器に入れたら出ませんかね」
「ど、どうだろうな……」
ちなみに検証と称して樹がお義父さんに新しい包丁を与えて古い包丁を譲ってもらい、武器に入れましたが出来ませんでしたぞ。
「根本的に調理道具とシナジーのありそうなのが盾の聖武器という所なのが口惜しいですね。鍋とかまな板とか鍋蓋とか、尚文さん自身じゃないですか」
「樹、ほどほどにしないとお義父さんに怒られますぞ」
相変わらず樹は命中の異能が炸裂し続けていますぞ。
お義父さんは盾が鍋の蓋に見えるなど言うととても怒る方ですぞ。
きっとこのループのお義父さんも怒りますぞ。




