壁に耳あり
「ガエリオンちゃん、ラフタリアちゃんの毛を取って行ったって話だけど何をするつもりだったのか教えてくれない?」
「なおふみのお気に入りの生物、ラフ種を槍の勇者に作らせようとしていたなの。必要なことなの」
「えっと……俺のお気に入り?」
「そうなの。最初の世界のワイルドなおふみがおかしくなった際に作り出した生き物で、元に戻っても気に入っていて、他のループでも作ると気に入る生き物なのー」
「いや、その材料がなんでラフタリアちゃんの髪の毛なわけ?」
「そりゃあラフーの毛を元に作り出すからなの。だからラフ種って呼ばれてるなの。あ、亜種にターリー種とかリア種とかいるなの」
ここで突如、樹が姿を現しました。
隠蔽系のスキルを使っていましたな!?
「壁に耳あり障子に目あり」
「樹……なんで?」
「そりゃあ何かあるのかと思って聞き耳を立てていたからです。隠蔽スキルが元康さんだけの専売特許じゃないという事ですよ」
「俺は君がなんで隠蔽スキルを使っていたかについて尋ねたつもりだったんだけどね……」
「そんなのフレオンさんから逃げていたに決まっているじゃないですか。そこで面白そうな光景を目にしましてね」
まあ俺が使うクローキングランスは聖武器によるものですからな。
スキルを取得した勇者なら同様のスキルを使えるはずですぞ。
しかし、樹のこの態度は何なのですかな?
そういえばフレオンちゃんも色々な所に飛び回って様々な人と交流していましたな。
樹とフレオンちゃんの相性が良いのは事実なのでしょう。
「それでガエリオンさん、そのラフ種というのは尚文さんがそんなに気に入る生き物なんですか? 常軌を逸脱する程にですか?」
「確かにワイルドなおふみは病的に気に入って撫で回すようにはなったなの」
「僕は作成に賛成ですね。錬さんにも聞きましょう。きっと賛成してくださるはずです。ガエリオンさん、こういう時はとりあえず数を集めるんですよ」
ライバルの返事で樹が満足そうにお義父さんの方に顔を向けて挙手しました。
「あらー」
樹が胸元からバッチを取り出してボタンを押して言いました。
「もしもし、錬さん? こっちに来てください。今、面白い事になっていまして」
「何その少年探偵が持ってそうなアイテム」
「色々な技術者とコンタクトを取りましてね。村くらいの範囲なら音声通信ができるんですよ」
「妙な物を持ってるね、樹と錬は……」
そうですな。こんな道具をどこで手に入れたのですかな?
しかし、この村の範囲内となると微妙な範囲ですな。
やがて錬もどこからともなく突然姿を現しました。
「どうした? 面白い事とはなんだべさ」
「本当に来たね……というか、その口調を続けるんだ」
相変わらず格好悪い姿をしておりますぞ。
しかも隠蔽でブラックサンダー達の目を抜けるとは……酷いですぞ。
ブラックサンダーが泣いてますぞ。
「後で尚文さんにもあげましょう。何かあったら連絡をください」
「ああ……うん。わかったよ」
「俺にはくれないのですかな?」
「あなたにあげたら僕達の居場所を漏らすでしょう。あなたにだけは渡しませんよ」
樹の対応が辛辣ですな。
俺はフレオンちゃんやブラックサンダーに錬と樹の居場所を教えたいだけですぞ。
「それで?」
「ええ、なんでも尚文さんを洗脳できる生き物を作り出せるそうです。作るかどうかを話しています」
「そうか、賛成だな」
「あのねー……」
「僕達は仲間が欲しいんですよ。尚文さん、あなたも洗脳の恐怖を知るべきです」
「そんなこと言われてもなー……仲間にしようとするのはやめてほしいんだけどなー……」
お義父さんもやる気がない感じですな。
作る必要はないのではないですかな?
「そう言わずに作ると良いなの。なおふみ、作ればラフーの夜の問題を手伝ってくれるなの」
「あー……そっち方面の役に立つの?」
お姉さんは寝ているとトラウマで叫ぶ状態が抜けてませんからな。
毎晩お義父さんやお姉さんのお姉さんが代わる代わる世話をしておりますぞ。
「なの」
「うーん……」
「別にラフーじゃなくても似たようなのは作れるからサディナでも良いなの。その場合、サディ種とでも命名すると良いなの。このループだとそっちの方がなおふみが喜ぶかもしれないなの。つるぷにの小さいシャチなの」
「あらーなおふみちゃんどうしようかしら? どちらかといえばお姉さん、ラフタリアちゃんの友達になりそうな子はお姉さんよりラフタリアちゃんの方が好きよ」
お姉さんのお姉さんがさりげなく誘導してますぞ。
「サディナお姉さん!?」
「作るの確定!?」
お姉さんが驚きの声を上げてお義父さんが疑問をぶつけてきました。
「それともなおふみはパンダが良いなの? それはそれでなおふみの好みになりそうなの。それともイミアお姉ちゃんが良いなの?」
「どんなのができるのかわかりませんが、ぬいぐるみみたいな感じでしょうか? タヌキかシャチかパンダかモグラですね」
「だから作る事を確定で話が進んでいるんだけど?」
「良いじゃないですか。そういえば気になりましたけどガエリオンさん自身の遺伝子で作ったりはしないんですね」
「あ、そっちはいろいろと危ないからダメなの」
「何が危ないんですか?」
「そのうちわかるなの。そもそもドラゴンの遺伝子で作るのは槍の勇者が嫌がるなの」
「当然ですぞ」
ライバルを量産なんて死んでも嫌ですぞ。
「ああ、なるほど。納得です」
「だから、なんで作る方向で話が進んでいるの?」
「賛成が多いからです。尚文さん、どれが良いですか?」
「ダメなら俺達が協力しよう。元康にできなくても俺達ならできる。問題はどんな技能が必要なのかだけだ」
「完全に俺を困らせようとしてない?」
「僕達は仲間が欲しいんですよ。元康さんを止めない尚文さんに異議を唱える資格はないです」
「普通あるけどね! まあ良いよ。道徳とか良識に反しない範囲で……生き物を創造するって良い事なのかな?」
お義父さんが疑問を抱えてますぞ。
「あの……」
お姉さんがどうにか間に入って意思表示しようとしております。
「ラフーも安心しろなの! お前の友達に絶対になってくれる生き物になるなの! ガエリオンもなんで名乗らないのかは理解できないけど、そういう奴なの。どのループでも隠れきる事を喜びにしているなの」
ちなみにライバルが後で零したのですが、そのまま復元しても良いはずなのに本人が魔物を望んだとか何か言ってましたぞ。
魂の劣化でそのまま復元すると不具合が起こるとか、完全には元に戻すのは無理とか違和感を持たれるリスクがあるなの、とかぶつぶつ言っていましたな。
「なおふみが決められないなら弓の勇者が決めて良いなの」
「僕がですか? そうですね……サディナさんやラーサズサさんを使用した場合余計な妨害がありそうなので他のループ知識が使えるラフタリアさんが良いと思います。できればサディナさんが良いですが」
「それが無難なの」
「決まったな」
「勝手に決めないでほしいんだけどね」
「後でなおふみにもちょっと理由を教えてあげるから今は話を進めて置くなの」
そんなこんなでやむなくお姉さんの毛髪を元にラフ種を再現することになったのですぞ。
「元康様! 元康様はフィロリアルをこのようにお増やしになりたいのですか? それならユキも提供しますわよ!」
培養中にユキちゃんが興味を持ったのか聞いてきましたぞ。
「槍の勇者の毛髪とミックスしてほしいなの?」
「ド、ドラゴンの要望に応えなくていいですわ!」
「わかりました」
俺とユキちゃんのをミックスした生き物ですかな?
そのような生き物を作るのは冒涜だと思いますぞ。
フィロリアル様は偉大なのですぞ。
とはいえ、ラフ種創造に関して、お義父さんはお姉さんのお姉さんと一緒にライバルが何やら話をしたら一応の理解をして作ることになりました。
バイオプラントが無いのでいろいろと代用しつつ機材を使って完成にこぎつけましたぞ。
もう大分慣れましたな。
「あとはこれなのー」
などと言いながらライバルはお姉さん発見時に作り出した水晶をラフ種にスッと入れましたぞ。
それが必要材料なのですかな?
「完成なの!」
こうしてラフ種が完全再現出来ました。
完成したラフ種を取り出して俺達は村の広場に持っていき、お義父さん達に見せますぞ。
「ラーフー!」
バッと完成したラフ種がライバルの声に応じて両手を広げて鳴きましたぞ。
「ほら尚文さん! あなたの天敵ができましたよ!」
「わー……かわいい感じに出来上がったね」
「ラーフー」
お義父さんがラフ種に手を伸ばすとラフ種は自ら撫でられに行きました。
「かわいいとは思うけど夢中にはなるほどじゃないと思うんだけどなー……ほら、ラフタリアちゃん、君のお友達になってくれる子なんだって」
「ラーフ!」
ラフ種はお義父さんに腋を抱えられて持ち上げられてぬいぐるみを渡すようにお姉さんに差し出しますぞ。
小首を傾げながらラフ種はお姉さんに向かって片手をあげて親しげに鳴いております。
お姉さんは眉を寄せつつ差し出されたラフ種を受け取りました。
「あ、なんか……ちょっとホッとする」
「何かあったら今まで通りに守ってくれるなの。大事にしてあげてほしいなの」
「……? うん」
ぬいぐるみを受け取ったかのようにお姉さんはライバルの言葉に頷いたのですぞ。
「ガエリオンさん、尚文さんが夢中になるのはもう少し時間がかかるということですよね?」
「浸食が始まるのはいつなんだ?」
「樹と錬は後でじっくり話をしようか? 具体的にはフレオンちゃんとブラックサンダーと数時間同じ部屋にいてもらおうかな」
おお! あれですな!
洗脳されないと出られない部屋ですな!
錬と樹が闇聖勇者とフィロリアルマスクV3になって出てくるのですぞ。
「鬼か尚文!」
「そうは問屋が卸しません! 全力で逃げ切って見せますからね!」
バチバチとお義父さんと錬と樹がにらみ合いを始めましたぞ。
俺も参加する時でしょうな。錬と樹をパラライズランスで生け捕りにしてフレオンちゃん達に差し出すのですぞ。
俺が槍を振り上げて樹に狙いを定めようとするとバシっと手を撃ち抜かれましたぞ。
「あいた!? ですぞ!」
「元康さん、貴方は殺気が漏れてますからね!」
「ああ、俺達は尚文が覚醒する時を観察してから逃げる!」
く……地味に隙が無くなりつつありますぞ。
どうしたらフレオンちゃんの望む樹にできますかな?
力づくで黙らせるのが速そうですぞ。
「元康くん、無理強いはダメだからね。フレオンちゃんもそんな無理やりは喜ばないと思うな」
うっ……お義父さんに注意されてしまいましたぞ。フレオンちゃん……俺がどうにかして樹を目覚めさせますから待っていてくれですぞ!
ともかく、こうしてラフ種を創造したのでしたぞ。
「さーて、ラフ種の作成の裏でガエリオンも作ったモノがあるなの」
「次は何を作ったんですか、ガエリオンさん」
「フレオンとブラックサンダーをどうにかしてくれるのか?」
「もうガエリオンちゃんが元康くん並みに騒動を起こすようになってきてる気がするよ」
「にぎやかで良いじゃないの。お姉さん、最近楽しくて毎日が刺激に満ちてるわよ」
お義父さん達がそれぞれライバルへの不満を述べておりますぞ。
ですがお義父さん、心外ですぞ。
ライバルは常に問題を起こし続けるトラブルメイカーの寄生虫なのですぞ。
「今日はお披露目パーティーということで招待をしているなの」
「何を? そして誰を?」
「おーい。こっち来るなのー」
「あらー?」
「んー……?」
声で呼ばれてきたのは……サクラちゃんですぞ!
一体どういうことですかな?
最近は婚約者のところに遊びに行ったりして村を留守にすることも増えておりますぞ。
おや? サクラちゃんと一緒に婚約者も来ていますな。
「なにー?」
「四聖勇者の皆さん、こんにちわ」
どうやら村に遊びに来ていたようですぞ。
あとは助手ですかな?
そして……フレオンちゃんがやってきました。
「呼ばれて飛び出てフレオン参上です!」
「僕は距離を取ることにしましょう!」
シュバッと樹がその場から離脱し、遠くでこちらを観察しておりますぞ。
「あとはラフーにもコレをあげるなの」
ライバルはそういうとお姉さんに……見覚えがありますぞ。
ドレスアップコンパクトですぞ!
「またそれを作ったのですかな!」
フィーロたんの衣装チェンジ姿は目の保養になりましたがこのループでも作ったのですな。
「え? 何が始まるの?」
お義父さんがキョトンとした様子で見守っております。
「なの。みんな持ったなの?」
「ナオフミー、ガエリオンがね、これ持ってろってー」
サクラちゃんが持っていたものは、フィーロたんが持っていたコンパクトと同じデザインの代物でした。