コードネーム ラフ3
「まー……元康くんの所でフレオンちゃんと遊んでいるくらいで良いんじゃないかな? それとガエリオンちゃん、しっかりとフィロ子って子に関して調べてほしいな。ラトさん辺りにも声を掛けてね」
「わかったなの」
「これでうまく話が纏まった感じかな。ただ、なんだろうね。タイムマシンが無くて未来で樹とリーシアさんを消そうとしたって言うとさ、どっちかと言うと」
「尚文さん、それ以上は言わないでください。僕だって心当たりが――」
という所でバチバチと音が聞こえてきました。
「……なんなの? この立て続けに起こるのは。今日はタイムゲートが開いてる都合の良い日とかなわけ?」
「たぶんそうなんじゃないですか?」
「間違いないっきゅね。でもフィロ子達以外で何が来るっきゅ?」
と警戒をしますぞ。
すると家の屋根の上からこちらを見下げる奴が現れました。
「えーっと……」
現れたのはラフえもんと名乗る奴を少しだけ小さくして後頭部にリボンを付けた存在でしたな。
「……」
どことなくラフ種ともラフえもんとも異なる雰囲気を宿している気がしますぞ。
目が何となく赤く発光して見えますぞ。
そのリボンを付けた中型ラフ種っぽい奴は屋根から周囲を見渡しております。
まるで何かを探しているかのようですぞ。
そしてそいつは錬に一旦視線を向けたかと思うと再度周囲を見渡しておりました。
「また何か来たね。ラフえもんによく似てるけど、ガエリオンちゃんは知ってる?」
「ちょっと変化がありすぎて困惑してるなの。あれも知らないなの」
「うーん……確実にラフえもんの関係者なんだろうけどさ。あれもゴーレムなのかな?」
「なの。生き物ではないなの。ラフえもん達の類型で間違いないなの……ただ、なんか感覚に覚えが……なの?」
ライバルが首を傾げていますぞ。
「ナオフミちゃんナオフミちゃん、賑やかね!」
「そ、そうだね。賑やかすぎる感じがするね。ちょっと危ないかもしれないからサディナさんはラフタリアちゃん達の方に避難してて」
「わかったわー」
お姉さんのお姉さんがお姉さん達の方へノシノシと行ってしまいましたぞ。
「お前は何者だっきゅ!」
フィロ子ちゃんが聞きますぞ。
「私のコードネームはラフミ。それで良いかフィロ子」
「きゅ……」
「お前と同じくラフえもんの妹という設定だ」
やはりそうなのですな。
きっと使われている部品も形式番号も製作者も違うのですぞ。
「まあ……なんていうか、あっちの方がラフえもんの直系な感じの妹だよね。フィロ子ちゃんの方がスペックが高いかと思ったけど……二人より性能高そう」
「酷い! どうしてぼくはポンコツ扱いなのー!?」
「ポンコツだ。お兄ちゃん。適当に作られた哀れな刺客、後で相手をしてあげるから今は動くな」
「あ、フィロ子さんよりはしっかりお兄ちゃん呼びしてますね。良かったですね、ラフえもんさん」
「嬉しくないよ、いつきくん!」
「ぐぬぬ……フィロ子の方が上っきゅ!」
「そもそも何が目的だ! いつきくん達に危害を加えようというなら指一本触れさせないぞー!」
「転生者が作った更なる刺客ですか? ラフえもんさんが頼りにならないという事で」
「その問いに否と答えよう」
違うのですかな?
未来から送られてくる魔導ゴーレムとやらは色々と複雑ですな。
「あれは何キャラなんだろう……ラフミちゃんってちょっと不愛想だね。フィロ子ちゃんもそうだけど」
「失礼っきゅ! フィロ子は愛嬌があるっきゅ!」
「いや無いと思うよ。五話くらいで存在ごと消されそうだし」
「盾の勇者、酷いっきゅ!」
「尚文さんも結構毒舌ですよね! あなたも人の事を言えませんよ!」
お義父さんに失礼ですぞ!
ですがフィロ子ちゃんのデザインは良いですぞ。
「んー……元康くん、フィロ子ちゃんにフィーロって子にやったスキンシップをしておいて」
「わかりましたぞ! フィロ子ちゃーん!」
「きゅー!? やめろっきゅー!」
親愛の情ですぞ!
フィロ子ちゃんがじたばたしてますぞ。
「お兄ちゃん、貴様の任務と私の任務はぶつからない。弓の勇者など、私からしたらどうでも良い」
「どうでも良い言われましたよ。これだけ厄介な刺客が二体も来たというのに」
しかし、樹は少しホッとしていますぞ。
「弓の勇者、お前もじっとしていろ。覚醒はさせない」
「ああ……味方なんですか」
「なんかフィロ子ちゃんとは敵って感じっぽいなー」
「きゅー!」
「フィロ子、邪魔をするなら容赦はしない」
「えっと、君の任務って?」
「なんですかな?」
「ええ、話を聞かねばこちらも対応のしようがないですよ」
「……」
屋根から降りて地面に着地したラフミとやらはゆっくりと俺達に近寄りますぞ。
まるで眼中にないかのような顔に見えますな。
「何なんだ」
そう錬がつぶやくとラフミは錬の方を見て言いますぞ。
「私は先ほども述べたがコードネーム、ラフミ。私は闇聖勇者に目覚めてしまったドクターアゾットが我に返った時にコツコツと積み上げて作られた人工知能が長い時を掛けて研究に研究を重ねて作られた者だ」
「……」
視線が一気に樹から錬に移りました。
錬は凄く気まずそうな顔をしておりますな。
「どこかで聞いたような話なの」
「そうですな」
具体的には最初の世界のお義父さんが作り出したお姉さんを元に作り出した生き物ですぞ。
「それって前に元康さん達が言っていた最初の世界の尚文さんがおかしくなった時の出来事に似てるじゃないですか!」
「最初の世界のラフ種の完成形であるラフちゃんの話と似てるなの。それと同じなの?」
「制作者亡き後を人工知能が引き継いだというのは同じだろう……」
という所で錬の目がめちゃくちゃ泳いでいますぞ。
「闇聖勇者に目覚めるね……ドクターアゾットさん、あなたも抗えなかったんですね」
「う、うるさい!」
「ラフえもんの妹はフィロ子一体じゃない。ここにもいたという事だ」
と、ラフミとやらは背中を見せて振り返り気味に言いました。
なんか決めポーズっぽい所が錬が作ったというのに納得できますぞ。
それを聞いた錬がなんとも言えない感情を抱えた表情になっていますな。
実に無様ですぞ。
「あのさー……錬、樹、元康くん」
「俺達の所為か!?」
「知りませんよ! 半分くらいはあなたが原因じゃないですか! これ以上オタ知識で増やさないでくださいよ!」
「未来ネタですかな?」
よくわかりませんぞ。
俺はループ知識しかお義父さん達には言っておりません。
「元康くんは知らないのかな?」
「知っていてもパッと出てこないだけなんじゃないですか?」
「むしろ樹の世界にもあるんだね」
「異能力で物真似する方がいる位には有名ですからね。むしろ尚文さんのセリフからあのセリフを言わせたとかじゃないですか? 錬さん」
「知らん!」
「というかアゾットって……」
「……」
お義父さんの視線に錬が顔を逸らしましたぞ。
「なんでしたっけ? 聞いたような気がするのですがパッと出てこないですよ、尚文さん」
「ああ、アゾット……アゾートとも言うのだけど錬金術師パラケルススが持っていたと言われる剣の名前だよ。色々と逸話があるんだけどね」
「錬金術師ですか……なるほど、錬さん自身と剣と言う所から来るネタだったわけですね。闇聖勇者という直球よりはセンスがあるんじゃないですか?」
錬から錬金術、そこから段階を踏んだネームなのですな。
「ただ、ドクターアゾットってどんなネーミングなんでしょうか」
「俺も似た感じでおかしくなった時があるらしいからね。これもある意味、武器の何らかの干渉かもね」
「尚文の時はどうだったんだ! ガエリオン!」
「ガエリオン、最初の世界の尚文がおかしくなった時にはいないなの。又聞きしか知らないなの」
「元康!」
「お姉さんへの愛に燃え上がっていたお義父さんですぞ。一人称はワシでした」
今にして思えばとても仲良く出来そうなお義父さんでした。
フィーロたんもお義父さんの笑顔を守りたいとおっしゃっていましたからな。
ただ……確かに何か間違っていたというのもわかりますぞ。
「世界征服を語っておりました。腐った連中を駆逐して波に挑むつもりだったようですぞ。俺も途中まで協力しました。錬と樹に俺の出世のために倒されてくれと言ったのが懐かしいですな」
「ふざけるな、元康!」
確かあの時の錬も同じように返してきましたな。
「それを聞いて俺達はどう答えれば良いんだ!」
「今でも大して変わらないでしょう、あなたは!」
錬と樹のツッコミが強いですぞ。
「ただ、尚文さんが又聞きだと間違っているのかよくわからない感じですね。ラフタリアさんに対して熱を持っていたようですけど、基本的に他の世界の尚文さんはそんな感じじゃないですか」
「ちょっと察しづらいね……ともかくラフミちゃんの方は錬が大本を作った感じか」
「なんかどんどん制作者のスペックが上がっているような……フィロ子さんの制作者次第ですが」
「くっ……勇者が作った……では一歩負けるかもしれないけど、フィロ子が最新ゴーレムっきゅ!」
「拘るのそこなんだ。ただ、ラフミちゃんは君じゃなく誰かを探しているようだけど……」
「ミツケタ……」
そこでラフミを名乗る魔導ゴーレムは不気味な声を上げました。
「私の最優先目標は……貴様だ!」
そう言いながらラフミを名乗るゴーレムは……錬を探してぶらついていたブラックサンダー目掛けて高速移動で接近し始めました。
「な、なんだ!? マジやべぇ!?」
ブラックサンダー目掛け、ラフミと名乗るゴーレムは腕の形状が剣に変わりブラックサンダーに向かって切りかかりましたぞ。
「液状化してる!? リキッドメタルって奴!? ちょっと待って!」
シュンシュンと何度も高速でブラックサンダー目掛けた凶刃が振るわれブラックサンダーが驚きの表情で辛うじて回避していますぞ。
「ブラックサンダーに何をするのですかな! 許しませんぞ!」
「私の目的はブラックサンダーの抹殺! それこそがドクターアゾットの宿願!」
「うわあああ!?」
ブラックサンダーが命の危機を感じて声を上げながら逃げますぞ!
「ニガサナイ……」
「ギャアアアアアア!」
コウのような声をブラックサンダーは上げておりますぞ。
「やっとまともな未来からの援軍か!」
錬が拳を握っておりますぞ!
何を期待しているのですかな!
お前が原因ですぞ!
「完全に殺し屋だ! ラフえもんやフィロ子ちゃんのとはタイプが違う! いや、ラフえもんも鉄砲玉だから同じなのかな!?」
「騙されて送り出されたラフえもんさんとは違って完全に殺意マシマシですよ! 未来から暗殺マシ……ゴーレムです!」
「溶鉱炉にドボン!」
お義父さんと樹が驚愕した様子でしゃべり続けております。
「とにかく処分ですぞ! グングニルⅩ!」
俺の投擲した槍がラフミというゴーレムに命中し飛び散りましたぞ!
やりましたな!
「あー! せっかくの味方が……元康、何も壊す事はないだろ!」
「何を言うのですかな! フィロリアル様の敵は俺の敵なのですぞ!」
ブラックサンダーはフィロリアル様ですから絶対にお守りするのですぞ。
「まあ……これはしょうがないよね。完全に分かり合えそうにない殺し屋だったみたいだし……」
「それで終わりか……?」
という声が響きました。
すると……どこからともなく何事もなかったかの様にラフミは現れて、俺へ挑発的な顔を向けました。
「お姉さんが得意としている幻覚か何かでしょうが、終わりではないですぞ! エイミングランサーⅩ!」
ラフミに連続攻撃を仕掛けてやりますぞ。
雨の様に槍を降り注がせて今度こそ木っ端微塵ですぞ。
「ブラックサンダー、逃げるのですぞ! リベレイション・プロミネンスⅩですぞ!」
幻覚で隠れていようとも一網打尽で仕留めてやるのですぞ!
「あ、槍の勇者――」
ライバルが何か言っていますが聞くよりも先に殲滅ですぞ!
ブラックサンダーが急いで逃げるのを確認してからトドメの魔法をぶちかましてやりましたぞ。
高温の俺の炎がラフミを焼き尽くして蒸発させてやりました!
確かな手ごたえはありましたな!
「ちょっと! 村の目の前でどんだけ本気でやるの!」
「申し訳ありません、お義父さん。ですが奴は倒しました」
「あわわ……」
「勇者、果てしないっきゅ……」
ラフえもんとフィロ子ちゃんが驚いたような声を上げてますぞ。
「ブラックサンダーを殺そうとする物騒な方でしたからね。これもしょうがないです」
フレオンちゃんも賛同してくださっております。
これは正当な防衛なのですぞ。
「だから……それで終わりか?」
「何!? ですぞ」
ポンと何事もなかったかのようにラフミが姿を現しましたぞ。
どう言う事ですかな!
「だから話を聞けなの! あれは地脈に憑りついて再生能力を得ているなの! 分類でいえば土地に根付く精霊、チョコレートモンスターの特徴を宿しているなの!」
チョコレートモンスターですかな!?
あのライバルのボディになったりお義父さんを追いかけ回したアレですぞ!
確かに錬はチョコレートモンスターとの接点が多いですが、なんてものを組み込んでいるのですかな!
「なおふみ達風に言うならリポップ能力を持っているなの!」