未来の魔導ゴーレム
「うぐ……」
お姉さんのお姉さんとパンダのお腹が揺れ続けておりますぞ。
「ラーサ、勇者様の子供を産む大任を仰せ使ったんだから身命を賭して挑むのよ」
「エルメロ……あんたら覚えてなよ」
パンダがお義父さんやゾウに呪詛を吐いてますぞ。ここはゾウを助けるべきでしょうかな?
ですが助けずにいてもゾウには悪い結果にはならないような気がしますが……。
確かお姉さんのお姉さんが縮小薬という薬を探しておりましたからな。
「なおふみの場合は亜人獣人の求める勇者だから相性が良いんじゃないなの? 伝承の通りなの」
「証明したくなかったその事実……この理屈だと勇者に選ばれる資質に種馬とかその辺りも関わってない?」
「あり得るんじゃないなの? ちなみに槍の勇者の伝承は人間の多い国に固まっているなの。いうなれば槍の勇者は人の勇者なの」
なんで歴代の槍の勇者の話をしているのですかな?
「俺はお義父さんとフィロリアル様の勇者ですぞ」
「何を訳の分からないことを……ちょっと錬さん! 何話題から距離を取っているんですか!」
「俺を巻き込むな!」
「確かに錬も樹も他人事にできない話だよね! 逃げても良い話じゃないよ!」
お義父さんが必死に錬に注目を集めさせますぞ。
「そもそも尚文さん! なんで僕と錬さんだけなんですか! 元康さんもですよ」
「そうだ! なんで元康だけ外した!」
「いや、元康くんだよ? まあ……元康くんはいろんな意味で分からないんだけどさ」
「あー……そうですね。無数にいても不思議じゃないですし、逆にいなくても不思議じゃないですよね。ガエリオンさん、その辺りはどうなっているんですか? 人の勇者という事は元康さんは人間の嫁との子供がすごいって事ですか?」
樹の質問にライバルは胸を張り、楽し気な笑みを浮かべながら勝ち誇ったように言いますぞ。
「そこはノーコメントにした方が面白そうなの」
「何が面白いですか!」
「余計な未来の知識ばかり蓄えて来てるだけじゃないか! 俺達で遊ぶな!」
「まあ、ユキもがんばれなの」
ちょっと離れた所でジョギングしていたユキちゃんにライバルが挑発するとユキちゃんが威嚇しながら答えますぞ。
「余計なお世話ですわ!」
「ここは素直に元康くんに聞けば良いような気がするんだけど?」
お義父さんが俺の方を見たので思い出そうとしますぞ。
「曖昧ですな! そもそも俺はフィーロたんとお義父さん一筋ですぞ」
「さっきもだけどなんで俺まで混ぜてるの!?」
「ああ、この人、両方いけそうですもんね。尚文さんも両方に好まれそうですし」
「ワイルドなおふみはガエリオンの弟に好かれて孕まされかけたなのー」
「孕まされ!?」
ズザッとお義父さんがライバルから距離を取りました。
「男なのに孕まされとは……奥が深いですね。元康さんの愛が超越した場合、尚文さんとの子供がこの世界ではできてしまいそうですね」
「樹、そろそろ俺も反撃する事にするよ。俺としては樹の命中の異能が樹の下のマグナムにどれだけ適応するか気になるんだよね」
お義父さんの反撃のセリフにサーっと樹の顔色が青くなっていきました。
「HAHAHA! さすがお義父さんですな! ですが、樹はマグナムではなくニューナンブですぞ!」
「いや、言った俺が言うのもなんだけど、それは言い過ぎなんじゃ……」
「……ニューナン? っ!?」
バンバンバンと樹の有無を言わせぬ銃撃を俺は華麗に回避しました。
最後の一発は仰け反って避けてやりました。
樹程度の攻撃、来るとわかっていれば避けるなど容易いですぞ。
「元康さんは後にして……尚文さん! なんて事を言うんですか!」
樹は俺を無視してお義父さんに叫んでいますぞ。
「もし文字通り百発百中の命中が作動したなら縁談が一番来そうなのは元より、どさくさに紛れて襲えば確実に……勇者の子供は有能らしいしな」
「弓の勇者の伝承だと人間とも亜人とも仲が良いって話が多いなの」
「錬さん! なに僕に注目を集めさせて逃げようとしているんですか! 独り身のあなたこそ一番危ないでしょうが! ガエリオンさん!」
「剣の勇者は……まあがんばれなの。ブラックサンダーが邪魔して守ってくれるなの」
「く……! どこまでも俺の邪魔を……」
錬が悔し気ですぞ。ブラックサンダーに失礼ですぞ。早くフレオンちゃんとブラックサンダーを呼ぶべきでしょう。
そもそも最初の世界の錬もこの辺りは寂しげでしたなーまあ、エクレアと助手が近くにいたのできっと大丈夫だったのではないですかな?
「最後の剣の勇者の伝承だけど、竜帝の記憶の中に剣の勇者と恋仲になったのもいるから剣の勇者ならドラゴンの嫁を探すのも手なの。ドラゴンになった時に親しくなるドラゴンへ仲人してあげるなの。なおふみの子供みたいに元気な子竜が生まれるかもしれないなの」
「余計なお世話だ!」
「ブラックサンダー除けに使えるかもしれないね。フィロリアルってドラゴン嫌いだからさ、ついでに程々にブラックサンダーでは濃すぎる好みの要素を若干低めで付き合ってくれるかも、何せドラゴンだよ?」
「尚文さん! 僕が思っていて黙っていたことを! 錬さんが僕の仲間じゃなくなっちゃいますよ!」
樹が悔し気にお義父さんをにらみましたぞ。
「ふむ……確かに、その手がある、ドラゴンは幻想的で見た目は良いからな……だが」
考え込んでいた錬がライバルを見ますぞ。
「この世界のドラゴンは見た目はかっこよくなるが、中身は変態ばかりだぞ。そんな奴と恋仲……?」
「……何も言い返せないね。ガエリオンちゃん」
「なんとでも言えなのーん」
ライバルの奴、ばかにされているのに全くへこたれてませんぞ。
「勇者達の……種馬考案だねぇ……うぐ」
「ラーサさんは本当に安静にしてね」
「そうよラーサ、盾の勇者様の子供を宿した! ってどこかの種族が命を狙ってくるかもしれないでしょ?」
ゾウが心配そうにパンダに語り掛けますぞ。
「ガエリオンを好きと言ってくれたなおふみの世界でもそういう物騒な話はあったなの。ただ、その時、パンダのお腹の子供が魔法で撃退してたなの。お腹から魔法が走って地面から竹が四方に生えまくってたなの」
「あらー確かにお姉さんが海を泳いでいると近づいてくる魔物にお腹から雷の魔法が出て倒したりするわねー」
プリプリと怒っていた錬と樹がパンダとお姉さんのお姉さんの方を見ました。
それからお義父さんも交じって空を見ますぞ。
「勇者って……なんなんだろうね。化け物を製造する資質を持ってるのかな?」
「わかりませんね……相性って何なんでしょうね。相性が良すぎるとそんな恐ろしい生き物の親になるのですか」
「皆目見当もつかんが……相性の良い奴との子供は恐ろしいな」
「尚文さんと元康さん程わかりやすい勇者ではない僕達が最も怖い話ですね……」
それから数日後ですぞ。
フォーブレイやメルロマルクに大量に勇者の縁談申し込みが来たとの話ですな。
大半が命中精度の高そうな樹を指定していたそうで、樹がどこから情報が漏れたのかを血眼になって探し、犯人を粛正に走ったのでしたぞ。
それはホワイトデーも過ぎたある休日のことですぞ。
お義父さんの配っていた先月のチョコと今月のホワイトチョコは美味しかったですな。
そういえばこの世界ではチョコレートが大事件を起こしませんでしたな、などと考えていたら樹がやってくるのが見えました。
「尚文さん! いえ、ガエリオンさん!」
樹が何やら騒がしい様子でお義父さんとライバルを呼びつけましたな。
俺も向かいますぞ。
するとそこには樹がリースカと一緒に……ラフ種っぽい生き物とおりました。
大きさはクラスアップした際の獣人姿のお姉さんに似た身長ですな。
「この子は? 元康くんがラフ種製造で作った感じ?」
「なんだなんだ?」
錬も騒ぎを聞きつけてやってきました。
当然のことながら村の者達も騒ぎを聞いて集まってきておりますな。
「身に覚えがありませんぞ」
「違うんですか? なんか僕が自室で休んでいたら妙な物音と共にクローゼットから出てきたんですけど……」
「ふえぇえ……」
どうやら樹はリースカと一緒に穏やかな休日を満喫していたそうですぞ。
今日は良い一日になりそうですね~、とかなんとか呟いていたらしいですな。
「こんにちは!」
「人の言葉をしゃべってる? ラフ種って喋らないよね?」
「え、えっと?」
「ラフー」
お義父さんと一緒にいたお姉さんとラフ種が小首を傾げております。
パンダは定期健診に隣町でゆっくりとしておりますぞ。
ちなみにお姉さんはお義父さんとお姉さんのお姉さん、そしてラフ種の献身的なお世話によって徐々に夜泣きが収まりつつありますぞ。
貼り付けた笑みもせず、穏やかな笑いをするようになってきておりました。
錬も樹もその辺りが心配しているようですぞ。
「魔物……かな?」
「ううん、この子、魔物じゃないよ。わたし、わかる」
助手が人語を喋るラフ種を指さして言いましたな。
「ぼく、ラフえもん! 未来の世界で作られた魔導ゴーレムなんだ!」
「……」
この空間を沈黙が支配しました。
やがてお義父さんが天を仰いでから言いました。
「えっと……この子、色々な意味で大丈夫? こう、存在的な意味で」
「ま、まあギリギリ大丈夫なんじゃないですか?」
「それで魔導ゴーレムだっけ? それって魔物とは違うのかな? 生き物じゃないって意味で……けど魔物ってこういうのも該当しようと思えばしそうだけど……」
「なおふみ、あんまり深く考えなくて良いなの」
「ああ、うん……この前、樹からもらった通信バッジのネタ回収って事?」
「確かに便利な道具とか持ってそうですけど、全く関係ありませんよ」
お義父さん達は何の話をしているのですかな?
例の俺にだけくれないバッジの話なのはわかりますが。
「それで、君はどうして過去の世界に?」
「ぼくは未来の世界でリーシアちゃんと結婚した所為で子孫に悪影響を及ぼしたダメダメな弓の勇者いつきくんをリーシアちゃんとくっつけない為に来たんだ」
流暢にラフえもんと名乗る生き物が目的を説明しました。
なるほど、樹とリースカの仲を裂きに来た、と。
「そんな所だろうとは思ったけど、ダメダメって?」
「まず正義に目覚めて色々と活動した初代のいつきくんとリーシアちゃんは良いんだけど、子供達が揃って悪の首領とか悪さをしてね! 結局は裁かれるんだけど借金とか償いとかあって、ぼくの時代にいるいつきくんの子孫でもその賠償を一族単位でしてるんだ」
おや? そんな話聞いた事がないですぞ。
少なくとも樹の子供がその様な輩になったという話は聞いた事がありません。
その後の子孫は知りませんがな。
「正義に目覚めてって……」
「ああ……逃れられない運命だったんだな」
お義父さんと錬が樹を憐れむように両手を合わせて祈るように言いますぞ。
合掌ですな。
「なに同情しているんですか! そんな未来にはなりませんよ!」
「だけど現に未来からこんなのが来ちゃってる訳だしさ……というか、そうならないために子孫から派遣されたって話みたいだね」
「そんな訳だからどうもよろしくね!」
ラフえもんが言い終えるとお義父さんがキラキラした目で樹の方を見て言いました。
「未来の道具とか持ってるっぽいね! 樹! 君ってやっぱりまるでダメな少年だったの!?」
「期待した眼差しで僕をバカにしないでください! 僕はダメな少年じゃない! 何もかもダメってわけじゃないんですから!」
まあ弓の勇者に選ばれている訳ですからな。
全てがダメな訳ではないのは事実ですぞ。
「俺の世界のアニメで樹に似た特徴を持ったキャラクターがいるんだ。射撃が得意という隠れた才能があってね、それ以外はまるでダメないじめられっ子なんだけどさ」
「ふぇえええ! イツキ様はダメないじめられっ子じゃないですよぅ……」
リースカが訂正していますぞ。
確かにリースカは樹に助けられたので否定するでしょうな。
最初の世界とは異なり、ちょっと後の回収でしたがな。
この件で前に撃たれた事があるので黙っていてやりましょう。
「そういえば尚文さんはそういった似たキャラクターを脳裏に浮かべるオタクでしたね。それでラフえもんさん、未来を変えるために何をしに来たんですか?」
「まずリーシアちゃんの記した書記から歴史を紐解くと、いつきくんはどうやらとあるフィロリアルの歌によって正義に覚醒するって話なんだ。いつきくん特有の因子だったらしいね。だから……」
フレオンちゃんの事ですかな?
ラフえもんは胸元の毛をゴソゴソと弄ったかと思うとハンペンみたいな物を出しました。
「おんいきせいぎょみみせん~ヒーローソング~」
「ちゃちゃちゃちゃーん!」
お義父さんがテンション高めに効果音を口ずさみました。
「ちゃちゃちゃちゃーん!」
俺も真似ですぞ!
「ちゃーん!」
錬も乗りに合わせました。
ついでに軽く閃光剣を放って、アイテムを強調させていますぞ。
「パンパカパーンなのー」
ライバルが面白くない効果音を口ずさみましたな。
「あなた達は!」
樹が不愉快そうに俺達を睨みますぞ。
まったく怖くないですぞ。
「このみみせんを耳につけてごらん。これでフィロリアルの歌で正義に覚醒することはなくなるよ」