クロタロウ
「樹くんを守るぞー! おー!」
「おー! です!」
「敵はあなたですけどね。フレオンさん」
「ちょっとシュールだけどワクワクするね。空飛ぶ道具とかどこにでも行ける扉とか出してくれるのかな?」
「空を飛ぶならガエリオンさんとフレオンさんが居ますし、転送は武器で出来るじゃないですか……」
「そう考えるとちょっと悲しいね。とは言っても未来の錬金道具が何か後で教えてね」
例に挙げた行動は確かに今の俺たちだったらできなくはないものばかりですぞ。
ただ、お義父さんの好奇心が刺激されているのか異世界へ来た当時の楽し気な顔をしております。
パンダを勧誘しようという時もこんな顔でしたぞ。
「まずは……健やかな眠りを導く快眠まくらとかどうかな? お昼寝して元気になれるよ」
ゴソゴソとラフえもんが何かを取り出そうとしていると、錬がエフェクト担当とばかりに回り込んで閃光剣の準備に入りました。
「錬さん、ネタに走らなくて良いですよ」
「道具を注目させるのは良い演出ですね! 私も参考にお手伝いしますよー!」
「フレオンさんも便乗しないでください!」
「あはは……賑やかになったね。樹にはラフえもんで、元康くんはフィロ子ちゃん、錬にはラフミちゃんかー……俺の所に来ないのが残念だ」
「嬉しくないですよ」
「お義父さんには俺がおりますぞ!」
「なんで元康くんが張り合っている訳?」
「……確かにそうですね。未来から来たという点で言えば元康さんが尚文さんの未来の国からはるばる来た方でしょう」
樹の言葉にお義父さんは俺を見つめてくださいますぞ。
カモンカモーンですぞ。
空を自由に飛びたいのでしたらフライングモードで飛んで差し上げますぞ。
どんな願いであろうとも出来る限りは叶えるように努めますぞ。
俺はお義父さんの幸せを第一に考えていますぞ!
「うーん……色々と助けてもらっているけどさ……ねぇ、元康くん」
「なんですかな?」
「今日のお説教は長くなるのを覚悟してね?」
ヒィ!? お義父さんのお説教ですかな!?
「あった快眠まくらー!」
と言う所で錬とフレオンちゃんが仲良く演出担当とばかりに出した道具を光らせておりましたが、角度的にお義父さんに後光が入り、これから始まる説教の方に俺は意識が向いていたのでしたぞ。
この後の光は印象的ですぞ。
聖母のような優しい笑顔で凄い怒気なのですからな。
そうして俺はお義父さんに数時間に渡って説教をされました。
この件で錬や樹を攻撃しない事を誓わされたのですぞ。
それから数時間後、お義父さんの説教が終わった後にブラックサンダーの様子を見ると、ショックから回復したブラックサンダーは……錬が着用していた分厚い眼鏡を付けておりました。
「盾の勇者さん、農場はこんな感じでよろしいでしょうか?」
ブラックサンダーは率先して農場の整備を手伝っていますぞ。
今まで一度もそんな事をしていなかったのにどうしたのですかな?
「ブラックサンダー、なにそれ? どういう事?」
「俺、ブラックサンダーじゃないし……クロタロウだし……」
お義父さんが首を傾げながら尋ねるとブラックサンダーは恥ずかしそうに牧場で名付けられていた名前を名乗りました。
何故かお義父さんに対して揉み手で媚びていますぞ。
「これからクロタロウは手堅く農耕フィロリアルをする事にしました。盾の勇者さん、このクロタロウをどうぞよろしくお願いします」
「う~ん……」
「漆黒の双牙はどうなったのですかな!? 愛の狩人<タイムドライブ>ですぞ!」
「そういうの卒業したし。そもそも愛の狩人はタイムドライブとは読まないし、むしろカッコ悪い……くくく……」
乾いた卑屈な笑いをブラックサンダーは自嘲気味に言いました。
どうなっているのですかな!?
「なんて言うか……まんま錬の後をそのまま追いかけて中二病を卒業して高二病になってるね」
「これはあれですかね? 夢に敗れたその反動で安定を求めて公務員を目指す、とか言い出す高校生みたいな感じですかね?」
「ああ……太い物に巻かれたいって奴か。確かに尚文の所なら食うに困る事はないだろうが……」
「ブラックサンダー! しっかりするのですぞ! あんな未来のメタルタヌキチョコーレートモンスターにやられっぱなしではダメなのですぞ!」
「や、やられっぱなしとか、そ、そんなんじゃないし……」
ブラックサンダーが視線を逸らして俺の言葉をかわしてしまいました!
これは重症ですぞ!
そしてこの症状には覚えがありますぞ!
お義父さんに叱られた時のコウとどことなく似た症状なのですぞ!
「お義父さん! 恐怖で震えるブラックサンダーにゾウやお姉さんのような治療に適した人の心当たりはありませんかな!」
「そんな事言われてもなー……何が悪いのかブラックサンダー、じゃなくてクロタロウはわかっているんじゃない? 嫌がっている錬を無理やり勧誘するのが問題なんだしさ……」
「覚醒成功した世界でラフミは来なかったのは、卒業してなかったから不満に思ってなかったからだと思うなの。それとフレオンが居るかいないかだと思うなの」
「ガエリオンちゃん、それは原因だね。まあクロタロウは村のフィロリアルの中でも問題起こしていたし、ちょっと冷静になるいい機会だったんだと思うよ」
くっ……確かに他人に迷惑を掛けるのはいけない、と最初の世界でフィーロたんにも言われておりますぞ。
ブラックサンダーは超えてはいけない一線を越えていたのかもしれませんが……ですが、ですぞ!
「とはいえ、ブラ……じゃなくてクロタロウ」
「なんですか? 盾の勇者さん」
「俺としては自分のかっこいいと思った姿になろうとした事自体は否定したくないんだ。俺も以前はそういう願望とかあったしね?」
お、お義父さんがブラックサンダーのフォローをしてくださっておりますぞ。
さすがお義父さん。
叱る所は叱り、良い所は褒めるのですな!
「だから他人に迷惑を掛けない範囲でなら、ああいう遊びをしたり、かっこいい自分を追及するのは良いと思うんだ。ほら、錬だって基本的にはああいうの好きだしね」
「いや、俺は……!」
錬が否定しかけましたが黙りました。
実際に闇聖勇者スタイルが好きなのは事実ですぞ。
否定出来ない部分もあるのでしょう。
「だから嫌がらない範囲で遊びに誘ったりすれば錬も付き合ってくれるよ」
「うっす!」
ブラックサンダーは不良の舎弟が頷く様なセリフで答えました。
う~ん、お義父さんのお気持ちが届いていれば良いのですが……。
という所でユキちゃんがフィロリアル生産者の所から帰ってきました。
「ただいま、戻りましたわ。おや? 何があったんですの?」
「そういえばユキちゃんは次のレースに備えて出かけていたんだっけ」
「今回の騒動に混じらずにいて運が良いのか悪いのかなのー」
「ブラックサンダーの様子がおかしいですわね? いつもは隙あらば良い感じのメスって偉そうな態度で近づいて来ますのに」
ユキちゃんは足の遅い雄は論外ですからな。
最初の世界のユキちゃんことホワイトスワンもブラックサンダーは論外でした。
というのもブラックサンダーはどちらかと言えば力強さの方に重点が置かれているフィロリアル様ですからなぁ。
足の速さを重視するホワイトスワンからすれば異性の対象として見られていなかったのでしょう。
「ユキちゃんの留守中に色々とあってね。ブラックサンダーは卒業してクロタロウに戻るんだってさ。農場の仕事を手伝ってくれるらしいから、ユキちゃんも気にかけてあげてね」
「あら? そうなのですわ? これで少しは静かになりますわね」
「む、村を悪人が占拠して俺達が颯爽と力を解放してみんなを助けるなんて妄想だし……勇者だからそんなピンチにならないし……」
「それは学校が悪人に占拠された的な話のフィロリアル版って事? うーん……これはこれで痛いなー……」
「おのれラフミ……ブラックサンダーをこんな風にした罪は重いのですぞ」
絶対に復讐してやりますぞ!
と俺は誓ったのですぞ。
ですが……このラフミ、実は俺もちょっと苦手なのですぞ。
理由としてお姉さんを髣髴とさせる所でしょうな……ラフ種自体、お姉さんに似ている手前、敵として戦うなどありませんでしたからな。
このループのお姉さんはおりますがな……それでもブラックサンダーをこんなにしたことに関していずれ責任は取らせてやりますからな。
ちなみに今回の騒動の最中、お姉さん達は安全な家の中で待機していたのでしたぞ。
「しかし……なんていうかフレオンちゃんとブラックサンダーが樹と錬の専用フィロリアルって感じだったけど、今度はラフえもんとラフミちゃんが……専用ラフ種って感じで来たね」
苦笑交じりに樹にお義父さんが言いましたな。
「どちらも余計なお世話としか言いようがないですよ。フィロ子さんの目的がよくわかりませんけどね」
「フィロ子ちゃんは……フレオンちゃん兼元康くんの専用って感じだね。俺はー……ラフちゃんで良いのかな?」
「違うと思いますけどね。尚文さんへの刺客が来ないのが悔しい所ですよ」
「仲間に入れようとしてもねー……元康くんとガエリオンちゃんで十分だよ」
「役割は似たようなものですか……確かにそうですね。こっちへの被害も甚大ですけどね」
「しかし凄いね。ラフえもんにフィロ子ちゃんにラフミちゃん。どれも兄妹設定なのに誰一人製作者が同じじゃないって」
「兄妹設定になんでそんな拘っているのか理解に苦しみますよ」
なんて様子でお義父さんは樹と話をまとめておりました。
それから数日後の事ですぞ。
村の工房にお義父さんが呼び出されたそうなので俺も同行しました。
ライバルもふらふらと飛んでついてきております。
「樹、なにかあったの?」
「ああ、尚文さん」
すると工房の台にラフえもんが横たわって所々バラされており、フィロ子ちゃんとラフミがガチャガチャと何やら弄っておりました。
「な、なにやってんの? やらかし? 樹……嫌だからってラフえもんを壊すなんてどうかと思うよ?」
確かに分解しようとしているようにしか見えませんぞ。
「違いますよ。なんでも彼女達の話だとラフえもんさんのバージョンアップ手術をするとの話なんです」
「そうだっきゅ」
「その問いに肯定する」
「どういうこと?」
「その辺りの改修をもうするなの?」
ライバルが早くないか? と、ばかりに尋ねるとお義父さんがライバルにも疑問の眼差しを向けました。
「ラフえもんは前にも言った通り転生者が作った刺客なの。しかも自爆させる事を前提にかなり適当に作ったから耐久年数が考慮されていないなの」
「つまりすぐに壊れちゃうって事? 杜撰なのか、鉄砲玉に力を入れたくなかったのか……」
「転生者は能力頼りの怠け者が多いから発明品が杜撰なのが多いなの」
「タクトの製紙技術と同じですな」
文明の後退が目的らしいですからな。
このラフえもんも適当に作られたのでしょう。
「こんな作りじゃ半年活動出来たらいいっ方きゅ」
「良い読みしてるなの」
「ああ、つまりさよならラフえもんは回避できるんだ。よかったね、樹。同人版や都市伝説版みたいな結末にならなくて」
「尚文さんが何の同人版を言っているのか何となくわかりますけど、僕を当事者にしないでください」
「樹は知らないんだっけ? あ、でもこのパターンだと樹がラフえもんの修理をしなきゃいけない展開になるのかな? 延命処置ができるのがわかってるみたいだけど」
「最初のワイルドなおふみだとこの時代の技術で改修していたなの」
「尚文さんが修理ポジションですか。もう尚文さんが世話したら良いんじゃないですか?」
「そこはラフえもんの意志を尊重するよ。で、その改修を来て早々実地してるの?」
キュイイイン……っとラフミがラフえもんの回路を弄りながら頷いておりました。
「そうならないように途中で補修や改修をする予定だったなの。ソレにしても早いんじゃないなの?」
「早いに越したことはない。そっちの方が調整も簡単になる」
「こんな杜撰なのが未来の技術だと言われたらプライドに関わるっきゅ」
「目的は異なるけど二人ともラフえもんの改良には肯定的な感じなんだね」
「そんな訳で事情を説明されてラフえもんさんを手術する事になったんですけど、ラフえもんさんが随分と嫌がりましてね。何故か僕が見守っているなら受けても良いと言われてやむなく見守る事になりまして……」
「彼からしたら樹しか頼れる人はいないんだよ。それだけ信用してるんだから見守ってあげなよ」
「まあ、そうですね」
「ただ、二人とも改修案で喧嘩とか……しそうでしないね」
お義父さんの問いにフィロ子ちゃんとラフミがこちらを見て頷きました。
「設計図の段階で話し合いを行った」
「そうだっきゅ。そもそも基本的には何をやっても元が悪すぎてバージョンアップするっきゅ。ただ、盾と弓の勇者に聞いておいた方が良い事はあるっきゅ」
「何?」
「なんですか?」
「耳は取るっきゅ? 今ならフィロリアルに耳を齧られて無くなったって過去設定にして外せるっきゅ」




