チェンジ・ドライブモード
「後はユキ――」
「ユキの出番ですわね! サクラの抜けた穴を埋めるのですわ!」
「のために作った槍の勇者用のコンパクトなの」
ライバルは俺にコンパクトを投げ渡しましたぞ。
ズルっとユキちゃんが見事に転びましたな。
どうしたのですかな?
「コントでしょうか? 見事にユキさんが外しましたよ?」
「お笑いの練習かい? ゼルトブルの劇場にでも行けばいいんじゃないかい?」
「あそこねーちょっとよくわからない冗談が多いのよねー」
「内輪受けをし過ぎなのは否定しないねぇ」
何やらパンダがお姉さんのお姉さんとゼルトブルの店の話をしているようですぞ。
やはり顔が広いですぞ。
「ガエリオンちゃんも狙って言ってる気がするね」
「早とちりはだめなの。ユキにとって衣装よりもきっと喜ぶ代物なの。ほら、槍の勇者、お前も変身なの」
「え? 元康くんがメルフィロ化するの?」
そうかー、男でもメルフィロになれるんだなー、とお義父さんが時代を感じる様な口調で呟いておりますな。
「美形ですからドレスを着ても違和感はないかもしれませんよ」
「樹が言ってもなぁ……君と錬もなんだかんだ似合いそうだよね」
「尚文さんが言うんですか?」
樹の返事にお義父さんが眉を寄せますぞ。
「俺のどこに美少女要素があるわけ?」
お義父さんは確かに美少女要素があるか無いかといえばあると思いますぞ。
色々と家庭的なところがありますからな。
「外見はともかく、まず料理が上手な所と女性よりも遥かに思いやりがある所でしょうかね。あなたより女らしさが足りない女性は多いと思いますよ」
「樹……あのねぇ……」
「錬さんも前に言っていたじゃないですか。女だったら惚れていると」
「あらーナオフミちゃん、モテモテね」
お姉さんのお姉さんも同意しているのか微笑んでおりますな。
「まったくうれしくないけどね」
「きっとユニコーンのいる森とかに連れて行けば群がってきますよ」
「ま、間違いねぇなの! ワイルドなおふみがとある地方に行った時に集まってたなの! なおふみ、はんぱねぇなの!」
「そこ! 証明しない! 処女に惹きつけられるユニコーンに群がられてもうれしくないから! 後、なんで少し動揺してるの?」
「さすが盾の勇者様?」
お姉さんがラフ種を抱き上げて小首を傾げてお義父さんに聞きますぞ。
「いや……俺としてはそういう要素はどうかと思うんだけどね」
「でも盾の勇者様、お母さんみたいにやさしい人だよね?」
「あー……」
「あらー、それじゃあお姉さんはラフタリアちゃんのお父さんかしら?」
「え? うーん……?」
俺の記憶の中のお姉さんが「何言っているんですかサディナ姉さん!」と注意する瞬間だと告げてますぞ。
「ナオフミちゃん、お姉さんは旦那さんとして働きに出るのが良いのよね」
「いや、今のサディナさんにそんな仕事をさせるわけには……」
「いやーん。お姉さんも漁がしたいわー」
ちなみに村の漁を担当しているのはお姉さんのお姉さんですぞ。
漁師なのでたくさん魚を獲ってきてくださいますぞ。
「……話を戻すけど、本気で元康くんをドレスアップさせるの?」
「女装ですかな? 昔やった事がありますぞ」
祖母の遺言を守る為、とある豚学園に男なのにしばらく転校させられたのですぞ。
その際に女装させられましたな。
ちなみに豚には何匹かばれました。
それ以外の豚にはお姉さまとか呼ばれましたな。
「あるんだ……」
「元康さんの遍歴もかなり謎が多いですよね。この前、別の周回で尚文さんが強い興味を持ったって言いながら高校時代の髪型のカツラを被って再現してましたよね。まだ隠している遍歴がありそうです」
心外ですぞ。
樹は俺を何だと思っているのですかな?
「そういうのじゃないから安心しろなの。槍の勇者の場合はチェンジ・ドライブモードと言いながらこのコンパクト型アクセサリーをベルトに装着すれば良いなの」
「あ、それコンパクトじゃないんだ? ベルトって……なんか展開が読めた気がする」
「なんでライバルの言う通りにしないといけないのですかな?」
「もとやすさん! 何事も挑戦ですよー! フレオンももとやすさんの変身を見たいです」
ユキちゃんの為であり、フレオンちゃんも見たいのですな。
ではやるしかないですぞ。
「わかりました! ユキちゃん、フレオンちゃん! 俺の変身を見るのですぞ! チェンジ・ドライブモード!」
ライバルに言われるままに腰のベルトに装着しましたぞ。
するとベルトにつけたコンパクトだと思っていたアクセサリーが光り輝きながら回転して俺を包み込み、全身甲冑のような物が展開されましたな。
光が収まったので荒ぶるフィロリアル様のポーズを取りますぞ。
「シャキーンですぞー!」
「シャキーンですね!」
フレオンちゃんも併せて決めポーズですな!
「あーメタルなヒーロー系かな? レンジャー服とは異なるね」
「後はそこからドライブモードをやってみるなの」
「面倒ですな。ドライブモードですぞ!」
いわれるままドライブモードになってやりますぞ。
「お? なんか普通にバイクっぽい」
「衣装で随分と違和感といいますか、奇妙な姿が緩和されるんですね」
「うん、これならかっこいいと感じる人も居るんじゃない?」
「これは……良いですわ!」
「素敵です!」
ユキちゃんとフレオンちゃんの目がキラキラしてますぞ。
お義父さん達の反応も上々ですな。
「フィーロに嫌われる原因の半分くらいはドライブモードだと思うなの。それの緩和策なの」
聞き捨てなりませんな。
ドライブモードは嫌われていませんぞ!
実際ドライブモードを見せるとフィーロたんは走っていくのですぞ。
あれは喜びの走りですな。
「では試運転なの」
当然のようにライバルが俺の腰に乗りますぞ。
「降りろですぞ! ブルンブルーン!」
俺は走り出してウィリー走行でライバルを振り下ろそうとしますぞ。
ですがライバルのやつ、しぶとく俺の背中に引っ付いて離れませんぞ!
「おおー……なんかじゃじゃ馬なバイクって感じで印象が落ちないね。乗り手を選ぶ的な感じにも見えるし」
「不思議なものですね。メカニカルにするだけであれだけ違和感が無くなるなんて」
「人間はバイクにならないって事なんだろうねー……」
「元康様ー! ユキも一緒に走りたいですわー!」
お! このループでは遠慮がちなユキちゃんが一緒に走ってくれるそうですぞ。
なかなか良いですな!
キキー! っとお義父さんの近くで急ブレーキですぞ。
「サクラちゃんの件はともかく、ガエリオンちゃんも中々の仕事をやるね」
「なの! 見るに堪えないから解決策を模索したなの」
「もとやすさん! これで正義の戦隊ができますね! メルフィロ戦隊ができますよ!」
「サクラちゃんが抜けちゃってるけど? 絶対にやらないと思うよ? そもそも元康くんが乗り物枠? あ、補充要因はユキちゃんかな?」
ユキちゃんもですな。
「追加人員でイミアお姉ちゃんのも作るか考えるなの」
「え? イミアちゃん?」
「あれですね。イミアさんの場合は変身すると亜人姿になるんですね。そうすればイミアさんも喜ぶでしょう」
「いや、なんで?」
お義父さんが眉を寄せつつ首を傾げますぞ。
「あらーそんなのイミアちゃんの悩みに決まってるじゃないの、ナオフミちゃんったらー」
「あー……弓の勇者、そっち路線はねえなの。なおふみは外見で相手を決めたりしない、心を求める勇者だから気にする必要ないなの」
「ガエリオンちゃん? 何を言ってるのかな? なんで俺の好みに話を運んでいくわけ?」
お義父さんが敢えて尋ねるように聞きますぞ。
「さすが亜人獣人の勇者ですね。あなたのそういう所は素直に尊敬していますよ」
「樹、何がさすがなのかな? 錬と樹もチェンジ・ドライブモードした挙句三体合体してドライブロボにでもなるかい?」
ふむ……子供の頃に見た、スーパーロボットという奴ですな。
俺がドライブ1で錬がドライブ2、樹がドライブ3という事になると言った所ですかな?
子供の頃の記憶を再現するなら合体する方法で外見と得意とする地形が変わるのですぞ。
ですが、錬と樹程度では足手まといなのではないですかな?
「尚文さん、照れ隠しという事にしておきますよ」
「皮肉のつもりだったんだけどね……まあいいか。やらないだろうけど、実際にやられたら困るしね」
「後はリーシア用に作るなの」
「なんでですか? 確かにリーシアさんも正義が好きになるそうですけど……」
今度は樹がライバルに尋ねますぞ。
「リーシアが槍の勇者と会話する方法が着ぐるみ着用なの。なんでもリスーカの着ぐるみをきてリースカになるそうなの。フレオンと弓の勇者が正義活動した際の仲間らしいなの」
「こ、これは断るべきでしょうか……ですがリーシアさんが元康さんと会話できれば何かあった際に……」
「返答に悩む案件だね、樹……」
「後は……」
お義父さんが助手から預かったコンパクトを出し、周囲を警戒しながらコンパクトに語り掛けますぞ。
「ジャックさんでしたっけ?
あなた、もしかして親の方のガエリオンさんですか?」
『……娘が憑依している我をどうやったのかわからん強力な魔法と力で引きはがし、気が付いた時にはこんな姿に……』
「もはや娘さんの方が上手ですね」
「ガエリオンちゃんも……いや、孵化する前に寄生した方も問題ありか」
「一応竜形態にも練習すれば成れるなの。お父さんはそうやってお姉ちゃんのお守りをするのにぴったりなの」
なのなの! とライバルは不敵に笑ってますぞ。
『く……この我が下克上されるなんて!』
「実年齢はループを重ねたせいですでに年上になってそうですよね」
「年上の娘という珍妙な状況だね」
お義父さんが何やら同情のまなざしをコンパクトに向けておりましたぞ。
ライバルの親などどうでも良いのではないですかな?
「ブルンブルン、我ら高速戦隊が行くータイムドライブ、時を駆けー」
「あ、ああ……ううううう。そんな!? フレオンさんの歌がまた……」
ブンブンと樹が頭を振って耳に手を当ててその場から逃げ出してしまいましたぞ。
「フレオンちゃんのテンションアップで歌がパワーアップしてしまったって感じか……錬も樹もラフ種製造賛成したから同情するか微妙だけど苦労してるなー……」
「ラフー」
「ナオフミちゃんもこの子とラフタリアちゃんでそうなるのかしら?」
「それは嫌だなぁ……とは思うけど、これと言って何か感じるってわけでもないような気がするんだけどなぁ……」
お義父さんはラフ種をマジマジと観察し、軽く撫でてからお姉さんに渡しますぞ。
お姉さんもなんで渡されるんだろうって顔をしておりました。
ともかく、不服ですがユキちゃんが一緒に走ってくださるようになりました。
「ではセカンドモードに入りますぞ! ライバル降りろですぞ!」
暴れてライバルを振り落としてセカンドモードになりますぞ。
微妙にやりづらいですな。
「あ、そっちには対応して無いなの! やめろなの!」
「うわ! 仰向けスタイル!?」
お義父さんがザザッとなぜか後ろ足を踏んでいますぞ。
「セカンドモードですぞ! お義父さん、こっちですぞ」
「いや、割と本気でそれには乗りたくない。乗りながら俺に何かしそう。ハンドルが恋人つなぎとか勘弁してよ……」
俺がお義父さんに何をするのですかな?
ユキちゃんとの楽しいドライブですな。サクラちゃんともやりたいですぞ。
できれば変身してフィーロたんになってほしいですな!
「あらー……」
「盾の勇者は大変だねぇ」
「ちなみに勇者の技能には騎乗もあるからサディナもパンダもなおふみを背中に乗せればパワーアップなの! ガエリオンの背中にも乗って良いなの。あ、セクハラじゃないなの」
「ラーサさんがドライブモードできればまだマシかもね」
「なんでアタイはマシなのか問い詰めたいねぇ」
「そりゃあ遊園地とかにある乗り物が……おっと」
パンダが拳を鳴らしていました。
「ではお姉さん達が乗りますかな?」
「ラフ? ラッフー!」
お姉さんとラフ種に顔を向けるとお姉さんがお義父さんのように数歩下がって絶句するような顔をしております。
恥ずかしがりやですな。
逆にラフ種は俺の腹に乗っかってハンドルを持つポーズをして座りました。
相変わらずノリが良い魔物ですぞ。
手は届いていませんがな。
「この子は肝が座っているというか、なんでも楽しんじゃう子なのかな?」
「ラフー」
「ガエリオンの知る奴の中で一番動じないのは否定しないなの」
なんですかな?
まるで俺がみんなを驚かせているような言い方ですぞ。
「とにかく、槍の勇者、セカンドモードは諦めろなの! 需要は無いしユキも引いてるなの」
「そうなのですかな?」
「ち、違いますわ! 例え何があろうともユキは元康様と共にいますわ!」
「ユキちゃん、無理しなくていいからね」
「ほらライバル! ユキちゃんは喜んでくださいますぞ」
「褒めるともっと奇怪になっていくなの。甘やかしちゃダメなの」
ライバルがため息をしていますぞ。
失礼なのはお前ですぞ!
なんて感じにライバルの作ったおもちゃは配られていったのでしたぞ。
なお、サクラちゃんはコンパクトを使って下さいませんでした。
しかも少しの期間、俺を避けていました。
しばらくしたら元通りになりましたがな。
突然フィーロたんに会えたので暴走してしまいましたが、冷静に考えたらサクラちゃんはサクラちゃんなのですぞ!
ライバルめ!
サクラちゃんに俺を嫌わせようとは……危ない所でした。
酷すぎますぞ! 絶対に許さないですからな!